| サンセンチ
そのニュービーは、ゲイルと名乗った。 緑色の髪と、人を見透かすような目をしていた。 ゲイルは、たった1人で俺達のところへ来た。そしてリーダーに会うなり、「俺が仕えるに値する男か、試させてほしい」と言った。それも、リーダーとの一騎打ちで。 リーダーはこれを受けた。 「戦闘エリアをムラダーラ第3階層北側に限定。レベル1までの武装を許可。一方の死亡、もしくは一方が継続の意志を放棄した時点で戦闘終了とする」 銃声を合図に、2人は戦った。 リーダーはエンブリオン最強の男だ。負けるはずがない。 だから、リーダーがあんなに苦戦するなんて、誰も思わなかった。 皆、2人から少しも目が離せなかった。 一進一退の攻防が続いて、結局勝ったのはリーダーだった。僅かなタイミングの差でリーダーがゲイルを捩じ伏せ、額に銃を突きつけていた。ゲイルは負けを認めた。 ゲイルは、サーフなら命を懸けられると言った。 リーダーも、ゲイルの力が必要だと言った。 エンブリオンは優秀な参謀を得た。 実戦でも、内務でも、命令以上の要求を汲んで動けるのはゲイルぐらいだ。ゲイルの提案する作戦で、どんなに不利な抗争にも俺達は勝利した。リーダーの傍にゲイルが控えているのが、当たり前になっていた。 「ゲイルはエンブリオンの要だ」 誰かがそんな風にゲイルを評価した。たぶん間違ってない。 だからこそ、俺は思った。 どうしてゲイルは、自分のトライブを作らなかったんだろう、と。 あれだけ強いなら、自分がリーダーになれるのに。 今までだって、リーダーと差しで勝負を挑んだ奴は大勢いた。でも、そいつらの目的はリーダーを斃してエンブリオンを獲ることだ。ゲイルは違う。あくまでも、ゲイルはリーダーを試した。 ……もし、あの時ゲイルが勝っていたら、どうなっていたんだろう。 そんなの、ゲイルが次のリーダーになるだけなのに。どうしてだろう、気になって仕方がなかった。 俺は、ゲイルをもっと知りたくなった。 自然と、ゲイルの行動を観察するようになっていた。 任務中はほとんどリーダーと一緒にいる。 でもプライベートになると、途端に姿を消す。長く時間が空きそうなら指令室に篭っているし、そうじゃない時は、アジトの入り口辺りを探せばいい。 単独で縄張りの外へ出ることは滅多にない。 自室を使うのは、着替えか短い仮眠を取る時だけ。よくあんなので体力が回復するなと思った。ゲイル1人で、10人分ぐらい働いてる。 何日目かの夜。その日は、ゲイルの部屋の明かりが点けっ放しになっていた。できるだけ足音を立てないように近寄って、ドアセンサーが反応しない位置で耳を澄ませた。 そうしたら。いきなりドアが開いて、部屋の中に引きずり込まれた。 目の前にゲイルがいた。フードを被っていないせいで、印象が少し違って見えた。 「敵状偵察は、もっと全方向に注意を払え。それから、お前の行動には計画性が薄い。事前にあらゆる場面を想定した戦略を立てるべきだ」 いつもの調子で説教されてしまった。 ここしばらく俺が観察していたことに、ゲイルはとっくに気付いていた。やっぱり、隠密行動は得意じゃない。 「サーフの命令か」 違う、と答えた。この前からずっと抱いていた疑問をぶつけてみた。追い出されるかと思ったけど、ゲイルはちゃんと聞いてくれた。 「俺の能力は、優秀なボスの下でこそ真価を発揮する。従って、ボスの地位に興味はない」 もし、ゲイルが勝ったら、どうするつもりだったんだ。 「俺ごときに容易に屈するようなボスであれば、そもそも手合わせなど願わない。俺の見立て通り、サーフは強かった。現に、俺が全力を出し切っても敵わなかった」 負けるとわかってて勝負したのか。あんた、変わってる。 「それはお前の主観だ。俺自身に何ら憂慮すべき点はない。――質問は以上か」 それからも、ゲイルを捜すのは止めなかった。今度はこっそりじゃなくて、堂々と。 「何故、後を付いてくる」 あんた、すぐどっかに行っちゃうから。 「何故、俺に興味を示す」 あんたが、変な奴だから。あんたが何を考えてるのか、知りたい。 「お前も十分奇妙だ。個々の思考傾向などという、戦力データ外の微細情報を得ることが、お前に何の益をもたらす」 一緒に戦ってる奴のこと、全然知らないより、知ってる方がずっといい。 「理解不能だ」 俺にも、よくわからない。 部屋の明かりが点いている時間が長くなった。同じスツールに背中合わせで腰掛けて、ゲイルが銃をチューンアップする。その間、俺は頭に浮かんだことを片っ端から尋ねた。 敵勢力の分析。 効率のいい白兵の扱い方。 皆のこと。俺のこと。 ゲイルのこと。 相変わらずゲイルは小難しくて、何を考えてるのかよくわからない。俺が喋らなければ、ゲイルも黙ったままだ。 けど、もうそれでもいいと思った。 手を伸ばせば、すぐ届く距離。体温を感じる距離。 俺の後ろにいるゲイルの背中は、とても温かかった。 <終> 【後記】 |