*050:お説教*



「オイ!!何でまでこっちくんだよ!」

「だって逃げ場所思いつかないから!」

「だったらそこの角をスグ曲がれ!!」

「そこからどうしろっていう・・・きたーー!!」

「お前ら!逃げるな!たるんどるー!!」


鬼の顔した真田副部長が、俺とを追いかけてくる。

俺は一人で逃げるつもりでいるのに、何を思ったかが俺の行くとこ行くとこついてくる。

ついてくんのはいいけどな、は悲鳴上げながら走るからどっちに逃げたのか真田副部長にバレバレなんだよ。



「赤也ー!」

「俺は知らねぇッ!!」

「お前ら待たんかー!」


遠くで真田副部長が叫ぶ声が聞こえる。

その声は確実にこっちに近づいてきてるし、真田副部長が角を曲がったら俺たちは視界に入るだろう。

そうなる前になんとか距離をとっておきたくて、俺はスピードを上げようとした。

をどうしようかと隣を見る。

そしたら、はもう歩いていた。



「オイ、!」

「もう無理…走れない」

「そんなこと言っても・・・」


バンと非常扉を叩く音がして俺たちは顔を上げた。

角を曲がって俺たちを見つけた真田副部長が、壁に片手をつきながらこっちを睨んでいる。

それから短距離選手も顔負けのスタートダッシュで、こっちに向かって猛ダッシュしてきた。



、逃げるぞ!!」

「…赤也一人で逃げて」

「ここまできて何言ってんだよ!」


俺はの手を引いて、また走り出した。

とりあえず今は真田副部長から遠ざかるしかねぇ。



「どこ行くの!?」

「今はどこでも・・・とにかく走れ!」


すれ違った教師に廊下を走るなと叱られたけど、教師なんかよりも真田副部長のほうが余程恐怖だ。

教師の言葉なんか、今の俺たちの耳には届いちゃこない。



「赤也、真田副部長いないよ!!」

「マジ??」

「うん・・・」

「でもまだ油断はできねぇ」


振り向いたら本当に真田副部長の姿が見当たらなかった。

遠くでさっき俺たちを叱った教師が何か叫ぶ声が聞こえる…もしかして真田副部長捕まった?

きっと真田副部長のことだから律儀に教師に説明でもしてるのかもしれない。

これはチャンスだと思ったけど、隣でが苦しそうにしてるのを見て俺はもう走って逃げることは諦めた。

こうなったらどこか隠れる場所を探したほうがいい。



「教室でいいかな?」

「とりあえず中入ろうぜ」


俺とは適当な空き教室を見つけて中に行った。

が椅子を引く音が、教室に響く。

俺はもうちょっと静かにしろと言ったけど、はどうでもよさそうな顔をした。



「疲れたー!!」

「すごいね真田副部長…」

「ま、真田副部長が怒る気持ちもわかるけどな」

「そりゃそうでしょ…。自分の鞄にエロ本入ってたら誰でも怒るって」


俺だったら怒らないけどとに言ったら、すげえ軽蔑した目で見られた。

本来男ってこーいうもんだと思うけどな。



「あれ仕組んだの仁王先輩だろ…」

「仁王先輩に渡された紙袋に何が入ってるかわかってたら、私絶対今こんなことになってない」


は怒った顔をしながら窓から見える仁王先輩を睨んでいた。

仁王先輩は最初から真田副部長をからかうつもりで、紙袋にエロ本を入れた。

どうしようか考えてるところに丁度俺とが来て、真田副部長に返してって頼まれた。

真田副部長は丁度部室にいなくて鞄しかなかったから、とりあえずと思って紙袋を真田副部長の鞄に入れてたら途中で真田副部長が帰ってきて。

お前等何してるんだと真田副部長が紙袋を開けたら最後…この鬼ごっこの始まりってわけ。

実行犯は俺らだってことになんのかよ。



「まぁ俺らも結果的に、仁王先輩に遊ばれてたんだろな・・・」

「こうなること仁王先輩は予想してたのかな」

「さぁな。俺らが説教されようとどうでもいいんじゃね?」

「・・・だよね、仁王先輩だし」


俺とは同時に溜め息を吐いた。

これからどうしろっていうんだよ。

最初のほうは真田副部長本気で怒ってるってネタにして笑ってたけどさ、もうこれ笑える話じゃねぇって。



「仁王先輩のばかー!」

「こんなとこから叫んだって意味ないっしょ」

「わかってるけどさ…」

「問題はこれからどうするかだろ」

「真田副部長に見つからないように、帰れるかな…」

「できたら奇跡だな」


仁王先輩、今頃他のテニス部員にも嘘ついてるんだろな…。

他のテニス部員に見つかった瞬間、捕獲されて真田副部長の説教くらうはめになるに違いない。

こんなときに幸村部長がいてくれたらな…きっとちゃんと話聞いてくれるんだろうけど。



「・・・!」

、どうした?」

「…足音!」


の顔が強張る。

確かに廊下の少し離れたところで足音がしている。



「何でもっと早く言わねぇんだよ!」

「だって…!ど、どうしよう!」

「…仕方ねぇ!」


周りを見回したけどまともな隠れ場所なんか見つからず、唯一俺の目に飛び込んできたのは、掃除用具を入れるロッカーだけだった。

急いでロッカーを開けて中を確認すると、なんとか人2人入れるくらいのスペースがあった。



「これに入るの!?」

「仕方ねぇって言ってんだろ!早く入れ!」

「あ、赤也もはいるの!?」

「何で俺だけ見つからねーといけねぇんだよ!」


俺は無理やりの体を掃除用具入れに押し込んだ。

自分も入って、ドアを閉める。



「狭い…」

「おまっ!足踏むなよ!」

「ご、ごめん…」

「きたぜ・・・!黙っとけよ」


真っ暗な掃除用具入れの中は汚くてかなり狭い。

当然、と俺の体は必然的に密着状態になる。

さっきには感じなかったの温かさと髪の毛からするシャンプーの匂い。

集中しろと俺は自分に言い聞かせた。

そして頼むから真田副部長にこの場所が見つかりませんようにと祈った。

の顔の横についている俺の腕、俺を押し返そうとしたそのまんま、俺の胸のあたりにあるの手。

誰が見ても怪しい場面しか想像しない、開けられたら相当ヤバいシュチュエーションだ。



「・・・真田副部長かな?」

「・・・まだわかんねぇ」


小さな声で話す。

きっとこれくらいだったら大丈夫だ。



『ここだったら誰もいない?』

『何言ってるんだい、誰もいないよ』

「この声…」

「クラスメイトの奴ら・・・だよな?」

「たぶん・・・」


外から聞こえてきた声は聞き覚えのある声だった。

男一人、女一人で真田副部長じゃないのは確実だ。

でもだからと言って掃除用具入れから出るわけにもいかない。

俺はどのタイミングで外に出ようかと考えていた。



「ねぇ、赤也・・・」

「なんだよ」

「なんか様子・・・おかしくない?」


耳を澄ましていたが俺に聞く。

俺も考えるのをやめて、声を聞くことに意識を集中させた。


『でも、やっぱり・・・』

『ここだったら大丈夫さ』


ちょっと待てお前等…何か嫌な予感がしてきたんですけど…。

もその雰囲気を感じ取ったらしく、何も話さない。



『んっ・・・』

「ど、どどどどどどうしよう赤也」

「出る?」

「無理に決まってるでしょ!」


俺は冷静を装ったけど、内心と同じくらい焦っていた。

おいおいおい、こんなとこで何始めんだよ!

しばらくお前等のにゃんにゃん聞いてろってか!?




がたんっ



「!!」


が俺のユニフォームを握る。

ヤバイヤバイヤバイ、あの2人本気でヤり始めたんじゃねぇの?

あれ、明らかに机が倒れた(もしくは机の上に倒された)音だろ?



『ん・・・ぁっ・・・』


びくっとが動いた。

お2人さん、ここ学校だから!!って通りがかりの切原赤也だったらそう突っ込んだとこだろう。

あー…ヤバい、俺もそろそろヤバい。

掃除用具入れの中で女と密着してる中、外から聞こえる他の女の喘ぎ声聞くってどういうプレーだよ。



「赤也…」

「ヤベぇな・・・」

「どうしよう・・・いつまでここにいなきゃいけないの!?」

「あいつらがイクまで?」

「!?」


暗闇に慣れてきた俺の目がの顔をとらえた。

は本当に怯えた表情をしていて、こんなこと考えたらいけねぇのかもしれないけどそんなにすごくそそられる。



「あのさ・・・」

「…何?」

「ヤバいんだけど…」

「わかってる!」

「そうじゃなくて…」

「何なの!」

「俺が」

「!?」


に顔を近づける。

近づけるたって、ほんの少ししか動かねぇけど。

俺の唇に温かいものが触れる、と同時に手も柔らかいものに触れる。



ごんっ



「いってぇ!!」

「赤也!?」


唇を離して、暗闇の中でお互い見つめあうこと数秒。

曲げた肘が掃除用具入れの壁にぶつかって、思わず俺は大声を上げた。



『ちょっと、今の何なの!?』

『に、逃げよう!』


外にいた人間は慌てて教室から逃げて行ったようで、バタバタと荒い足音が遠ざかって行った。

再び足音も、物音もしなくなった。



、出て・・・」

「うん・・・」


が扉を押す。

眩しいくらいの光に、思わず目が眩む。



「もう、何であんなことしたの!」

「仕方ねぇだろ、誰だってあんな声聞いてたら・・・」

「馬鹿赤也!」

「ちゃんとヤバイって予告しただろっ!?」

「そういう問題じゃない!」


教室の中をぐるっと見回す。

開きっぱなしのドアが目に飛び込んできた後、そのドアの少し離れたところに不自然にずれている机があった。



「あいつ等ここでヤってたな・・・」

「またそういうこと言う!!」

「もう真田副部長も来ねぇだろ・・・、俺らも・・・」

「ちょっ、赤也!?」


いや、流石に学校でヤるのには無理があるよな。

さっきの現場で使われていたハズの机に、俺はを座らせた。



「赤也…」

「気にすんなって」

「でも、んっ・・・」






「お前ら・・・」

「「!?」」


首が機械でできてんじゃないかと思うくらい、ぎこちない動き方をした。

冷や汗が背中を伝う。

俺の後ろにいるその人を見て、は目を見開いている。



「さ、真田副部長…!」

「教室で接吻とはいいご身分だな…」

「接吻ッ!!」


真田副部長の言葉に噴いた俺を、がつねる。

確かに今はこんなことに笑っている場合じゃない。



「お前ら・・・覚悟はできているな?」

「「に、逃げろーー!!」」




















あとがき

真田さんがなんか古臭い人ですが・・・あの方に、「キス」という言葉は似合わないような・・・。
こんな作品を読んでくださってありがとうございました。

2011.10.27 加筆修正