!長編に関する注意!
・愛犬を亡くしてしまった夢主と失恋した仁王の話です
・赤也が登場して三角関係になる描写があります
・仁王の元カノが登場します
・仁王が病んでいる時期があります
・夢主が病んでいます
上記の要素が含まれますので苦手な方はご注意ください。
以上を了承の上での閲覧をお願い致します。
スクロールいただくと本編が始まります。
ねぇ、どうしていないの?
いつも一緒に寝ていたのに、どうして?
どこにいるの?
お願いだから返事をして……
*ちゃぴ 01*
また夢を見た。
一時は見なくなっていたのに、最近またちゃぴの夢を見るようになった。
私はゆっくりと起き上がって目を擦る。
この夢を見たあとはいつも苦しくて悲しくて、寝ていたときから目が覚めた今でもずっと、私の目からは涙が止まらなかった。
なのにベッドを振り返ってみても、そこにもうちゃぴの姿はない。
ちゃぴが死んでからもう1ヶ月が経った。
なのに私は今でもその現実を受け入れられずにいて、今でもどこかにちゃぴがいないのかとちゃぴの影を探している。
早起きするのもちゃぴの散歩のためであって、ちゃぴがいない今早起きをする必要は私にはない。
でも13年間続けていた習慣を今更変えることができず、私はこうして何もすることのない30分間をベッドに座って過ごしていた。
一ヶ月経っても何もかわらない現状……私は一生こうして朝を過ごすのかもしれない。
学校に行けば少しは気が安らいだ。
家にいるとちゃぴのことばかり考えてしまって、ぼーっと過ごす時間が増えていた。
こうして学校に向かいながら私の体や脳は学校モードに変わっていく。
この過程がなくなれば私の意識は無意識にちゃぴに注がれることになるだろう。
今の私にとって学校は、勉強をするためでなくちゃぴのことを忘れるために行くようなものだった。
大好きなちゃぴのことをどうして忘れなければいけないのか私にはよくわからないけど、友達や母親は口を揃えて忘れたほうがいいと私に言った。
それが私のためなんだと、あんなにも2人がはっきり言うから私にはそれが正しい行いなのだと思うしかない。
そうだ、そうなんだと自分に言い聞かせた。
ちゃぴが死んでから私はこれを毎日、立海の校門を通るときに唱える。
そしていつもならそのまま校門を通って下駄箱に行くというルートで教室に行く。
なのに、今日は校門を通ろうとした私に何かがぶつかってきた。
何が起こったのかわからなくて動けないまま何回か瞬きをする。
「あッ、すみません!大丈夫っスか!?」
「あ……大丈夫です」
男の子の声で私はやっと、自分が人にぶつかられたんだとはっきり認識した。
全く予想していなかった出来事だったので、私はぶつかられた反動で地面に尻餅をつくはめになってしまったようだ。
男の子はしばらく動かなかった私を見て焦ったのか、持っていた鞄を全部投げ出して私のほうに近づいてきた。
私はたくさんの生徒に見られているのが恥ずかしくなって、咄嗟に下を向いた。
「……何しとるんじゃ赤也」
「に、仁王先輩!?いやその、俺とこの子がぶつかってしまって……」
「可哀想なことするのぅ赤也は」
「わざとじゃないっスよ!」
「後輩が迷惑かけてすまん。大丈夫か?」
相変わらず顔を上げられないまま第二の人物が登場したことに私は困惑した。
そして後輩、先輩という単語を聞き取りながら、なんとなく私はその2人の関係について考えていた。
黙って話しを聞いていると、どちらかの人が私に手を差し伸べてくれた。
私はその手を掴もうと顔を上げる……でも手を掴むことができず、私の手はおかしなところで動きを止めてしまった。
声を出したいのに声が出てこず、私は口を開いたまま手を差し伸べてくれている男性を見つめる。
「ちゃぴ……?」
やっと搾り出した私の声は驚くほど小さかったけど、でも2人の耳にははっきりと私の言葉が届いていたらしい。
2人が顔を見合わせた後、もう一度私を見つめた。
「ちゃぴ……?ちゃぴなの……?」
「……ちゃぴって何スか先輩?」
黒髪の人が銀髪の人を見つめて言う。
銀髪の人は黙ったまま私を見つめていた。
私も銀髪の人を見つめ返す。
目の前にいた銀髪の人は、どう見てもちゃぴだった。
少し前より大きいし人間のようだけど、でもちゃぴだ。
ふさふさの銀色の毛並みに赤いゴム、顔までもが全てちゃぴのものだった。
「ちゃぴ……じゃないの?」
「何言ってんスか、この人はにおう」
「ちゃぴか……そう呼ばれていたこともあったのう」
「え、先輩!?」
ちゃぴがうんうんと頷きながら、顎に手をあてている。
黒髪の人が信じられないものを見るかのようにちゃぴを見ていた。
「つか先輩!もうチャイム鳴りますよ!」
「赤也、俺はまだこの子と話すことがあるから先に行きんしゃい」
「はぁ?」
「話さなきゃならん思い出話がたくさんあるんじゃ」
「……わかったッス」
黒髪の人は後ろめたそうになんども振り返りながら、下駄箱の人ごみに消えた。
残された私とちゃぴは黙って見詰め合う。
ちゃぴは優しい笑みを浮かべていた。
「……今までどこにいたの?」
「すまんすまん。泣くのはいかんぜよ」
自然と私の目からは涙が溢れて、それが地面にポツポツ落ちていった。
ちゃぴは少し呆れたようにしながらも、優しく私の頭を撫でてくれる。
そのままちゃぴは私を立たせて、近くにあったベンチの方へと誘導してくれた。
「ねえ、今までどうしていたの?」
「んー、それは秘密じゃの」
「どうして!?隠し事はなしだよって約束したのに……」
「今はまだ秘密。また話すときがきたら話すから気にしなさんな」
そう言ってからちゃぴは私の頬に伝っていた涙を指でぬぐってくれた。
昔と同じようにしてくれるちゃぴに、私はうれし泣きしそうになる。
「……どうして人間の姿をしているの?」
「起きたらこうなってたんじゃ」
「犬から人間になってたの?」
少し悲しそうな顔をしてちゃぴが頷いた。
ちゃぴが昔の自分の姿を見たいと言ったから、私は携帯に保存してあるちゃぴの写真を見せてあげた。
ちゃぴはとても真剣に写真を見ていて、全て見終わったあとに少し自分の携帯に送って欲しいと言った。
いつでも自分の以前の姿を思い出したいからと切なそうに笑うちゃぴに、私は胸が締め付けられる思いがしながら、ちゃぴに数枚写真を送ってあげた。
そして今は私の家に帰ることは簡単ではないから、とちゃぴの連絡先を教えてくれた。
私もちゃぴに必要とされたくて、連絡先を教える。
「ちゃぴはね一ヶ月前に亡くなったんだよ。……でも、本当は生きてたってことなの?」
「中身だけこの体に入ってしまったんじゃ……多分」
「寿命が迫ってるちゃぴを、神様が助けてくれたのかな?」
「きっとそうぜよ」
気がつけばもう授業が始まっていた。
授業をサボったのは初めてだけど、ちゃぴと一緒にいられるならそれでいい。
しばらくしてちゃぴはそろそろ教室に行ったほうがいいと立ち上がった。
丁度1時間目の授業が終わったところで、私は荷物を持ってベンチから立ち上がる。
「……また会ってくれる?」
「もちろん。俺もに会いにいくぜよ」
「……ありがとう。じゃあまたね」
ちゃぴと別れてそれぞれの教室に戻った。
いつもなら校門で意識を入れ替えてから入る教室だけど、今日は完全に学校の私と家にいる私は同じ私だ。
もうちゃぴのことを忘れる作業はしなくていい、だってちゃぴは生きているんだから。
夢なら覚めないで
(もうあんな寂しい夜はいらない)
あとがき
ふっとおりてきた仁王ネタ、ついに書いてしまいました。
毎回のことですが仁王が難しい……こんなん仁王じゃないわ!と思った方、すみません……!
今回「ちゃぴ」がタイトルなので、ちゃぴが変換できないようになっているのが申し訳ないです。
ちょっと痛い系主人公?という雰囲気の始まりですが、これからどんどん元気になっていくのでそのあたりはご心配なくです。
切なかったり甘かったりしようと思っております!
お付き合いいただければ嬉しいです
2011.11.05