は俺の気持ちに気付いているんだろうか。

家に帰る途中、そんなことばかり頭に浮かんだ。



*純愛タワー 02*



何かがおかしいって思うのは、俺の勘違いかもしれない。

そうあってほしいっていう気持ちもある。

でも、それを確かめる術っていうのは本人に聞くことしかない。

もしくは…椿に聞くという選択肢もあるかな。

でもきっと椿は何も言わないんだろう。

事実、違和感を感じたのはからだった。

あの椿が、ここまで何食わぬ顔で過ごしているっていうことには驚くしかないけど。

=椿っていう方程式が頭の中で出来上がってるあたり、俺はもう負けてるかもな。

いや、法律上は俺のほうが勝ってるって言えるのかもしれないけど。

この問題はサッカーみたいな勝ち負けの問題じゃない。

人の気持ちっていうのはそういう意味ではすごく厄介だ。



「ただいま」

「!?猛くん?」


玄関で俺が立ち尽くしていると、の驚いた声が聞こえた。

あまり家に帰らないから、俺が帰るとはいつも驚く。

いつもはそんな反応が嬉しいのに、今日はいつもと違った。

心の中の俺が言ってる。「俺が帰ってきたら困ることでもあるの?」って。



「おかえり猛くん。今ね、掃除してたところなの」

「邪魔した?」

「全然。でも猛くんは落ち着かないかも。掃除機かけてたから」

「俺は気にしないよ。何も連絡しないで返ってきた俺が悪いんだし」

「変なの。ここは猛くんの家なのに」


はくすくす笑うと、どこかへ歩いていった。

少しして掃除機の音が鳴る。

俺は洗面所に行って、手と顔を洗った。

鏡の中の俺はいつもと同じ表情でこっちを見てる。

心の中はこんなにも穏やかではないのに。



「なんでこんなことになったんだろうなー…」


俺のこぼした愚痴は、掃除機の音に吸い取られていった。










夕食を食べ終わって、二人でリビングのソファに座った。

が食器を片付けなきゃと立ち上がろうとしたけど、俺はにどこかへ行ってほしくなくて、それで咄嗟にの手首を掴んでキッチンへ行くのを阻止した。



「猛くん?」

「俺も後で手伝うからさ、今はここにいてよ」

「猛くんは手伝わなくていいのに…私の仕事だもの」

「家事頑張ってる妻に対して、俺だってたまには何かしないと罰が当たっちゃうでしょ」

「そんなことないと思うけどなぁ…」

「とりあえず今はここにいて」


そう言って無理矢理ソファに座らせた。

それから座ったの太ももに頭を乗せて、が動けないようにした。

一瞬の顔を見たら、はすごく驚いた顔をしていた。


俺たちはいつから、お互いに甘えるということをしなくなったんだろうか。

付き合い始めた当時、きっとドライな関係ではなかったと思う。

人前でイチャチチャするほどでもなかったけど、お互いにきっと恋人としての甘い時間を楽しんでいたに違いない。

俺が海外に行くと言ったとき、は日本で仕事を続けたいからと日本に残った。

俺はそれでもいいと思っていた。

にはの人生がある。

でもだから別れるとかそういう考えに至るようなことは決してなかった。

出発前、待っていてほしいと言った俺に対しても笑顔で送りだしてくれたのを今でも覚えている。

は泣きもしなかったし笑顔で送り出してくれて、それはそれで少し寂しかった。

後から後藤に「ちゃん、お前の前では強がってたけどあの後大変だったんだぞ」と言われたときは、俺にはもうこの人しかいないんじゃないかと思った。

同時に、を日本に置いてきたことを後悔した。

仕事なんて捨てて、俺の傍にいてほしい、そうじゃないと俺死んじゃうよって、どうして口にできなかったんだろう。

今となっては後悔することしかできないことだけど、未だに俺のあの時の決断は考えさせられる。

俺たち、あの時一緒にいたら今みたいなことにならなくて済んだのかな。

椿とがどんな関係なのか俺には全然わかんないけど、普通に笑えてたのかな。



一緒に見ているテレビの内容なんて全く頭に入ってこなかった。

俺の頭を占領してるのは、今のと当時のと俺の過ちだけだ。

しばらくはこうしてフットボールのことを忘れて、のことで頭をいっぱいにしていたい。

俺はきっと、に対して安心しすぎていた。

きっとならいつどんなときでも俺のことを見てくれてて、俺についてきてくれるって信じてた。

俺はなにもにしてあげれてないのに、ただそんな自信があった。

はいつも俺と一緒にいてくれるっていう自信。

なあ、今の気持ちはどこにある?誰のこと考えてる?

もし俺がまた海外へ行くって言ったら、あの時みたいに泣いてくれる?

もしくはついてきてくれる?

今の俺にはそんな質問ですらもにする自信がない。























あとがき

長編になってしまいました^^
最初は椿夢だったんですが、これは達海さんサイドも書いたほうが面白いかなと思って、そうしたら一発で終わるような作品ではなくなってしまいました。
どちらか片方を選ぶっていう夢って複雑だから書くの苦手なんですが、ちょっと頑張ってみようと思います。
これ常にシリアスだよなぁ・・・。



2012.01.06