「今日も絶好調やわぁ」
「当たり前やろ小春!なんたって俺らは」
「「四天宝寺最強ラブルスや!」」
*二人組愛*
こんなにこの人らに殺意が湧いたんは久しぶりや。
こっちは朝早うから朝練あるて言うから嫌々起きて、とりあえずラケット振っとこかっちゅうくらいの勢いでコート立って、まあテニス部員なんやししゃーないわて思うとるくらいやねん。
俺はさんと一緒に学校に来たかったんや。
他の生徒がおるからってあんまり一緒に学校に行くの快う思うてないみたいやけど、それでも一分一秒でもさんと一緒におりたい。
同じクラスの部長や謙也さんがずるいし悔しい。
俺は少しでもええからさんとの隙間を埋めたいんや。
やのに、俺の目の前におるこの生物は一体何なんや。
何がラブルスやねん、気持ち悪いわ!
俺とさん以外のモンが愛を語るん許されるとでも思うてんのかド阿呆。
ラブラブなんは俺とさんだけでええんや!
日本中、大阪中て言うたら範囲ちょお広すぎるかもしれへんから、そこは四天宝寺中で許したる。
四天宝寺中でラブラブなんは俺とさんだけでええんや、あの二人やなくて俺ら二人や!
ああああ、こんなこと考とったらさんにめちゃくちゃ会いたなってきたやん、どないしてくれんねんあのボケ!
ああああ、会いたいんですさん、さんさん…
「白石くんおはよぉ」
「おぅ、おはようさん」
「光くんんは「さぁぁああん!!」
ああああ、どないしよう俺泣きそうや。
ほんまにさんがここに現れたのも泣きそうやけど、一番に声かけたんが白石部長やってことのほうが泣きそうかもしれん。
ちゅうか俺もう泣いとる。
「さんさんさぁん!」
「ちょお、どないしたんよ光くん」
「な、んで!ぶちょ…ぶちょに、声かけた、んや…!」
ラケットはどっかに放ってきた。
ラケットなんかどうでもええねん、抱きついとるさんが俺の腕の中でぶちゅって潰れても、めちゃくちゃ悲しいけどそれはそれでええとする。
とりあえず今はこうしてたいねん、やからお願いやから突き放そうとせんといてください…!
「白石くんに声かけた?(どうしよう、なんか知らんけどめちゃくちゃ泣いとる)」
「俺と、ちゃう、くて…、ぶちょうに、挨拶、した…!」
「やって入口におったんが白石くんやったんやもん(そんなことで泣いとるんですか…)」
「嫌や!そんなん俺は嫌や!」
俺の顔がどうなっとるとかそんなんは知らん。
でもさんが汚いで光くんってティッシュで顔拭いてくれたからそれでええんや、おおきにさん…。
いつのまにか俺の腕の中から抜け出して、さんに頭ぽんぽんされとんのも嬉しいからそれでええねん。
ほんまはもうちょいぎゅうってしてたかったんやけど。
「朝から忙しいわねェ」
「ご、ごめんね金色くん」
「まあーでも俺らのほうが朝からラブラブしとったけどな!」
「んもぉー、ユウくんったらぁ!」
「そんなん嘘やあーーーーー!」
俺がいきなり大声を出したせいか、一氏先輩の動きも小春先輩の動きも止まった。
さんも持っとったティッシュを地面に落とした。
でもそんなん関係あらへん、俺は今めちゃくちゃ怒っとる。
何のつもりなんやあの二人組は。
俺らのこと心配して(?)こっち来たんと違うんか。
自分らの自慢したかっただけなんか!
しかも聞いとったら言うやないか、俺らのほうがラブラブしとったやて?
阿呆ぬかせ、どう見たって今の俺とさんのほうがラブラブや!
どこからどう見たってラブラブなんや、そうに決まっとる!
また形勢逆転した俺のぎゅうで潰れそうになっとるさんの顔を見てみぃ、どう見たってさんやってそう思うとる!
「一氏先輩、小春先輩、勝負や」
「「勝負!?」」
「光くん?」
「俺とさんのほうがラブラブなんや!どっちのほうがほんまにラブラブなんか勝負や!」
「え、ちょ、財前?」
「勝ったらラブルスの称号は俺らのんや!」
部長が笑いながら「涙目で言うても全然迫力ないで」って言ったけど、言うてもうたモンはしゃあないやろ!
さんが不安そうな顔で見てくるけど、そんな心配なんてせんてええ。
俺テニス強いんやで、それにさんの不安気な表情がツボすぎてこれ見れただけでもとりあえずよしやろ。
「誰とタブルス組むん?」
「そんなんさんに決まっとるでしょ」
「え、やっぱり私なん!?無理無理、そんなん絶対無理やって!」
涙目のさん可愛ええ…やからそんなに心配せんてもほんまに大丈夫やのに。
先輩が応援してくれはったら、それだけで勝てるような気がするんやで。
同じコートに先輩が立ったらどうなるんやろ、俺緊張と嬉しさで飛ぶかもしれんな…あかん、俺倒れたら試合負けや。
* * *
昼休み、作戦会議中。
俺とさん、部長と謙也さんは円になって弁当食いながらいろいろ話し合う。
「ほんまに勝ちたいんやったらさんの指導は俺に任せたほうが無難やで」
「い、嫌っスわそんなん!」
「まぁ財前の気持ちはわからんでもない。でもな、白石が教えるんと財前が教えるんやったら白石のほうが上手いんとちゃうかって俺も思うで?」
謙也さんに真実を言われて俺は黙り込んだ。
そんなん俺やってわかってる、部長のほうがこういうことは上手いんや。
俺はいろいろ考えてテニスしとるわけやないし、こんなん言ったら失礼やけどなんとなくでできることがほとんどや。
部長みたいに努力して手に入れたもんなんてないに等しい、でもだから部長が強いんやって俺もわかっとる。
「わ、私は誰に教えてもらっても嬉しいで?…試合でお役にたてる自信はないけど」
「まあまあもそう言わんと。財前は勝つ気でおるんやし」
「当たり前っスわ、俺一人でも勝てるに決まっとる」
「強気やなぁ財前は。でも天才一人と全国区のダブルスで戦ったら、普通に考えたらダブルスが勝やろ」
「…」
「ほんまに私頑張る!めっちゃすごい球とか打てんくても、光くんの足手まといにならへんくらいには頑張りたい!」
「さんもこう言うてるんやし、やっぱりちゃんと練習はしとくべきや(ぶっちゃけ俺はさんに接近できたらそれでええんやけど)」
「天才の力は試合で発揮したらどないや?(白石と一緒におったら俺やってチャンスはあるやろ!)」
俺にはもう頷くっちゅう選択肢しか残ってへんかった。
さんは少しでも強くなれるように頑張る!と意気込んではる。
しゃあないから俺は横で練習中のさんを観察する役になることにしますわ。
テニスするさんなんて滅多に拝めへんのや…!
* * *
「さん、ボレーっちゅうんはな?」
「ああああ!何してんねん部長!あかんあかん、くっつきすぎや!」
「(うるさいな)何言うてるねん、こうでもせんとちゃんと教えられへんやろ?」
「なんで後ろからさんに抱きついて手まで握っとんねん!」
「ラケットの持ち方やって教えなあかんやないか」
この絶頂エロ野郎、結局これが目的なんやろ!
放課後になって早速さんの特訓が始まって、今はまさに白石部長によるテニス講座の真っ最中や。
確かにこの人教えるんは上手い、説明わかりやすいし初心者にできること、できんことをちゃんと理解しとる。
そこは褒めたる…でもな!
「白石先生!」
「何や財前(こいつさっきから面倒くさいな)」
「生徒に触りすぎやと思います!そんなんセクハラとちゃいますか?」
「セクハラとちゃいます、勘違いは無用です」
さんが笑顔で俺に手を振ってくれた。
ボレーできるようになったんやでと、嬉しそうに白石部長の投げたボールをボレーして見せる。
ああああ、可愛ええ…ここに俺とさん二人だけやったらもっとよかったんやろな…!
「おっ、なかなか上手いやないか!」
「忍足くんありがとう」
「謙也さんあかん!離れてください、ちゅーか離れろ!」
「日増しに財前は酷なる一方やなぁ…」
「忍足くんそれ本人気づいてへんから言ったらあかん」
正直全校目指しとるようなチームが練習時間にこないなことしとってええんかって思うけど、部長は俺の申し出にため息つきながらも了承してくれはった。
オサムちゃんも笑いながら息抜きも必要や言うて(俺は本気や!)、そのまま何も言ってこんかった。
今こうして全員でさんの指導しとるテニス部を見とると、なんやそれだけで少し嬉しなった。
でもそれは同時にライバルも多いっちゅー話や。
白石部長に謙也さん、あの二人は絶対に要注意人物。
ユウジ先輩と小春先輩やって、今回の対戦相手やのに一緒にさんの練習しとるとか正直意味がわからん。
ああああ、お願いッスわさん、俺のことだけ見とってください。
俺はもうさんのことしか見えへんねん!
「それじゃあ、今から試合始めるで。準備はええな?」
「負けへんで財前」
「何言っとるか聞こえませんわ」
「ハイハイ、それじゃあ今からラブルス対新ラブルスの試合始めるで」
「「「「お願いしまーす」」」」
審判は白石部長、俺らは部長の掛け声とともに礼をした。
さんは制服でテニスやるわけにもいかず、かと言って練習のときみたいに体操服でやるのも味気ないからと上だけ俺のユニフォームを貸したった。
体操服姿もめちゃくちゃ可愛かったけど、ダボダボユニフォーム姿は激レアや。
「試合前に写真撮らせてください」
「えっ、写真撮るん?あかんあかん!恥ずかしいし!」
「今を逃したら次がないんや!」
俺はさんの言葉を押し切って携帯のカメラで写真を撮りまくった。
ほんまに恥ずかしいんか、先輩の顔がどんどん赤くなる。
大丈夫ッスわ、ちゃんとさんが赤くなる過程は収めてあるで…!
俺がパシャパシャやっとると謙也さんも紛れて写真撮っとった。
撮影許可のない方の撮影は禁止しとるんですけど!
「…財前、もうそろそろええか?」
「こんだけあったら何日かもつし、もうええっすわ」
「光くんさっきの写メ何に使うつもりなん…」
「そんなんここでは言われへん!」
ラケット持ったまま立ちつくすさんをぎゅうしながら言ったら、さんに阿呆って言われた。
阿呆ついでにさんにお願い聞いてもらおー。
「さん、この勝負に勝ったら今日お持ち帰りしてもええですか?」
「…それはどういう意味なん?」
「テイクアウトっスわ」
「そうちゃうくて!お持ち帰りして何すんの!」
「えっち?」
「ぎゃああああ!」
さんは首とラケットをぶんぶん振って何かを表現しようとしてはる。
俺には意味がようわからんけど、初めてみるさんの様子はなんでも可愛ええ。
「もし負けたら慰めるためにちゅうしてくれはりますか?」
「せえへんよ!そんなんせえへん!」
即答されてかなりショックやったけど、きっとあれは照れ隠しなんや、そうに決まっとる!
さんにお持ち帰りはなしでと約束されて、ほんまはそんな約束したなかったけど、あまりにもさんがお願いしてくるから勝ったらちゅうしてもらうことにした。
さんには何も了解とってへんけど今勝手に決めた。
これくらいやったら俺にも許されるはずや。
試合は見事に試合にならんかった。
負けたっちゅう意味とちゃう、正確に言うなら試合には勝った。
でもペアはずっと俺とさんやったんちゃうくて、試合が始まってしばらくしたら俺がコートから出されて何故か小石川副部長がコートに立ったり、副部長と交代した白石部長がペア組んだり、謙也さんが乱入したりした。
仕舞には俺と副部長とか、俺と謙也さんがペアやったりした。
要するに俺のチームはペアの入れ替わりが繰り返された。
「楽しかったね、光くん」
「…」
帰り道、俺はチャリを押しながらさんを家まで送る。
さんが笑顔で話しかけてくれてはるのに、何て返したらええかわからんかった。
「光くんは楽しくなかったん?」
「楽しかった…んやろか」
「私は光くんと一緒にテニスできて楽しかったよ?それに、休ませてもろてる間光くんがテニスしてるとこも見れたし」
「…」
「私と一緒やったらやっぱり100%は力発揮できひんやんか?やっぱテニス部の人とテニスしてる光くんはすごかったわ!天才って呼ばれてるだけある!」
さんの手が俺の手を握った。
俺の手のひらを優しく撫でながら先輩は微笑む。
「ほら、手がこんなにマメだらけや。いつも光くんが頑張って練習しとる証拠!」
「…おおきに」
「今度は光くんからもテニス教わりたいなぁ」
チャリがあるから片手でさんを抱き寄せた。
俺今めちゃくちゃ幸せや、チャリなんてほっぽりだして両手でさんのことぎゅうしたくてたまらん。(カゴにさんの鞄が入っとるからそんなことはせん)
「さん…」
「どしたん?」
「やっぱさんのことお持ち帰りしたいッスわ」
「…いつか、ね」
あとがき
財前が見事にちゃちゃ入れてくれるので長くなってしまいます(笑)
もはやデレデレというか変態
2012.04.03