「最近よく財前くん教室にくるよね」

なんていつの間にか仲良くなってるし、ずるー」

「ま、まあね!」

「財前くん、今日も来るんかなあ?」



*秘密をつくろう*



光くんがあんな子だなんて、光くんのファンには言えない。

こんな残酷な(?)真実を知ったらびっくりどころの騒ぎじゃないやろうし、あんたのせいや!なんて攻められたら私泣く。

あの財前光が謎の一面を持っていること、まずこれが秘密の一つ。

あともう一つの秘密、私の友達を含む周りの子たちがどうしてこんな反応をするんか。

それは私と光くんが付き合ううえで、決まりごとがあるから。

私が一方的に押しつけた決まりごとっていうんは…しばらくの間(いつまでかという期間ははっきりさせていない)私と光くんの関係をみんなに黙ってるということ、決まりごとでもあり秘密でもある。

それを口にしたとき光くんは眉間に皺をよせながらぶりっ子声で「えー…」と抗議した。

そんな可愛え顔で、可愛え声で言うなよと言いたい…光くん調子乗るから絶対に言わんけど!



さんおはようございます」


決まりごとのことを考えていると知らん間に光くんが教室の入り口に立っとって、少しもじもじしながらこっちを見ていた。

友達はもじもじしとる光くんの登場に驚きを隠せないといった感じだ。

明らかにいつもと様子が違うのを怪しんでいる。

朝はほぼ毎日こうして光くんが挨拶にくるのに…なのにそれを忘れて友達と一緒にいた私も阿呆やったけど。

光くん、まさか決まりごと破りたいんとちゃうやんね?



「おはよう財前くん」

「おはよう、最近毎日くるねー」

「…はぁ」


今のは溜め息ちゃうくて、光くんなりの相槌。

友達に話しかけられると、光くんは面倒くさそうに返事をした。

さっきのもじもじした光くんはどこへやら、半開きの目で友達を見下ろす彼がそこにいた。

うわぁ、なんやその態度の違いわ!

急に態度がコロっと変わったらそれはそれで怪しいやんか!



「おはよう…白石くんたちはあっちやで」


私は話題を逸らそうと必死に話を持ちかけた。

友達に気付かれへん程度に「白石くんたちはあっち」を強調して言う。

光くんはやく向こうへ行きなさい、これ以上はもうフォローできへん…!

一方で白石くんと忍足くんは二人して窓辺で談笑中。

あの二人絵になるなぁ…きっと光くんが一緒やったらもっと絵になる。

はぁ…、なんで自分の身を守るために作った決まりごとやのに、その決まりごと守るためにこんな苦労せなあかんの!



「えっ、さ…」

「白石くんたち呼んだげよか?」


私が白石くんのことを切り出すと光くんは目を見開いた。

なんで驚くんや、驚くようなことなんもないやんか。

君は白石くんたちに会いに来た、そして偶然入り口近くにいた白石くんの友達である私を見つけて挨拶した。

やから私はここから白石くんと忍足くんを呼んであげるんやんか、それで引き継ぎ無事完了。

…即興で作ったけどそんなシナリオやったらあかんの?



「うっ…、さ…」

「!?」


私が早口で捲し立てるようにした後、目を見開いた光くんは急に俯いて、制服のズボンをぎゅっと握りしめた。

ちょおちょおちょお、あかん!これは危ないあかん!

これはまさかとは思うけど、泣き虫光発動するんちゃうん!?

泣き虫光は絶対あかん!

デレデレもあかんけど、あんたクールキャラで通ってるんやろ!

クールで毒舌、先輩にも生意気な財前光なんやろ!



「あっ、ああー大変や!目になんか入ったんとちゃう?」

「え、ほんまに?財前くん大丈夫?」

「あー、あかんあかん!こういうのは擦ったら一番あかんねんで!ここは白石くんを…」


ここで私が付き添いなんてしようもんならいろいろ怪しい、光くんと二人きりになりたいんやなって勘違いされかねへん。

ここはセオリー通りに、保健委員の白石くんを呼んでやな…!



「めちゃくちゃ痛いっすわ-(棒読み)、我慢できんからさんはやく」

「えぇっ、ちょ、白石くんを…」

「行くで」


目になんか入った人を演じてくれてたんちゃうんですか!

最後何でそんな強引なんよ!

そして白石くん、全く気付いてないし!

白石くんの周りにいる女子、今日だけはあんたらのこと恨むわ…!















光くんに腕を掴まれてトイレの前まできた。

こんなとこまで引っ張られてまさかほんまに目が痛いんかと思ったけどそんなはずもなく、教室から離れた光くんは途端にしれっとした顔になった。

えっ、まさかさっきの嘘泣きやったとか…?



「俺白石部長に用があるんとちゃいますけど」

「知ってるけど…あんな露骨やとばれるやん…」


こっちを睨む光くん…見下ろされていて怖い。

でも私やって今回のことは自分自身悪くないと思ってる。

あのまま話してたら絶対気付かれるやんか…ただでさえ光くんが女子に話しかけるとか珍しいのに、ああでもせんと絶対にみんなに知られてしまう。

ワザとそうしようと思ったんかはわからへんけど、光くんにはちゃんと自覚して欲しい。

どうしようかと思ったけど私は決まりごとの話を切り出すことにした。



「光くん、さっきのは私との決まりごと破ることになるんと違うかな」

「!?」

「ほ、ほら…絶対に仲良しに見えるし…」


私の気持ちはちゃんと伝えたいけど、あまりストレートに行って初めてあったときのように泣かれたら困る。

チャイムが鳴る前で私たちの周りに結構な人数の生徒がおるこの状況、そもそもこんなところで二人でおったら告白してるって勘違いされそうやん!



「俺はそんな決まりごと知らん」

「し、知らんことはないと思うよ」

「…知らん」


今明らかな間がありましたね!

どういうつもりなんですかという意味を込めて、私は少し光くんを睨んでみた。

光くんはぐっと目に力を入れてこっちを睨みかえしてくる。

おおおおお、怖い!怖いけど…私は泣いたりせんからね!

思えばこんな風に睨まれて怖いと思ってた時期もあったなぁ…本人曰くあれは睨んでたんとちゃうくて見つめてたらしいけど。



「俺、辛いっすわ」


どうするんかと思ったら、光くんは眉毛を下げて呟いた。

泣いてみたり睨んできたり悲しんだり、忙しい子やな。



「俺これでも結構セーブしとるんですけど」

「それはなんとかくわかってるよ…」

「正直、俺は立場とかキャラとかそういうのどうでもええんスわ」


この子エスパーか!?

そういう理由については話したことなかったのに、結局光くんには思ってることだだ漏れってことですか…。



「いつもさんの教室来ても部長と謙也さんの後輩っていう立ち位置でしかなくて」

「…」

「そんなんと違うって、言いたかったし示したかった」


光くんがぎゅっと拳を握りしめたのを見て私は何も声をかけてあげられなくなった。

今のところ光くんと私の関係についてはテニス部の子しか知らない。

黙っててほしいって頼んで、みんなそれを守ってくれてる。

周りにバレることで光くんがいろいろ言われるのが嫌やった。

もちろん自分の身を守りたいっていうんもあったけと、それ以上にさっきの友達みたいにどうしたんっていう目で光くんを見られるのが嫌やった。

私がそう言うと光くんはふるふると頭を振る。

ああ、もういつもの光くんに戻ってる…そんな光くんの様子にひどく安心感を覚えた。

光くんは人目も気にせず、しかもトイレの前で私を抱き締める。

いつも思うけどこの子にムードという言葉は通用せんらしい。



「お願いやから、もうその決まりごとなしにしてくれませんか」

「…っ阿呆、もう遅い!」

「え?」


光くんは寂しげな目で私を見つめた。

それとは反対に今私はどんな目をしてるんやろう、なんとなくやけど目どころか顔全体が怒りと恥ずかしさに満ちてる気がるする。

恥ずかしがってる般若を想像しろってめっちゃ難しい注文やと思うけど、多分そんな感じ。

光くんは背にしているからわからんやろけど、私の目の前は丁度廊下を行き交う人で溢れてる。

朝のこんな時間に財前光が女に抱きついてるなんて、みんながスルーするはずがない。

ちらちらとこちらを気にしながら歩く人、露骨に指をさす人、後は女子の悲鳴と泣き声。

廊下にいろんな音が響いて私の耳をつんざく。



「なしにするもなにも、もう遅い!」

「俺の勝ちや、勝ったモン勝ち」


光くんはニヤリと笑った。

これがもし全部演技なんやったら、光くんは俳優になればいいと思う。

彼は絶対に嫌やって言うと思うけど。



「俺教室戻りますわ」

「…うん」

「なんや、寂しいん?」

「ちゃう!」


寂しいわけじゃなくて、それとは別の意味でここに置き去りにしてほしくなかった。

こんだけ人の視線集めといて、どうやって教室まで戻れと?



「次の休み時間にまた行きますんで」


ええ子にしといてくださいねと耳元で囁いた光くんの顔が徐々に離れていく。

光くんが一歩を踏み出すと生徒がさっと道を開けて
、光くんは人を掻き分けることなく廊下をずんずん進んで行った。

私はその場で脱力しそうになりながらもそんなわけにいかず、なるべく周りを見ないように俯いて教室に戻った。

生徒は私のことも避けてくれたみたいで、俯いとったにも関わらず誰にもぶつからずに教室まで戻れた。





教室に戻るともちろんさっきの話題でもちきりで、友達やクラスメイトに質問攻めにされた。

何も知らない先生が教室に入ってくるとみんな急いで自分の席に戻るけど、相変わらず好奇心たっぷりの視線だけはこちらに向けられている。

光くんにも私にも何も起こらんかったらええなあと思いながら、視線に耐えきれなくなった私は机に突っ伏した。
























あとがき

こうでもしないと教室ででれでれさせられない!
この後でれでれする財前が可愛いと評判になったり、クール財前派、デレデレ財前派ツンデレ財前派が生まれたりしてると面白いなっていう妄想が頭を支配しています。


2012.04.19