「ねえねえちゃん」

「なあに?」

ちゃんって仕事とかしてないの?」



*ニートだって幸せになりたい*


十四松は相変わらず大口開けながら笑って、ちゃんを見つめた。

やめろおおお十四松!!お前は何やってんだよ!!

仕事してない奴が聞いていい台詞じゃないよ!?しかも相手女子ー!?デリケートに決まってんじゃん!?

そりゃ俺もそのことは気になってたけど!!

聞き方がどストレートすぎるんだよお前は!野球?そんなもん今持ち出してくんじゃねー関係ねーわ!!!!








最近近所に引っ越してきたちゃん。

引っ越してきた次の日、この辺を内してほしいと言われて近所を案内して、その後評判のいい店で買ったケーキを俺たちの家で食べた。

ちなみに俺たちがニートだと言うことは彼女にはまだ直接は話してない。だってなんかちょっと恥ずかしいじゃん?

母さんが俺たちのことニートたちって呼んでたから気付いてるかもしんねーけどさぁ。

それはともかく、この時から俺たちはちゃんにある疑問を抱くことになった。



ちゃん明日の予定は?」

「予定?ないよ」


聞いたのはトド松。深い意味なんてなくて、きっと会話を広めたかっただけのはず。



「じゃあまた遊びに来たらどうだ?俺たちも毎日予定なんてな「そうだね、いい考えだよカラ松兄さん!」


カラ松の失言を咄嗟にチョロ松が遮った。

おいカラ松お前いい奴かもしんねーけど今は正直じゃなくていいから!もうちょっと時間置けよ、出会って二日でニートバレってキツいわ!

ちゃんは俺たちがカラ松をすごい顔で睨んでるとも知らずに笑顔で話を続ける。



「本当にいいの?家に一人だと心細いし嬉しいな」

「嫌じゃないなら来たらいいんじゃない」

ちゃんがいるとなんだか部屋が明るくなるしね!」

「本当?私本当に来ちゃうよ、毎日することもないから暇だし」


ちゃんならぜ〜んぜんオッケー!むしろ毎日でも来たらいいのに!

この言葉は口には出していない、けれど文字通りちゃんと俺たちはほぼ毎日顔を合わせるようになった。

毎日じゃないけどほぼ毎日、ちゃんは俺らと一緒に遊んだりくだらないことをしながらここ一週間くらいを過ごしてる。

そこで浮かび上がった一つの疑問、ちゃんって仕事してんの??

確かにこのもやもやは俺のなかで大きくなっていったし、それは他の兄弟も一緒だったのかもしれない。

そんなもやもやについて、あろうことか十四松は特大の爆弾サイズを投下しやがった。







そして冒頭に至る。

十四松はいつも通りだけど、他の奴らは完全に固まってた。

こうなったら正直もうフォローなんてしてられねーよ!



「仕事はしてたよ」

「して、た?」

「うん、してた。やめちゃったの」

「ほう、何か理由でもあったのか?」


空気読めないナンバー2、カラ松が追い打ちをかけるようにちゃんに質問する。



「理由ねぇ…」

「イジメか?」

「違う違う」

「仕事なんて絶対したくない!僕一生この家で暮らすんだ〜あはは!」


話の流れをぶった切って十四松が急に素振りを始めたもんだから、バットの先端が油断していた一松の頭をぎりぎりかすめてった。

おい、それ一松にあたってたら今頃こいつ死んでたよ!?



「いつかは働かないといけないと思ってるけどね、僕は」

「はい出た〜チョロ松兄さんのそれ出た〜」

「茶化すなよトド松、僕は本気で」

「いい子のフリすんのやめれば…?お前だって結局ニートじゃん」

「うっおおおおい一松!」


お前今言ったな!ニートって言ったな!空気読めみんなちゃんに引かれるじゃん!!!!!

今回ばかりは俺のテレパシーは通じず、5人はニート談義に花を咲かせた。

本来なら俺だってあそこに混ざってるけど、今回ばかりは気が進まない。ちゃんは横でそのやり取りを笑顔で聞いていた。



「おそ松兄さんもさー、普段は率先してニートしてるくせに今日は大人しいよね〜」

「それどころか最近競馬もパチンコも行ってない」

…お前は勝利の女神か?それとも俺たちをそそのかす悪魔なのか?」

「私?」

「違う!違うよちゃんちゃんは何も関係ないからね!こいつらアレだから、ちょっとおかしいから!」

「おかしいのはおそ松兄さんじゃん、ククッ」


最終的になんでいつもこういう流れになる!?俺いじっとけばなんとかなると思ってるわけ!?

っていうか俺の印象が一番悪いじゃんこんなの!お前らこんなとこだけ意見一致させやがって!!

こんなことはもちろん口には出せないに決まってる。それでもちゃんは笑ってるだけだ。



「みんなの言ってることすごくわかるな〜、ニートって楽しいよね」

「ニートとは働かずして他人から甘美な時間を提供してもらう最強の人種だと俺は思ってるぜ?」

「「「「「…」」」」」

「あはは!カラ松くん面白いこというね!でもその通りだと思うよ」


おもしろくねーよ!ちゃんそこ同意いらない!!カラ松の言ってることまともに聞いちゃダメだから!



「私も社会人だったときと違って毎日楽しいもん。もうニートやめられそうにないよ」

ちゃんニートなの!?」

「そうだよ」

「やったぁお揃いだ〜!!じゃあ毎日ちゃんも野球できるね!!」

「そうだね十四松くん」


野球は関係ないだろ十四松!

他の5人は驚くどころか関心してるみたいだけど俺は今正直かなりびっくりしてるよ?

だって隣のアパートで一人暮らししてる女の子がニートなんだよ?

しかもあっさりとニート認めちゃったし、俺らがニートなことにすら引いてないんだよ?

なんだよ日本…いつからこんなことになっちゃったんだよ…。



ちゃんは就職活動とかはしてるの?」

「ううん、してない。私は婚活するから仕事やめたの」

「「「「「「婚・活!!!!????」」」」」」

「そうだよー」


さっきまで喜んでいた(?)俺らは泡を吹いて倒れたりゾンビのような顔になったり、とりあえずどん底までテンションが突き落とされた。

婚活…?

俺らは就職してから始めるやつだよね…?

女子はニートでも婚活できちゃうんだ…日本酷過ぎるんじゃないの…?



「私は贅沢な生活とかは望んでないから、普通に幸せに暮らしたいの。結婚して、子供が生れて、旦那さんと子供と仲良くくらしたいの」

「ぐふっ!」

「旦那さんが働いてくれて私がそれを支えて…そこそこ生活が安定すればそれで満足っていうか」

「ボゥエ!!!!!!」


なんかまぶしい!!!!俺たちが感じたことのないオーラがある!!!!!!

結婚?子供?旦那?幸せな家庭?

わからないわからないよー!そういうのよくわかんないし俺らには一生縁がない!

俺たちがニートである以上は!縁が!ない!!



「っていうか仕事辞める必要はなかったんじゃ…?」

「仕事してるとお金が入ってくるから私自身婚活に必死になれないような気がして。それに働いてなくても両親からお金は送られてくるから生活は困らないの」

「な、なにそれ意味わかんない…」

「それもう生まれながらにしてニート確定ルートだ!!!!!」

「でも両親が死んじゃったら私は生きていけないよ。お兄ちゃんがきっとお父さんの跡を継ぐし、そうしたらきっと援助はしてもらいないから」

「要するにちゃんはお金持ちな家庭に生まれたけど将来が不安だから結婚したくて、そのためにニートになったと…?」

「その通りだよチョロ松くん」


何かちがう俺らと違う!

ちゃんめちゃくちゃいい子なのになんかバックがいろんな意味で黒い!

ちゃんの生い立ちも今現在の行動もなんかズレてない?そして黒い!まぶしいくらい輝いてるのになんか黒い!!



「そして要するに」

「俺たちは」

「ニートだから」

ちゃんの眼中には」

「間違いなく」

「入らない…!」


ちゃんは一松が連れてきた猫と遊んでいる。

あんなにも無防備に猫と戯れてるのにどうしてちゃんのパンツが見えないんだろう悔しい。






















2016/04/07