緑メインで黒黄は会話のみ登場。『アメとムチ』と同じ設定。






先生と生徒たち



 窓際の席にいたオレをクラスメイトの一人が遠慮がちに呼んだ。
 焦っているというか呆れているというか困っているというか……何とも形容しがたい面持の彼を見ていい予感はしなかったものの無視するわけにもいかず、呼ばれるがまま廊下へ向かう。
 教室から一歩出るとものすごい勢いで何かがぶつかってきて、予想外のことにオレは思わず小さく声をあげた。ぶつかってきたものの正体はで、ぐいぐいと俺の身体を押してくる。
 身体に何か固いものの感触があると思いよく見てみるとオレとの間には薄いノートが挟まっていた。


 「うっ……ぐすっ……緑間くんっ……」
 「急に現れて何のつもりなのだよ!?」
 「緑間くんお願い助けてっ!」
 「わかった!わかったからとりあえずオレ身体を押すのはやめるのだよ!」


 の肩を押すとノートを抱きしめた彼女は口を真一文字に結びながらオレを見上げる。わかってはいたことだが案の定彼女は目に涙を浮かべていて、それを見てしまったオレはうっと言葉に詰まった。



 「一週間前に理科の小テストで破滅的な点数をとったと」
 「……うん」
 「それで先生からにだけ課題を言い渡されたと」
 「……そう」
 「仕舞いにはそれの提出期限が今日であるにも関わらず課題をしてこなかっただと?……呆れて言葉も出ないのだよ」
 「だって忘れてて…」
 「忘れてたでは済まされんだろう」
 「だから、緑間くんに課題の答えを教えてもらおうと……」
 「バカめ、何故俺がお前の代わりに課題をしなければならん」
 「え~!」
 「先生が課題を出したのは何のためだかわかるか?」
 「……私が小テスト全然できなかったから」
 「そうだ、要するにが授業についてこられていないからだ。先生はなにもを個人的に攻撃するために課題をだしているのではない、それはわかるな?」
 「……うん」
 「納得できないと顔に書いてあるのだよ」


 明らかに拗ねているの額を人差し指で軽く小突くとオレを小さく睨みながらは口を尖らせた。そんなことをしてもオレは心変わりはしない。
 これではまるで家で妹に対して接しているのと大差ない、むしろ妹はオレに宿題を代わりにやってくれだなんて言い出したことがないからのほうが精神年齢は幼いようにも思えた。

 
 「何度も言うがオレはの代わりに課題はしない。第一、課題の内容は確認したのか?」
 「課題出された日に見たよ。でも全然わからなかったからまた今度やろうと思って、そしたら……」
 「もういい言うな。……はぁ、どうしたものか」


 どうしたも何も、わからなかったと言うのなら教えてやる他に道はない。彼女の理解度がどれ程のものか予想もつかないが、こうなれば横についてやるくらいしか思いつかなかった。


 「とりあえず課題を見せるのだよ」
 「……ううん、やっぱりいい。緑間くん、迷惑かけてごめんね」
 「何を言っている、白紙では提出できんだろう」


 オレに言い訳をしていたときに引っ込んでいたはずの涙がまた頬を伝って、は手の甲でその涙をぬぐう。少々厳しく言い過ぎたかと後悔したがここで甘やかしては彼女のためにならないのだ。折れるわけにはいかない。
 よくわからない方向で気を遣おうとしているに何と言って聞かせればわかってもらえるのか考えていると、彼女は目をぐりぐり擦り鼻をすすりながら聞き取れるか聞き取れないかギリギリの音量で呟いた。


 「だって、緑間くんに嫌われたくないもん。もう嫌われちゃったかもしれないけど……」
 「……」
 「だからやれるだけやってみる。わからなかったら正直に先生にそう言う。本当にごめんね……」
 「つくづく手のかかる奴なのだよ、お前は」
 「……ごめんなさい」


 俺の言葉を間違った意味で捉えているであろうが普段よりも更に身体を小さくしながら謝罪を口にする。
 何から何まで説明してやらないと理解してもらえないのは正直面倒ではあるが、それこそ妹に接しているのと同じだと考えればいいのだ。噛み砕いて説明してやれば理解できないほどは馬鹿ではないし、また捻くれた考え方をせず物事を素直に捉えるのはむしろ彼女の長所だ。
 少し手間はかかるもののどうしてオレがこう思うのか、どうしてがこうするほうがいいのかを時間をかけて説明すれば問題の正誤だって理解をするし、そこまでして意見が割れるとするのならばそれは考え方の違いだとしか言いようがない。
 今回の件だってオレの提案に対して「そんな方法は面倒くさい」と彼女が言い返してくるのならばそれまでだ。もしそう言うのならオレはに手は貸さないし、自分の考え方を曲げてまで彼女の手助けをしようとは思わない。


 「勘違いをするな。確かにの発言に呆れはしたが、考えを改めたのなら話は別だ。がちゃんと自分で努力し、課題をやると言うのなら答え以外は教えてやるのだよ」
 「……ほんと?」
 「何度も言うが答えをただ教えるのでは意味がないし、オレはそうはしたくない。サポートだけだ。それは今後も変わらない」
 「ありがとう緑間くん……私課題頑張る!」
 「次の授業が終われば昼休みだ、その昼休みの間になんとかするしかない」


 思っていた通り、説明さえすればこちらの意図をは理解してくれた。
 先程まで明日地球が滅亡するのではないかと思うくらいの落ち込み様だったのが少し表情が晴れやかになったようでオレとしても安心する。いくらオレの言い分が正論だとしても、目の前で泣かれるのは気分のいいものではない。


 「とりあえず早く泣き止むのだよ!先程から廊下を通る奴らにかなり不審な目で見られている」
 「だって緑間くんの言ってることが正論すぎるから!」
 「人聞きの悪い。オレがを泣かせたようなこと言うな」
 「泣かせたくせに~」
 「またお前はそうやって……」
 「ごめんごめん!怒らないでくださーい緑間先生!」
 「っな!?」


 はけらけら笑いながらまた後でと手を振り教室へと戻って行った。スキップするかのような軽やかな足取りで教室に入って行った彼女を見届けた後、オレはどっと疲れたような気がしてさっさと自分の席に戻る。
 ……まるで嵐のようだった。
 自分の言いたいことだけ言って思い通りに行かなければ拗ねるような素振りを見せるし、こっちが協力すると言えば嬉しそうにする。
 の悩みの現況は全て彼女自身であると言うのにそれに振り回される身にもなってほしい。もともとの勉強を見る理由なんてないのだし、面倒くさければ他を当たれと言えばよかったものの結局突き放すこともせず付き合う形になってしまった。後はが手のかからない程度の頭脳であることを祈るばかりだ。



 「で、これはどいういうことなのだよ?」
 「二人も緑間くんと勉強したいんだって!」
 「さんがご機嫌だったので事情を聞いたら、昼休みに緑間くんに課題を教えてもらうと聞いたんで」
 「オレは偶然廊下で二人に会ったんスけど、話聞いたらもう一緒に来るしかないじゃないっスか!」
 「……フン。いいか、邪魔だけはするなよ」
 「もちろんです緑間先生」
 「当たり前じゃないっスか~緑間先生?」
 「……お前らさてはあの会話を聞いていたな?」
 「え~、何のことっスか?オレはただ緑間っちがっちに勉強教えてあげるって聞いたから~。ね、黒子っち?」
 「そうです、さんに『緑間先生』って呼ばれて満更でもなさそうだった緑間くんなんて目撃してないですよ」
 「~~ッ!!」
 「ね~緑間先生早く!昼休み終わっちゃうよ~!」
 「緑間先生はやく~」
 「はやく勉強始めましょう緑間先生」
 「黒子も黄瀬もいい加減にするのだよッ!」
 「きゃー!緑間先生怒りすぎて顔赤いー!」


























2017/02/15