※キセキオール逆ハ。『アメとムチ』と同じ設定。






眠り姫と心配性



 「あれーちんは?」


 オレの言いたかった台詞は紫原っちに先に言われてしまった。何だか出遅れた気分になる。オレ達の言葉に振り向いた青峰っちと黒子っちは、二人同時にこっちを見た後顔を見合わせた。


 「そこからじゃわからないんですね」
 「何のことっスか?」
 「こっち来ればわかる」


 今度はオレと紫原っちが顔を見合わせることになった。二人して首を捻りながら青峰っちの言う通りにする。屋上で横になっている青峰っちとその目の前に座る黒子っち、そして二人の間には青峰っちに寄り添うようにして眠っているっちがいた。


 「!?も~何、こういうのやめてよ。死んでるのかと思ったし~」
 「普通に考えて死んでるわけねぇだろ」
 「でもどう見ても普通の状況じゃないっスよ!青峰っちそこをどくっス!」
 「はぁ?黄瀬テメェやめろ」
 「あの、あまり騒ぐとさんが起きてしまいます」
 「「「ハッ!?」」」


 黒子っちがしーと囁きながら指を唇にあてる。みんな嘘のようにその場に固まった。
 そっとっちの顔を覗いてみると、すやすやとそれはもう天使のような寝顔で眠っていた。ここが雲の上でも幻想的な森の中でもなく、学校の屋上でありコンクリートの上だということがもったいないくらいの寝顔だ。


 「っていうかオレたちが悪いの?こんなとこで寝てるちんが悪いんじゃん」
 「まぁまぁ紫原君」
 「言っとくけどな、最初にここで寝てたのはオレだかんな」
 「え、じゃあ青峰っちが一番悪いってことっスか?」
 「はぁ?何でそうなんだよバカ」
 「バカは酷いっスよ!」
 「……ですからあまり騒ぐとさんが」
 「……んっ……」
 「「「ハッ!?」」」
 「……すー……」
 「……はぁ。なんでこんなにオレらが必死になんなきゃなんねぇんだよ」
 「だってさんの寝顔、可愛いですし」
 「そういうこと言ってんじゃねぇんだよオレは!」
 「青峰っち!……でも黒子っちの言いたいことはめちゃくちゃわかるっス、寝顔が可愛いすぎて起こせないっスもん!」
 「そこドヤるとこじゃないし」


 コンクリートの上なんて寝心地いいはずないのに、彼女は眠り続けている。そして青峰っちもなんだかんだ言いながら、っちの横からどく気配はなかった。
 紫原っちは面倒くさくなってきたのか黒子っちの横でお菓子を開けて食べ始めた。黒子っちは優しい表情でっちを見つめている。
 さっきも言った通り、オレもこのままっちを寝かせてあげたい。でもずっとここに彼女を放置しておけるはずもない。第一っち一人ここに残しておくのも、他の誰かと二人きりにしておくのも嫌だと思った。


 「ちんお菓子の匂いにつられて起きたりしないかな~」
 「そんなことで目覚ますのはお前くらいだっつーの」


 紫原っちがっちの目の前でチョコレートを行ったり来たりさせていると、それを見ていた青峰っちがお菓子を横取りして口に入れる。チョコレートを食べられた紫原っちが青峰っちに文句を言った。その間もっちは起きる気配を見せない。


 「そんなところで何をしている?まさか揃って日向ぼっこというわけでもないだろう」


 今度は赤司っちと緑間っちがオレと紫原っちが歩いてきた方向と同じところからやってきた。っちの存在に気付いていないせいか、二人して怪訝そうな顔をする。こいつらはまた何を馬鹿なことをしているんだ、と表情が語っていた。緑間っちも同じく呆れすぎて何も言えないという雰囲気だ。


 「こんなところに野良天使がいるんスよ!」
 「は?野良天使?」


 徐々に近付いてきた二人はやっと状況を理解したらしい。っちを見つけた赤司っちはその場で固まったし、緑間っちは小さく飛び上がった。
 赤司っちの表情には驚愕と困惑の色が滲んでいる。勝手に赤司っちの気持ちを代弁するなら『コンクリートの上で寝る……?マットレスもなしに?床だぞ?コンクリートの床だぞ?』みたいな感じだ。きっと自分と庶民の価値観の違いとやらに驚愕しているに違いない。まあ全部オレの妄想だけど。
 小さく飛び上がった緑間っちは最初こそ困惑していたものの、わなわなと震えだしたと同時に急にしゃがみこんだ。


 「おい!起きろ!お前はここがどこかわかっているのか!」
 「……んー?……」
 「ちょーーーーーと!!!緑間っち何するスか!!!!」
 「うるさいぞ黄瀬!起きろ!起きるんだ!今すぐ!」
 「……?……」


 しゃがみこんだ緑間っちは勢いよくっちの肩を揺さぶり始めた。これには目の前にいた青峰っちも驚いているし、黒子っちは若干引いている。紫原っちは驚きのあまり食べていたチョコレートを床の上に落とした。赤司っちはフリーズが解けかけていたのに、緑間っちの行動を見てまたフリーズの状態に戻ってしまう。


 「やめてください緑間君!さんが可哀想です……!」
 「うるさいのだよ黒子!何をしている、起きろ!」
 「……うー……もっと優しく揺さぶって……」
 「野外の地べたで横になるような奴に優しくしてやる理由はない!さっさと起きるのだよ!」


 とにかく緑間っちはぷんぷんだった。
 生真面目な彼は普段から他のみんなよりもイライラしてることが多いけど、オレらからはそのイライラポイントがよくわからなかったりする。正直今回もその状態だった。いやそりゃ、今のっち行儀がいいとは言えないけども。


 「……んぐ……誰か助けて……」
 「おい、オレにくっつくんじゃねぇ!」
 「とか言いつつもニヤつく青峰君」
 「テツ、そーいうのやめろ!」
 「お前も共犯か!」
 「ほらみろ!くっそ」


 緑間っちが怒りの矛先を青峰っちにも分散させたことで青峰っちは舌打ちした。面倒くさいっていう気持ちはよくわかる。
 青峰っちは片手でっちの身体を抱きながら一緒に起き上がる。「ほら起きろよ」と彼女の肩を叩いた。緑間っちがするのよりもずいぶんと優しい。
 青峰っちの服を掴んでいたっちは胸元に埋めていた顔をようやく上げて、寝起きの顔をみんなに披露した。


 「ちんびっくりするくらい寝起き悪いねー」
 「は、は……くしゅん!」
 「くしゃみで返事をするなんて器用だな」
 「だからはやく起きろと言っただろう!そんな格好で野外で寝ているからこうなるのだよ!」
 「緑間君が相変わらずご立腹です」
 「当たり前だ!風邪でも引いたらどうする!」


 緑間っちがポケットからティッシュを取り出してっちの鼻水を拭いてあげている。ティッシュを渡すのかと思いきや、まさか緑間っち自ら処理にかかるとは驚くしかなかった。
 それにもう一つ驚いたのが、緑間っちが怒っていた理由は行儀が悪いからということよりも、っちの体調を気遣ってのことだったということ。


 「大輝くんが気持ちよさそうに寝てたから……」
 「青峰は馬鹿だから風邪など引かないのだよ。なんでもかんでも青峰の真似をしようとするんじゃない」
 「……なぁ、何で今オレディスられたんだ?」
 「わかんないっス」
 「私風邪引いたかもってことは馬鹿じゃないってことだよね?」
 「、きっと真太郎はそういうことが言いたいんじゃないと思うよ」
 「風邪を引いて喜ぶ奴があるか!」
 「ほら~ちん怒られた~」
 「だいたい、風邪を引く引かないに関わらず、そんな格好で野外で横になるなどはしたないのだよ!」
 「はしたないとか言わずにエロいからやめろって言えよ緑間」
 「!?馬鹿め、何でそうなるのだよ!」


 真面目な緑間っちは顔を真っ赤にして青峰っちに怒っている。話が完全にすり替わってしまったけど本人達は気付いていない。っちは紫原っちにもらった残りのチョコレートを頬張っていて、二人の喧嘩には興味なさげだった。
 緑間っちは頭がいいけど、こういうところは子供っぽいと正直思う。


 「青峰君、ああ見えて緑間君に馬鹿って言われたの気にしてたんですね」
 「ああ見えてとか辛辣っス」
 「それよりも、あんな簡単にミドチンが峰ちんの挑発に乗るとかウケるんだけど~」
 「思い当たるところがあるんじゃないでしょうか」
 「緑間っちムッツリ~」
 「そういうこと言わないの!緑間くんに聞こえたらまた私が怒られるから!」
 「じゃあ僕が真太郎の代わりに説教してあげようか?」
 「うっ」
 「冗談だよ。だが先程の行いは褒められたものではないのは事実だ。無防備すぎるのは君の良いところでもあり、悪いところでもある」


 赤司っちは自分のブレザーを脱いでっちの肩に被せた。
 冗談とか言っておきながらも冗談になっていないところは笑えるけど、そこはブレザーを貸してあげる優しさでチャラだ。赤司っちのそういうところ、本当に王子様みたいだからやめてほしい。普通の女子だったら今のだけでマジでころっといってるやつだ。
 これでころっといくどころか、ブレザーを貸してくれた人間のことをちらっと横目で睨むような視線を送るっちがかなり特殊なだけ。そして単純に、っちは赤司っちに注意されてしまったということについてへこんでいるだけで、赤司っちの意味深な発言に関してはスルーしている。


 「……緑間くんの前ではお行儀よくしてよう」
 「僕の前でも品よく振る舞ってくれると嬉しいんだが」
 「ボクはどんなさんでも気にしないです」
 「黒子っちぃぃぃぃいいい!!」


































いつも緑間くんを空気読めない人にしてしまって申し訳ないです。お母さんみたいな彼が好きです。

2017/04/12