!注意!

立海と氷帝のシリーズ『青春ワルツ!』は立海から氷帝に転校した夢主の日常のお話です。
以下の要素が含まれます。

・夢主とキャラが貶し貶される描写
・いろいろごちゃまぜの友情寄りコメディ
・ギャグというテンション故のキャラ崩壊(特に幸村)

その他
・基本的に一話完結。過去の話(立海在籍中のエピソードなど)が急に出てきたりします
・扱われ方が酷かったり雑だったりするお馬鹿め夢主がとてつもなく幸村を怖がっています
・恋愛という意味の奪い合いではなくおもちゃを取り合ってる感覚なので恋愛要素は薄めです
・恋愛要素薄めながら夢主は忍足にお熱設定。特に結ばれる予定はありませんがたまに恋愛脳になるかも
・コメディにしたいけどコメディにならないのはいつものことです
・コンセプトは夢主に厳しい立海と夢主に優しい氷帝の(おもちゃ)争奪戦

上記を了承いただける方のみスクロールをお願い致します。
小説を読んだ後の苦情は受付けておりませんのでご了承ください。












































 「みんなに大切な話があるの」



青春ワルツ! さようならとはじめましての繋ぎ目 01


 「あれ、なんか俺耳悪くなったんスかね?」
 「赤也、あのね……」
 「さん、笑えない冗談はよしたまえ」
 「……」
 「は?オイ、そこ黙るところじゃねぇだろぃ?」


 着替えを終えたみんなを呼び止めて言い放った一言はそれなりに破壊力があったらしく、部室は渇いた笑いの後に静まり返った。何も反応がなければ部室を飛び出していたかもしれない。でも彼らは予想を裏切らない反応をしてくれた。それなりの期間一緒に過ごしてきた中で、一番嬉しくて泣きそうになる瞬間をこんな形で迎えるなんて。


 「冗談じゃなくて本当なの。今月いっぱいで私引っ越すことになったから、だから……」
 「引っ越すって何処へ?関西にでも行くのかい?」
 「……都内だけど」
 「じゃあ電車通学したらよくね?なんで転校?」


 ブン太の言葉にまたみんなが口を閉ざした。いろいろ突っ込みたいことがあるのはよくわかる。


 「だいたいこんな時期に転校なんておかしな話じゃ」
 「それは、お父さんが都内に家建てたから……」
 「電車通学は難しい距離なのか?」
 「難しいと言うより両親が心配してて……。都内で学校見つけた方がって、聞かなくて……」
 「それで?」
 「……転校することに、なりました」


 私の口から出るのは言い訳みたいだった。こうなった経緯にはもっと別の理由がある。それを言うともっと言い訳みたいだから、それ以上は言わず口をつぐんだ。

 父親が都内に一軒家を建てたのは事実。それでも最初は立海に電車通学するつもりでいた。両親は毎日そこそこの距離を電車通学することを心配したし、少し反対もされたけど私がどうしてもと言ったら了承してくれた。だから最初は引っ越すことだけをみんなに伝えるつもりでいた。
 状況が変わったのは2か月前だ。父親が職場の上司に一軒家購入や引っ越しの話をした際、都内に有名ないい中学があるからそこに娘を転校させるのはどうかと勧められたそうだ。「ここの学校の内部に知り合いがいるから、今の時期からでも入学が可能になるように話を進めてあげよう」と言われてしまえば断ることも難しい。
 場所もかなり通学しやすいところにあって、立海に毎日時間をかけて電車で通うことを思えば転校したほうがいいんじゃないかと、両親はパンフレットを私に見せた。
 両親が心配してくれているのはよくわかる。でもそれ以上に、生活を支えてくれている父親の仕事に少しでも関わるのなら、私だけ我が儘は言えないと最後は諦めるしかなかった。
 親の仕事を理由にしようと結論は同じ。もう私は立海の生徒じゃなくなる。


 「でも、そんなことって……!」
 「もうやめんか赤也。の気持ちや事情を察してやれんのか」
 「……」
 「本当にごめんね……」
 「が謝ることじゃないだろう。気にするな」
 「一生の別れになるわけじゃないんだし、電車通学できる距離ならそんなに離れてないってことだろ」
 「ジャッカルの言う通り。ほら、泣きなさんな」


 視界がぼやけてみんなの顔が見られなくなった。声だけが聞こえている。私はごめんね、ありがとうと絶え絶えに答えながら柳生くんの差し出してくれたハンカチで涙を拭く。


 「お前その転校先の学校でテニス部マネージャーとかやるなよな!」
 「うん、うん……わかってるよブン太、私はずっと立海テニス部のマネージャーだよ……!」
 「映画のワンシーンみたいなやり取りだな」
 「青春じゃな」
 「ところで転校先はどちらの中学なんですか?」
 「それがね、みなさんのよく知っている……その……氷帝なんだよね」
 「「「「はぁ?」」」」
 「聞こえなかった?氷帝学園だよ、あそこもテニス部強いよね」
 「はぁあ?ちょっと待てよ!氷帝ってあの成金ホストみたいな奴らのとこじゃないっスか!」


 どんな人たちがいたか忘れちゃったと言うとお前ビデオ撮ってただろぃ!とブン太にまともに突っ込まれた。ブン太が突っ込みたくなる気持ちもわかる。でも私が年間を通してビデオに収める選手の人数は100人を超えていた。コート全面を映すから選手の顔のアップだってほとんど見たことがない。コートと客席にそれなりの距離があるので、顔をはっきりと知らない選手ばかりだ。
 強豪校と呼ばれている学校だってたくさん撮る。部員も一人や二人ではない。その一人一人をどこ中学の何年生で、名前は何君で、どんな顔で……なんて私の頭では覚えられるわけもなかった。
 氷帝テニス部の顔面偏差値が高いとは聞いたことがある。だとしても、そもそも関東のテニス部は顔面偏差値が高いところが勢ぞろいなので結局イケメン祭りなのだ。一人一人を判別なんて無理に決まっている。


 「マネージャーともあろう者が、他校の主要メンバーの顔も憶えとらんとはたるん」
 「私もう立海のマネージャーじゃないんでそういうのナシで!」
 「なんだよそれっ、先輩さっき『私はずっと立海のマネージャーだよ!』とか言ってたくせに!」
 「一瞬泣きそうになった気持ちマジで返してほしいぜ」
 「違う!立海のマネージャーじゃないイコール氷帝のマネージャーになるじゃないよ!」
 「……怪しい」
 「のことだからな、『氷帝のテニス部もイケメン揃いよ!うへへ!』などと考えていてもおかしくない」
 「考えてないからね!それに氷帝のテニス部『も』ってやめて!自意識過剰反対!」


 氷帝学園男子テニス部が強豪校だということはもちろん知っていた。地区が違うから勝ち進まないと当たらないものの、関東というくくりでかなり有名なのは確かだ。
 それにしてもテニスが強いからか、氷帝男子テニス部の方々の顔面偏差値が高いからなのか、みんな「氷帝」の名前が出た途端に態度が変わりすぎて怖い。望んで氷帝に行くわけじゃないのに、これでは私がテニス部の男子目当てで転校するみたいだ。不名誉すぎる。


 「……本当に氷帝の奴ら目当てじゃないんスか?」
 「そんなわけないでしょ!氷帝の人の顔も憶えてないんだよ?」
 「本当に?」
 「本当に!赤也しつこい!目の前でテニスしてくれたら何か思い出すかもしれないけど、それでも個人の特定は無理だよ」
 「人を判別する材料がテニスって」
 「俺らの所為なのはわかるんだがが気の毒だな」
 「仕方ないじゃん、テニスしてるところしか知らないんだから」


 ここまでみんなが氷帝テニス部に敵意を剥き出しにするのは大きな誤算だった。計画では転校を告白した後は、そっちでも元気でな!いつでも遊びに来いよ!みたいなやり取りで終わる予定だった。
 話の流れで「私はずっと立海のマネージャーだよ!」なんて言ったけど本当にそう思っている。こんな反応をされるんだから、もし氷帝の部長に土下座されてもマネージャーなんかしないと今心に誓った。何が何でも絶対に断る。それが立海のみんなへの誠意の形となるのならお安い御用だ。なのに先程私を優しく慰めてくれたみんなは全員半歩後ろに下がっていて、心なしか私を見下すような顔でこっちを見ている。
 どうしたらこの気持ちをわかってもらえるのかと和解の一歩を踏み出そうとしたとき、ほとんど会話に参加していなかった幸村くんが静かに椅子から立ち上がって私と視線を合わせた。ああこれ、幸村くんにボロ雑巾みたいな扱いをされる前触れだ。


 「氷帝に行くなら、向こうでもマネージャーをするといいよ」
 「おい幸村、何を言って……」
 「幸村くんそれは……」
 「マネージャーのふりしてテニス部に潜入するならみんなのことを信じるよ」
 「……え?」
 「スパイ、できるよね?」





















2017/11/22