!優等生失格に関する注意!

・青峰に恋した優等生な夢主が青峰のセフレになるお話です。暗い雰囲気はなくハピエン予定ではありますが苦手な方はブラウザバックを!
・連載の中に年齢制限(R18、R15)の内容のを含む作品があります。
・青峰が見方によってはゲスです。

ご了承いただけた方のみスクロールをお願い致します。





































優等生失格 01



 静まり返る教室。聞こえてくるのは教師の声と黒板に文字が書かれる効果音のみだ。
 真面目に授業に参加する者、机の下でこっそりと携帯を触る者、教科書を読むフリをして漫画を読む者……いずれにせよ教師の目には真面目に授業を受けている生徒がほとんどを占めていたが、一人だけ授業を聞くフリすらしない生徒がいた。青峰だ。
 様々な意味でクラスで異質な存在である青峰は何もしなくても目立つのに、教科書もノートも開いていない机で惰眠を貪っていた。


 「じゃあ青峰、46ページ読め」
 「……あ?」
 「ちゃんと起きとけよー。じゃあ、46ページ代わりに読んで」
 「……はい」


 と呼ばれた女子生徒は一瞬横目で青峰を見てから教科書を片手に立ち上がる。教師に指定された部分を抑揚のない声で読み上げ、スカートを整えながら静かに席に着いた。隣の席の青峰は机の中から今日初めて英語の教科書を取り出し、46ページを開いてからそこに書かれてある英語の長文をまじまじと見る。
 こんなの読めるわけねぇだろ。
 読めて当然の文章がさっぱり理解できず、さっと教科書に目を通した後すぐに教科書を閉じて枕の代わりにした。青峰は机の上に再び突っ伏して長い手足をぐっと伸ばした後右隣の席のをチラ見する。
 机にもたれかかることもせずに姿勢よく椅子に座ったは、視線を黒板とノートの間を行ったり来たりさせながら忙しなく手を動かしていた。
 隣で授業を受けているを見て、真面目に勉強してんだなと呑気なことを考えながらも青峰は大きく欠伸をして彼女の手元を覗く。滑らかな手つきで英文を書き、日本語訳を下に書き込み、教科書にマーカーを引いて……自分の手は一切動かすことなくの動きをぼんやりと見つめていた。
 馬鹿にしているだとか軽蔑しているというような類の視線ではなく、どうしたらこんなにも頭がよくなるのか、勉強ができるようになるのかが不思議で、ノートに滞りなく紡がれていく異国の言葉にただ見とれている。
 ペンを握る手が白く清らかで思わず溜め息が漏れた。そのまま視線は移動していき胸元の丸みを捉えたのちに首元へ。少しだけ動いた白い喉元を通り過ぎ最後は綺麗な桜色の唇に目が留まる。ごくん、と喉が鳴った。
 あまりにも遠慮なく向けられる視線には当然気付いていたものの、今は青峰のことを構っている暇はないと相手にすることはなかった。まさか自分が青峰に性の対象として見られているとは頭の片隅にもない。不真面目な隣の席の人間のことは自分には無関係だと思っていたし、これからもきっと関わりあうことなんてないのだからと割り切って青峰のことは無視しようと心に決めていた。


 高校に進学し、新しいクラスで出会った身体が大きく目つきの鋭い色黒の青峰を見たときは不良かと疑ったものの、今は確信をもって彼のことを不良だと思っている。毎日のように遅刻ををするし授業中は授業を聞いているフリすらもせずにあからさまな態度でサボったり、酷い時には教室から消えていることもあってとてもじゃないが理解できなかった。
 夏休みを終えた9月、席替えをし青峰の隣になった当初は横でごそごそと音を立てるたびに気が散って何度も横目で見てしまった。最終的に青峰は寝てしまうことがほとんどだったので、静かにさえしてくれれば何の害もないのだということに気付いたのは席替えをしてから5日後だ。
 始めのうちはは隣で堂々と眠る青峰に驚いていたが、今ではたまに聞こえてくるいびきを聞くと呆れを通りこして少し尊敬の念を抱くようにすらなってしまうんだからその点においては笑うしかない。今まで生きてきてこんなにも我を通すような人間は周りにはいたことがなく、自分と全く逆な青峰を見て単純に次元の違う人間だと思ったし羨ましかった。


 英語の授業が終わった後も青峰は席から動くこともせず、長い脚を机の外にはみ出させながらぐだぐだしていた。高校に入学してからの数日間青峰の席の周りには女子の姿が絶えることがなかったが、あまりにも彼が適当な返事をしたり無視して睡眠の体勢に入ったりしてしまうせいで次第にその数は減り、今では青峰に近寄る生徒は少ない。
 男子生徒と話す姿や教室の外では先輩の女子生徒に声をかけられているものの、1年生の間では近寄りがたい人という烙印を押され教室にいる間はほとんど一人だった。背が高い、バスケがものすごく上手いらしい、オレ様で格好いいと持てはやされていたのに桐皇学園1年生女子の間での青峰ブームはあっけなく幕を閉じた。陰で青峰に熱い視線を送る者は多数いても噂になることもなければ想いを伝えようという者もいない。
 ただ青峰はそんなこと全く気にしていなかったし、彼の席に女子が集まるととんでもなく騒がしくなるのをは遠巻きに見ていたので、彼女も青峰ブームの終結には喜んでいた。休み時間に読書を楽しむことの多いにとっては自分の周りが静かであることは重要で、席が隣になる前から日に日に人数の減っていく青峰への訪問者に内心胸を撫で下ろしていた。
 休憩を挟み次の数学の授業の準備をしながらは何気なく青峰の席を見る。
 生きているのか死んでいるのか、顔を突っ伏したままぴくりとも動かない青峰を見てそのまま静かにしていてくださいと思いながら椅子を引いた。もちろん青峰に死んで欲しいとは思っていない。


 数学の担当教師は少し変わった人間で、男性ながらも授業中にキィキィ話すことから他の授業に比べてクラスも賑わっていた。はこの授業の雰囲気が正直苦手だが1年間担当教師が変わるわけではないし、クラスの雰囲気を除けば授業内容はわかりやすかったので、教室が騒がしいことについては早々に諦めて自分の世界に入ることに努めた。
 例題と練習問題のことをひたすら考え、いじられる教師のことは頭の中から排除する……自分でもつまらない人間だとは自覚しながらも、中学の頃からみっちり勉強する癖がついていたが自分を曲げることはしない。今日もいつもと同じように教科書と予習してきたノートを交互に見ながら授業を聞いていると、左からまたも視線を感じてそちらを見そうになった。
 青峰が起きているのは珍しかったが目でも合えば「何こっち見てんだよ」と因縁をつけられるのではないかと、絶対に見るもんかと自分に言い聞かせは教師の声に集中しようとする。


 「そんなに勉強できたら授業も楽しいんだろ」
 「……」
 「オイ、聞いてんのか?」


 どうしよう、青峰くんに絡まれてる……。
 騒がしい教室で青峰の声が目立つことはなかったが、教師の声を聞きとろうとしていたの耳にははっきりと左から彼の声が聞こえた。心地いい低めの声はの心をドキドキさせたものの、残念ながらそのドキドキは男女のそれではなくヘビに睨まれたカエルの立場のドキドキだ。隣の席でも青峰とは会話をしたことがなかったし、彼の生き方は羨ましいと思っても不良である以上関わりたくはなかった。
 そんなをよそに青峰は英語の授業に引き続き数学の時間もの教科書やノートを盗み見ていて、内容や書かれてある意味はほとんどわからないのに前回同様綺麗に並んだ文字に見とれている。それと同時に華奢な手首や髪のかけられた耳、僅かに上下する胸の動きも無意識に捉えていた。


 「私に話しかけて、る……?」
 「他に誰がいんだよ」


 軽く言い返されるだけでの心臓は更にスピードを上げて動き出した。ありとあらゆる恐ろしい不良の台詞を想像しながらは青峰を挑発しないように作り笑いを顔に張り付けながら言葉を選ぶ。
 一方青峰はが緊張しているのはお見通しだったが同級生にこんな対応をされるのにも慣れたもので、首をポキリとならしてから頬杖をついた。


 「ご、ごめんなさい」
 「何でそんなビビってんだよ」
 「ビビってなんか……ただ、私に用でもあるのかなって……」
 「んなもんねーよ」


 だったら話しかけてこないでよと内心悪態をついてから、は初めて青峰の顔をまっすぐ見て話していることに気付いた。今まで横顔しか見てこなかった青峰の顔は相変わらず不良っぽいなと思ったものの、体格のせいもあってか顔は小さいしパーツが整っているし確かに格好いいなと納得する。
 それに比べて同じく初めての顔を正面から見つめる青峰は、だいたい想像通りの見た目と反応に眉一つ動かさなかった。ただ遠慮がちに小さく言葉を返してくるの唇はやっぱり綺麗な桜色で、見た目も言動も控えめな彼女の印象の中でも視線を引き付けられる。


 「そ、そっか。ごめんね」
 「何でお前が謝るんだよ」
 「えっと、何でだろうね……?」
 「つーかさっきから見てっけどずっと手動いてるよな」
 「手?あぁノートとってるから……かな?でもみんな同じだと思うよ」


 視線をキョロキョロとさせながら話すに青峰は少し不服そうな表情でそんなもんかとクラスを見渡した。
 確かに同じようにノートをとっている生徒は多くいても、話していたり見えないようにサボっている生徒もいる。そして教師は相変わらずキィキィ言いながら授業の解説をしていた。


 「問題解けてんだろ、ノートとかとる意味なくね?」
 「家で見返したりしたいから……」
 「へー。やっぱ頭いい奴は考えてることも違ぇわ」
 「別に、そんなこと……」
 「フツーにスゲーと思うけどな。英語のときもスゲー速さで問題解いてただろ」


 小さく笑いながらすごいすごいと自分を褒めまくる青峰を見ては口を半開きにさせながら、これはマズいと思った。
 中学の頃から目立つ存在ではなかった自覚はあったが、家族でもない同級生の男性からここまでストレートに褒められた経験なんて思い出せなくて、嬉しさと恥ずかしさという感情が溢れだすのではないかと制服の裾をぎゅっと握る。不良だと思っていた青峰は思っていたよりもずっと気さくに話しかけてくるし、見られているのは知っていたが英語の授業も今回の数学の授業もそんなことを考えながら観察されていたとは知らず、先程のドキドキとは違ったドキドキで胸がいっぱいになった。
 青峰と隣の席にしてくれた席替えの神様には深く感謝した。自分と正反対な人間の青峰と、こうして巡りあわせてくれたことや話す機会をくれたことに心の中で礼を言う。
 そして青峰を自由気ままで羨ましいと思う対象から、憧れの対象として見始めている自分の単純さに心底引いた。
 ちょっと会話してちょっと褒めてもらったからって馬鹿だなと思いながらも、今まで勉強は自分にとって当然の努力だと考えていたぶん青峰に褒められた反動は大きい。自分にないものを持っているし自分のことを認めてくれる。青峰のことを意識してしまうには十分だった。


 「私でよかったら、いつでも勉強教えるから……」
 「オレ勉強は興味ねーわ」
 「興味のあるなしじゃなくて、やるときはやらないと」
 「オレの課題も代わりにやっていいぜ?」
 「それはちょっと違う気が……」


 明らかに困った表情のを見て青峰は冗談だと笑いながらも、内心は本気でビビってわかりましたとでも言わないかなと下衆な期待をしていた。しかし青峰くんのためにならないよと控えめに返されてしまえば、ただ面倒だとかそういう理由で断ってきたのではないのだとわかり無理に押し付ける気も失せる。
 勉強が得意でも好きでもない青峰は自分のために勉強をしようと思ったことすらない。これからの人生もなんとなくバスケをしながら生きていくと思っていたし勉強なんて必要ないとハナからやる気はなかった。
 隣の席で必死に黒板を写しているを見て、一生懸命勉学に励む人生もあるんだなと思うとそっち側ではなくてよかったと心の底から安堵した。




























青峰で連載、それもなんだか怪しいやつです。
シリーズっぽくなる気がしているのですが、ラストまでの流れを考えているので連載とすることにしました。
二人の関係性が特殊なので注意書きをつけさせていただきました。
よろしければ終わりまでお付き合いいただけたら嬉しいです。

2018/06/20