弥勒菩薩さんのある一日<密着リポート>


太子:「今週は京都は広隆寺の弥勒菩薩のある一日をお送りいたす。」

ゆみこ:「京都のお寺からのご出演は珍しいですね。みなさま本日もお楽しみ下さい。」

太子:「弥勒さんはオフの日は幼稚園の保母として(保父?)過ごされるらしいので、その様子を密着リポートした。ではその様子をVTRで。 」

ゆみこ:「太子、いますよ、ほらあすこに弥勒さんが。」

太子:「どれどれ、本当だ、子供にもみくちゃにされているな。」

ゆみこ:「わたし子供大好きなんですよ、みんなかわいいなー」

太子:「おまえのことは聞いていない、ほら仕事を続けろよ」

ゆみこ:「こりゃどうもすみません。えー、ただいま弥勒さんの伴奏で園児がお歌を歌い始めました。「森のくまさん」ですね。弥勒さん、ピアノうまいですね。」

太子:「なんといっても飛鳥仏だしな。」

ゆみこ:「関係ないやん。」

太子:「次の歌は「めだかの学校」だ。弥勒さんも一緒に歌っているな。」

ゆみこ:「ほんとだ、歌もうまい!」


ゆみこ:「お歌が終わったようです。みんなして外へ出て行きます。私たちも追っかけてみましょう。」

太子:「校庭で砂遊びの時間だな。」

ゆみこ:「ぎゃーーーーっ、子、子供が弥勒さんに砂団子を投げてる! 古い木造仏なのに、や、やめてよー!おなかに当たった!! あぁっ、おなかの金箔が取れちゃったらどうするんよ、もう、うわ、み・みろくさーん」

太子:「ゆみこは何やら気を失ったようなので、私一人でりポートを続けることにする。ゆみこの心配など何のその、弥勒さんは園児達と楽しそうに砂遊びを続けている。今ひとりの園児がホースを持ってきて水を砂場にかけ始めた。みんなびしゃびしゃだ、弥勒さんも例にもれず。さすがに怒っておられる。 やれやれ、砂遊びも終わり、お昼ご飯の時間のようだ。」


太子:「ここのお昼ご飯はお弁当が支給されている。遠くからリポートしている為おかずがよく見えないのだが、シャケにコロッケ、ほうれん草のごまあえのようだな。ご飯にはふりかけがかかっているようだ。先生である弥勒さんのお弁当も園児のそれも全く一緒のようだ。 いま、好き嫌いが激しい子に弥勒さんが注意したようだ。注意というより、諭しているように見えるな。さすが仏。」

ゆみこ:「うーん・・・」

太子:「ようやく目を覚ましたか。もう昼食が終わってしまったぞ。」

ゆみこ:「あれ、わたしどうしてたの?」

太子:「砂遊びする弥勒さんを見て失神したんだ。」

ゆみこ:「そ、そうだ、それで弥勒さんは無事なの?!」

太子:「ごらんのとおり。」

ゆみこ:「ほんとだ、食後の紙芝居の用意をしてる。何ともなくてよかったー。」

太子:「『花咲かじいさん』をするんだな。」

ゆみこ:「紙芝居を読む声もすてきー。」

太子:「ん、まだ食べてる子供もいるぞ。」

ゆみこ:「わたしもよく残って食べてたな。けっこう肩身狭いんだよね、残って食べるって。」

太子:「ふーん、そういうものなのか。よくわからんが。眠っている子供もいるぞ。おなかいっぱいになっていい気持ちなんだろうな。紙芝居が終われば昼寝の時間なのに。」


ゆみこ:「さてお昼寝の時間になってにぎやかな子供たちもすやすや眠っています。手が空いた弥勒さんにちょっとお話を伺ってみましょう。 弥勒さん、お疲れのようですね。」

弥勒:「ええ、ほんとに。でも子供たちはかわいくって、寺の方で休暇をもらうと、どうしても幼稚園にきてしまうんです。お歌うたったり、工作したり、子供と一緒にすごしていると、学ぶことも多いんですよ。きっとホトケの心は子供の純真な心と同じなんですわ。」

ゆみこ:「はやー、弥勒さんの声聞いてるだけで私もホトケの心が分かる気がしてくるなぁ・・うっとり・・・」

太子:「そなたなどにわかるもんか。」

ゆみこ:「むむ、失礼な。」

弥勒:「まぁ太子、お久しゅうございます。約1400年振りでしょうか。」

太子:「それくらいになるか。元気そうで何より。これからも広隆寺を宜しく頼む。」

弥勒:「はい、太子。あなたさまもご自愛下さい。」

ゆみこ:「美しい光景だ〜。聖徳太子と弥勒菩薩、これで太子の性格がもっとよければ言うこと無しなのになぁ。」

太子:「余計なおせわだ」


ゆみこ:「お昼寝が終わり、子供たちは積み木遊びをはじめました。みんないろいろなものをつくっていますねー。」

太子:「見ろ、弥勒さんは積み木で五重塔をつくっているぞ。」

ゆみこ:「う、うますぎる。」

太子:「積み木コンテストに出るべきだな。」

ゆみこ:「へぇ、そんなのあるんですか。」

太子:「知らん」


ゆみこ:「ただいま午後四時、下校の時間です。親御さんに迎えに来てもらう子や、バスに乗り込む子。活気にあふれていた幼稚園が静かになりました。弥勒さんは職員室に帰ってほかの先生達としゃべっているようです。」

太子:「その弥勒菩薩も帰宅の時間のようだ。上着を持って出てきた。」

ゆみこ:「弥勒さーん、今日一日お疲れさまでした。」

弥勒:「ありがとう、きょうもおかげさまで楽しく過ごせました。」


太子:「以上が広隆寺の弥勒の一日であった。」

ゆみこ:「それにしても砂遊びはもう止めてほしいな、文化財保護の人が見たら失神どころじゃすまないよ。」

太子:「そんなことどうでもいいんだよ、弥勒にとっては。子供とふれあうことが楽しいんだから。」

ゆみこ:「そうかもね。それにしても太子にもあんなにかわいい時代があったんだろうね。でも子供の頃からどうせ小憎らしかったんだろうな。」

太子:「なにを!わたしの幼少期といえば、そりゃ聡明で慕われたんだぞ。そなたごときにいわれるすじあいはない」

ゆみこ:「むかっ。太子はいっつも私のこと小馬鹿にするけど、自分はなんぼのもんやさ。太子が法隆寺の創建者じゃなかったらとっくに絶交やわ!」

太子:「あいにく私は法隆寺のトップなんだ。絶交? もしそうなったらそなたは永久に法隆寺には入らせぬからな。」

ゆみこ:「いっつもそう言う!ずるいわ太子。」

太子:「皆の者、本日はこれまで。次回も乞うご期待。」

もどる