パネルディスカッションat興福寺国宝館


■本日の議題:「薬師寺のブツ考」
トップ・オブ・ブツを自称する薬師如来が牛耳る薬師寺の、ブツたちを考える。

■参加パネリスト
・阿修羅像
・カルラ像
・竜燈鬼
・山田寺仏頭
・金剛力士(阿形)

以上5名

仏頭:「私の後輩である薬師寺の薬師三尊、あれはちょっと性格に問題があるようだな。」

カルラ:「薬師三尊とまとめるのはまずいんじゃないかな。薬師と月光・日光は人格が違いそうだし。なんたって月光・日光さんたちは俺達八部衆の羨望の的なんだし。」

竜燈鬼:「そうなんスか?」

カルラ:「あの腰のくびれ!あれほどに美しい腰は見たことないよ。」

阿修羅:「俺達興福寺の八部衆はただ細いだけでほとんど幼児体型やけど、あのブツたちは違うもんな。」

カルラ:「そうなんだよ、オレすっげー憧れてんだ。どうやったらあんなふうになるんだろ。でも、聞いてみるのも野暮だよな。」

阿修羅:「おまえ、あんな腰になりたいと本気で思ってるんか? 俺はええなぁ、とはおもうけど、自分のこの体型気に入ってるしな。だいたい月光・日光は女やしあれで魅力的やけど、おまえみたいなが悩ましい腰つきしてどうすんねん。」

カルラ:「って言うなよ、って!阿修羅は興福寺で、いや日本で一番有名なブツの一人だからいいけど、オレなんて「カルラ?何それ?」と言われたり、「や、!」って言われたり、まるで相手にされてない。だから月光さんたちのようになってもっと注目されたいんだよ。」

阿修羅:「ごめんカルラ。」

カルラ:「いいよ阿修羅、気にしないでくれよ。」

金剛力士:「月光・日光はいいが、あの薬師どのは許せない。なんだ、あのたるんだ体つきは!日ごろの鍛練が足りなさすぎる!!

仏頭:「でたな、この体育会系のノリが。」

阿修羅:「ところで、こんな私的な観点ばっかとちごて、まともに薬師寺におけるブツ事情について考えようや。」

竜燈鬼:「薬師三尊とその他のブツの立場の差とかっスか?」

仏頭:「薬師たちがまぎれもなく薬師寺の頂点を牛耳っている。」

カルラ:「オレ、ブツ像たちの主張・奈良大会に行ったんだけど、そこで聖観音が薬師三尊を先輩って呼んでた。階級制って感じだよな。」

金剛力士:「先輩・後輩の関係の何が悪い! スポーツの世界ではそれが常識であり、そうしてお互いを深めてゆくのだ。だいたい世のブツたちはスポーツ精神に欠けすぎている!」

カルラ:「体育会系はひっこんどけよな。法隆寺のブツたちは先輩格のブツをにいさん・ねえさんって呼んでた。その方が親しみやすくていいよな。薬師寺の場合、薬師がいかにも実権握ってるって感じだ。」

阿修羅:「でも薬師三尊だけじゃなくって聖観音も相当のいいブツやけどな。」

竜燈鬼:「そうそう、聖観音にはプラチナが溶かし込まれてるんっスよね。プラチナって言ったら薬師三尊に入ってる金より高価っスよね。そう考えると聖観音のほうが上じゃないっスかねえ。」

仏頭:「聖(しょう)は控えめでやさしい子だから、それを鼻にかけるようなことはしない。ただその素晴らしい事実を謙虚にありがたく思っているのだ。」

阿修羅:「うん、確かにあのブツはそういう謙遜の美をもってそうやな。」

カルラ:「阿修羅、聖観音さんのこと好きなんだろう。」

阿修羅(顔を赤らめて):「止めろや、そういうのは、こんなとこで。それに俺のほうが年下なのに、年下なんて相手にされへんって、どうせ。俺のことはいいから話しに戻ろうや。」

金剛力士:「薬師の肥満の原因は家にもある。薬師三尊のあの大きさにしては金堂は少し小さい。そのうえ多くの人間があそこに集まるものだからストレスが溜まる。ストレスは立派な肥満の原因なんだ! その点、聖観音は十分なスペースをお堂に、しかも一人でしめている。」

カルラ:「体育会系にしては、なかなか鋭いことを言うじゃないか。肥満についてはどうだっていいけど。そうだよな、家の大きさも重要なキーだよな。でもさ、聖さんのいる東院堂って回廊の裏だろ?目立たないよな。」

竜燈鬼:「東院堂自体は優美でいい建築っスよねえ。日本最古の禅堂として国宝指定も受けているし。なんで圧倒的に薬師のほうが大きな顔をしてるんっスかねえ? 聖観音さんもたくさんいいとこあるのに。」

仏頭:「さっきも言ったが、第一に聖の性格。そして考えられる他の理由はやはり人間が薬師三尊をこの上なく褒め称えるからであろう。」

阿修羅:「“仏教美術の最高傑作”、教科書にも絶対載ってるし。」

竜燈鬼:「ここにいる僕たちだってみんな国宝っスよ。」

カルラ:「竜燈、今は俺達のことはいいんだってば。ところで薬師と月光・日光は仲いいのかな。」

阿修羅:「いいんちゃう?いつも一緒にいるし。」

仏頭:「うむ、あの子達は小さな頃からいつも一緒にいた。なぜか薬師がひとり性格が捻じ曲がったようだが。」

竜燈鬼:「じゃあ、薬師三尊と他のブツの関係ははどうなんっスかね。」

阿修羅:「講堂の薬師三尊って金堂の薬師たちにそっくりやけど、どうみても金堂薬師のほうがえばってそうやな。しかも最近は奈良国立博物館に出張中で、薬師寺での存在ほとんどないし。」

竜燈鬼:「講堂は今工事中っスからねえ。」(2002年の秋完成予定です。)

仏頭:「聖観音はやさしいから誰とでも親しくする。薬師たちのことも大変尊敬してるようだ。」

阿修羅:「大宝蔵にいるブツたちなんて薬師と話しすらせえへんのやろな。なにしろ普段は密室生活やし。」

カルラ:「吉祥天女画像って大宝蔵にいたよな。確か光明皇后がモデルとか。それってすごいんじゃないのか?」

阿修羅:「正月は金堂に飾られるはずや。ということは薬師たちと仲いいんかな? 月光・日光と吉祥天の間で女の戦いがあったりして。」

金剛力士:「いずれにしても皆筋肉が足りない!!これだから鎌倉ブツ以外はなってないと言うんだ!」

カルラ(金剛力士を無視して):「なんにしてもトップは薬師たちなんだろな。」

阿修羅:「確かに薬師三尊ってのは日本のブツの先頭を切ってるよな。あの造形美には太刀打ちできひん。正面から見たら月光・日光の腰の素晴らしさとか、三尊のバランスがこれ以上ないくらいに完璧。斜めから見ても横から見てもその素晴らしさは損なわれんと、勝るとも劣らへん構成の美がある。聖観音かって負けずにすごいけど、薬師も文句なしにすごい。」

カルラ:「結局薬師三尊の好き勝手には文句言えないってことだな。それもなんか悔しいけどな。」

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