■本日の議題:「聖徳太子の是非」 :::聖徳太子を含めた参加者の人間(ブツ)関係概要 (当HP内に限る)::: 十一面観音と薬師如来は太子に対して好感情をもっていない。なぜなら太子は法隆寺の自慢ばかりして、他のブツを軽視する傾向があるからだ。三人とも自我が強く、スムーズに付き合うことは難しいようだ。ビルシャナは太子とは面識はなく、中立の立場をとっている。百済観音は法隆寺出身だけあって、太子とも仲が良い。子供じみた太子に手を焼きながらもうまくやっている。太子は広隆寺創建に大きく関わっていることから、弥勒菩薩も親太子派である。 ■参加パネリスト 百済観音(法隆寺百済観音堂) 十一面観音(聖林寺収蔵庫) ビルシャナ仏(唐招提寺金堂) 弥勒菩薩(広隆寺霊宝館) 薬師如来(薬師寺金堂) ……以上5名 |
ゆみこ:「日本屈指の名ブツによるパネルディスカッション、司会はゆみこでおおくりいたします。議題はずばり『聖徳太子って、結局どうなん?』です。ではパネリストの皆さん、始めて下さい。」 薬師如来(薬師寺):「いらん。人のこと馬鹿にするし。」 十一面観音(聖林寺):「いらぬ。」 ゆみこ:「いらんって、太子のこと?太子は必要ないってこと?」 十一面:「左様。」 弥勒菩薩(広隆寺):「太子は尊い御方です。」 ビルシャナ:「日本史で一番有名な御仁ではないか。万能の政治家でもあるようだし。」 薬師:「あんなののどこが。」 百済観音(法隆寺):「立派な政治家や仏教徒であるばかりでなく、みずからも仏師であられます。」 弥勒:「四天王寺の起源となった四天王像をお彫りになったことはよく知られております。」 薬師:「そうそう、橿原の普賢廃寺の大日如来像も太子が作ったんだっけ。」 十一面(薬師を不思議そうにじーっと見つめて):「よく知っておられるな。」 薬師:「えっ?」 ビルシャナ:「聖徳太子といえば、史上名高い17条憲法、冠位十二階。憲法は製作されたが施行はされていないとか。それでもその内容は実に人として賢明なもので、たたえるに十分値するのではなかろうか。冠位十二階にしても、役人の質の向上に貢献し、大変画期的に思われる。」 薬師:「『和をとうとび、逆らわないのを根本とせよ。人はみな徒党を組み、すぐれたものが少ない。そこで、あるいは君父に従わず、あるいは郷里に背く。しかしながら、上が和し下が睦んで、事を論じるのに成功すれば、事の理はおのずと通じるものだ。何事も成らないことはない。』」 百済:「まぁ、薬師どの、暗唱されているとはすごいですね!おっしゃるように政治家としての業績も称えられるものですが、太子のお心の在り方そのものが有り難がられているのだと思います。その証にあちらこちらのお寺に太子像がございます。」 ビルシャナ:「二歳像、十六歳像、経講讃像などと種類も多い。」 弥勒:「つまり、太子自身が仏教信仰の対象になっておられるということですね。」 十一面:「ふうむ、確かに太子殿や太子堂は各地に存在している。」 ビルシャナ:「ところで基本的なことを聞くようだが、太子信仰はいつから始まったのだ?」 百済:「太子は生前から聖人として多くの人々から尊敬されていました。崩御の100年後には斑鳩宮跡に夢殿が建立され、現在法隆寺での聖霊会の原形と言える忌日法要が始りました。夢殿と同じ時期に大阪の四天王寺でも太子をまつる聖霊院が成立しました。」 弥勒:「平安時代、最澄どのや空海どのも太子を敬っていたようです。貴族たちも競って四天王寺へ参詣しました。太子の御像としては、平安期に作られた法隆寺聖霊院のものが特に有名です。太子への信仰は鎌倉時代になっても衰えることはなく、むしろ太子像は爆発的に造立されました。」 百済:「法隆寺が成立させた聖徳宗はまさしく太子を敬う宗派。また太子学と言って太子についての学問も成立しつつあるようです。」 弥勒:「仏教の伝教者として、数々の寺院も建立なさいました。」 ビルシャナ:「百済観音どのの法隆寺はその最たる例ですな。」 弥勒:「私の広隆寺にしても太子とゆかりが深うございます。太子御自身の創建でなくとも、縁の深い御寺は多くございます。」 薬師:「弥勒どのの広隆寺は確か太子が秦河勝に貴方を賜ったのが始まりだったけ。河勝には他にも仏像を授けてたと思うのだが、そうだ、秦楽寺の千手観音がそれだ。太子縁と言えば、世尊寺には太子の植えた桜の木があるな。」 十一面(再び薬師をじーっと見つめて):「なぜそなたはそのように詳しいのか?」 百済:「私、秦楽寺など知りませんでした。」 十一面:「太子は要らぬと冒頭で申しておったのに、なにか怪しくはないか。」 薬師:「実は・・・そんなに太子のこと嫌いじゃないんだよ、やっぱすごいじゃないか。それに最近は悪友っていうか、時々一緒に遊んだりしているんだ。」 弥勒・百済:「薬師どの、太子のことわかってくださいましたか。」 薬師:「十一面はやはり反太子か?」 十一面:「告白すると・・・若い頃よく太子の本を読んだものだった。」 ゆみこ:「太子の本? どーせ『わが法隆寺は最高なり』とか『救世観音、わたしの肖像』とかいうテの本なんでしょう?」 十一面:「恥ずかしながらそなたの申す通り。しかし太子の情熱に心打たれたものだった。」 ビルシャナ:「法隆寺は日本が世界の誇る文化財。太子がご自慢されるのも無理はない。」 ゆみこ:「じゃあ、結論としては「要らない」ではなく「やはり太子はすごい」ってことでよろしいですね。」 一同:「異議なし。」 (突然太子が会場に入って来て)太子:「フハハハ、やっと私の偉大さを認めたようだな、薬師と十一面よ。十一面、観音という悟っていない頭でよく理解した、誉めてつかわそう。」 十一面:「悟っていないなどと、人に言われたくはない。あなたの功績と影響力は認め称えよう、しかしその性格を認めるわけにはいかぬ。 」 太子:「ふふん、普段は私のことを批判しているくせに、実は私の本を読んで感動していたんだろう。私は密かにそこの司会を買収してこの話し合いの一部始終を録音させておいたのだ。世間にバラせば、ホトケのくせに主張を曲げたという赤っ恥をかくことになるぞ。」 百済:「太子、相変わらず卑怯な手を・・・」 太子:「私の全てを尊敬すると言ったらどうだ?」 十一面:「卑劣な・・・。仕方がない、従おう。」 太子:「それでいい、ではさらばだ。」(太子、会場を出て行く) ゆみこ:「あの・・・十一面さん、太子が私を買収して世間にばらすとかどうとか言ってましたけど、このパネルディスカッションは公衆の前でのものじゃないですか。十分公になっているんですよ。十一面さんもそのつもりで出席して、発言されたのではないのですか?」 十一面:「はっ、そうであった。またしても太子にやられた。」 百済:「ああやって性格はよじれているけれど、憎めないし、あんなところがかわいくもありますわ。」 弥勒:「ええ、同感です。」 薬師:「あのよじれ具合が友達として面白くもあるし。」 十一面:「悔しいが憎みきれぬな。」 ゆみこ:「太子はやっぱり必要ですね、ブツ界にとっても、“ならプロ学会”にとっても。それにしても今ごろ太子、高笑いが止まらないんだろうな・・・はぁぁ。」 |