この季節がまたやってきた。
永遠に繰り返されるこの季節が。
思いは届かぬまま終わりを告げるのだろうか?
報われぬ思いを胸に秘め……
またあの人を待ち続ける。
この哀しさはうまることはあるのだろうか。
小さな幸せさえも叶えられないのか。
何も得られないまま私は終わりを迎える……
悲しみは癒されぬまま。
こぼれる涙が頬を流れ落ちる。
少女の思いに共感するかのように……
静かに桜の花びらが散っていた。
桜が舞うその時に
人気のない道を少年は走っていた。
火照る体とは違い外の空気はどこまでも冷たい。
吐かれる息が白く染め上げられる。
それでも流れてくる汗を拭いもせず、少年は走り続けていた。
理由はひどく簡単。
「遅刻だよ〜」
自らのせいとはいえ、悔やまれてならない。
偶然見つけた小説に目を通すうちに、時間を忘れてしまう。
読み終えた頃にはすっかり夜も更け、朝となっていた。
読み終えた満足感からだろうか?
溜まっていた睡眠欲が鎌首をもたげ、少年を襲う。
逆らう術をもたぬまま少年は誘惑に負け、体を横に倒し眠りについた。
「ああ〜!」
気づけばすっかり朝日が昇りだしていた。
慌てて時計を見るとAM10:00を表示している。
一人暮らしの少年を起こしてくれるものは誰もいるはずなく、無情にも時は刻まれていた。
横たわっていた体をすぐに動かし、急いで制服へと袖を通す。
必要なものは手当たりしだい鞄に詰め込み、外へと飛び出した。
そして現在にいたる訳である。
遅刻に関しては言い訳しようがないが、担任の葛城ミサトなら大目に見てくれるだろう。
なぜなら担任自身に遅刻癖があるのだから。
多少注意されるだけで済まされる。
むしろ怖いのは幼馴染の惣流・アスカ・ラングレー。
持ち前の気の強さで遅刻したシンジに対して
『あんたバカぁ?』
と怒鳴りつけるだろう。
小さい頃から何回も言われてきたその言葉に普通ならば慣れるはずなのに、シンジは未だに対応できずにいた。
怖いという理由もあるのだが、自分を叱りつけてくれる存在ということで強くでることが出来ない。
両親を亡くしたシンジにとってアスカは幼馴染であり、姉の様でもあった。
間違いをさりげなく指摘してくれたりすることは無碍に出来ない。
『あんたバカぁ?』もその中の一つだと分かっている。
というか、そういう風に思いたい。
まぁ、怖いものは怖いのだが。
このまま学校に行っても苦になることはないだろう。
後はただ学校に行くだけだった。
(…………って……さ…………)
囁くような小さな声。
そんな声が聞こえたような気がした。
走り出していた足を止めて周りをうかがう。
しかし、周りには誰もおらず疑問だけが残る。
聞こえた気がしただけなのだからそのまま気にしなければいい、頭にそうよぎるが即座に打ち消す。
言葉では言い表せない何かがその感じは間違いではないと伝えていた。
ふと、ただ立ちすくむだけのシンジに一つの木が目にとまる。
距離的にかなり遠くにある木は普段ならまったく気にしない。
特に目を引くようなものはまるで皆無といえる。
(あの木……)
まるで誘われるかのように足がその木に向かって歩みだす。
学校へ行くことなど忘れ、ただ木に向かうことだけが頭の中を支配していた。
寂れた公園。
そんな表現がぴったりと合う場所だった。
午前中にもかかわらず、人の気配はまったくない。
多少離れた場所にあるということを差し引いてもこの場所は人気がなさすぎた。
目立つのは佇むようにある一本の木。
シンジの目にとまったのはこの木だった。
だが花が咲き乱れているわけでもなく、立派なわけでもない。
桜ということは分かったが、シンジの記憶の中にはこの木が花を咲かせたことはなかったはずだ。
ただあるだけの存在。
それがこの公園を衰退させたような原因のような気もする。
にもかかわらず、なぜこの場所に来たのだろう。
ぼうっと桜の木を見続けるシンジ。
立ち続けるのに疲れたのか近くに備えてあるベンチへと腰掛ける。
(なんで…こんなに気になるんだろう…)
何かに魅入られたかのようになっている。
自覚はあるが悪い気はしていない。
(あれ……?)
そして見続けるうちに意識がまどろんでいった。
いつのまにか閉じていた目を開けると、先ほどと何も変わらない風景が瞳に映る。
違うといえば、心なしかふわふわとした感じがしていた。
尤もそれは漠然としていたものだが。
心地いいといった表現がふと頭をかすめた。
変わらずに木をぼんやりと見つめていると、隣に別の人影があることにようやく気づく。
(え…誰もいなかったのに……?)
寄り添うようにいつの間にか隣にいる人。
よく見てみればそれは女性だった。
年の頃は14、5歳だろうか。
流れるような蒼銀の髪、全てを見透かしたような紅い瞳、体に身に纏うは紺色の和服。
造形的に見れば外国人とも取れるその容貌に和服は違和感を感じるはずだが、その女性には微塵も感じなかった。
それが当たり前のようにも思える。
シンジの視線に気づいたのか女性は優しい笑みを浮かべる。
(うわ…可愛いなぁ)
向けられる笑顔に心臓が高鳴る。
よく考えてみれば女性と二人きりというのはアスカ以外初めてのことだった。
意識してしまうと沈黙が辛くなる。
何かきっかけをつかもうと口から言葉が飛び出した。
「えと…いい天気ですね」
「…………」
返事は返ってこない。
晴れているわけでも雨が降っているわけでもなく、天気は普通だろう。
話題を外したと思ったのかさらに言葉を紡ぎだす。
「あの…その服似合ってますね…」
「…………」
かなりの勇気を込めて言った言葉も空しく空振りとなった。
(ああ〜なに言ってんだろ…!)
空回りしてばかりいる自分に愚痴をもらしてしまう。
無理して話そうなどとしなければいいのに、今のシンジはそれに気づかない。
一人悩んでいると突然頬にヒヤリとした冷たい感触が伝わる。
頬に伸ばされている細く繊細な指。
それが隣の女性のものだと認識するのにシンジは数秒の時間を要した。
(…えっ……?)
驚くシンジをよそに愛しそうに頬を撫でる女性。
成すがままにされていると彼女は手を止めて顔を近づけてくる。
(このままだと…もしかして…)
思春期にありがちな妄想が思考を支配しはじめだす。
淡い期待をよせながらシンジはただじっとしたまま。
触れ合う距離まで近づき後もう少しで重なると思われた時、シンジの意識はなぜか急に沈みだす。
沈み行く意識の中、最後に不思議なものが視界に入った。
枯れていたはずの桜の木から花びらが舞い落ちる光景。
ありえないその光景は唇に感じる優しい温もりと共にしだいに薄れていった。
「う……」
肌に感じる冷たい空気に意識が無理やり覚醒させられる。
(あれ?)
目を覚ますといった感じに疑問が生じた。
自分の中に寝ていたという感覚がまったくないからだ。
わずかばかりぼんやりとする意識で、シンジは今までの出来事を思い出す。
(木を見ていたら隣にあの女性が現れて…その後…あ…!)
キスと言う単語が頭に浮かぶ。
生まれてこのかたキスなどしたことないシンジにとって、それはとても甘美なものだった。
が、よく考えてみればそれはただの夢にも思える。
だいいち世の中そんな都合のいいことがあるわけない。
ため息をつきながらすっかり冷えた体を起こし、ベンチから立ち上がる。
思考に沈んでいた意識を目覚めさせ、視線を目の前の木へと向けると驚愕に目を開いた。
「そんな…なんで…?」
枯れはて、蕾もつけていなかった桜の木が花で覆われている。
舞い落ち敷き詰められる花びらはまるで絨毯のようだった。
だが、幻想的な光景に目を奪われながらもひどく冷静なままの自分もいる。
あまりにもこの光景は非現実的すぎた。
ざわめく心を落ち着けるために目を閉じて深呼吸する。
そして、ゆっくりと目を開けたとき…
そこには来た時と変わらない枯れた木があるだけだった。
太陽が沈み、影がその姿をなくす。
現実的な状況をようやく思い出し、腕につけた時計を見ていれば表示する時間はPM 5:00
ここにきて6時間以上立っていたことを示していた。
この決して暖かくない状況の中、そんなに眠れるほど自分は器用じゃない、そう心の中で思う。
だが、現実ではそれだけの時間が経過していた。
混乱するばかりの状況の中、シンジは最も現実的なことを思い出す。
「学校さぼっちゃったなぁ」
半ば呆然とした中呟く。
分からないことはいつまで考えていても分からない。
思考を切り替えると、とりあえず家に戻ることにした。
どこか後ろ髪惹かれるような思いは残っていたが。
シンジが立ち去った後もそこには変わらない光景のままだった。
―――――ベンチの上に一片の花びらが残っている以外は。
翌日
日もまだ高く昇った時間帯、とぼとぼと道を歩く少年がいた。
誰からも見て取れるほどその様子は沈んでいる。
「うう…ひどいや…」
年上の女性の母性本能をくすぐるようなオーラを出しながら、なにかうわ言のように呟く少年ことシンジ。
彼がどうしてそこまで落ち込んでいるかというと、学校をさぼったことをアスカに責め立てられたのだ。
こちらの言うことは聞く耳もたず、烈火のごとく囃し立てる少女を止めるものは存在しない。
分の悪さに怯みながらも何とか言葉を返そうにも、
『あんたバカぁ?』
にて撃沈。
アスカのワンマンショーで状況は終わりを告げた。
本人いわく『これは愛の鞭よ!』だが、周りには棘つき鞭にしか見えない。
シンジに同情こそするが、誰も助けようとはしなかった。
自分に飛び火が来ることを恐れているからだ。
誰からのフォローもないまま結局シンジはただ『愛の鞭』を受けていた。
愛の鞭だと思いたかったというのが本音だが。
うちひしがれたシンジが向かった先はあの寂れた公園。
自然とここへと来てしまった。
夢だろうがなんだろうがまたあの少女に会えるような気がする。
それを望んでいる自分がいた。
あの時と同じ様にベンチに腰掛けると、少女へと思いを寄せる。
しばらくの時間…と言ってもそれほど待った訳でもないが、何も変わらない状況にシンジはため息をつく。
だめかなぁと思った頃、ふいに隣にあの少女がいることに気づいた。
普通なら怖いとか不気味と言った感じを受けるはずだがシンジは落ち着いている。
それが…当然かのように。
「こんにちは」
「…………」
昨日とは嘘のように自然と話し掛けることが出来た。
応えはないが気にしない。
今はただこの優しい雰囲気を感じていたかった。
昨日のように意識が落ち込むこともなく、気分は良好。
アスカのお説教もいつの間にか心の中から消えていった。
澄んだ空気に頬を滑る風。
そして隣に座る名前も知らない少女。
ただ、それだけで良かった。
(ん…名前?)
今更ながら相手の名前を知らないことに気づく。
まぁいいか、と思おうとするが気になりだしてしまった。
(これくらいは聞いてもいいよね)
勝手に自己完結し隣を覗う。
桜を見続ける横顔に見とれながらも何とか口を開く。
「あのさ、名前なんていうのかな?」
「…………」
自分の名前も言わずにたずねるなどと失礼極まりないが、シンジはそれに気づかない。
沈黙だけが相変わらず続き、失敗したなぁと後悔だけが募る。
諦めの思いだけが心を支配し、高揚していた気持ちが冷め出してしまう。
はぁっとため息をついて視線を落として落ち込んでいると、隣からかすかな声が聞こえてきた。
「レイ……」
「え?」
「綾波…レイ…」
「あ…えっと、僕は碇シンジ」
「…うん」
小さく囁くような声。
聞きとり難いはずなのに心に響き渡るように染みこむ。
綺麗な声だなぁとさらに少女に対する評価が上がる。
それ以上に初めて彼女と会話したことに、冷め出していた気持ちがまた熱をもちだしていた。
この時は有頂天になっていたと言ってもいい。
シンジが話題を振り、レイがそれに相槌をうつだけだったがそれで充分だった。
充実した時間はいつか終わりを告げる。
気づけば日は落ち、鮮やかな夕焼けが景色を覆い尽くしていた。
いつの間にか桜の花びらがちらちらと舞い落ちる。
枯れてしまうのではないかと思われるほど花びらが落ちても、それが止むことはない。
桜の花びらが散る…それは別れの合図を告げているようだった。
「また…会えますか?」
ぽつりと呟くように彼女が言葉を漏らす。
一転して変わる寂しげな雰囲気。
それが苦しくてシンジは…
「うん、また来るよ」
再び会う約束を交わす。
偽り無き本心でもあるのだから。
彼女が望むようにシンジも会うことを望んでいた。
「はい」
その言葉を終えると、レイは姿を消した。
同時に辺りを覆っていた桜が一斉に消えうせる。
『突然消える』という現象にシンジは驚きはしなかった。
いや、驚くとかいう事より関係ないといった感じを受ける。
レイに出会えて、話せると言うことが重要であって何者かなんてことはどうでもよかった。
不思議な充実感に包まれ…シンジはその場を後にした。
あれから毎日といっていいくらいシンジは公園へと通いつめていた。
なんとなくだった毎日からの脱却。
刺激的な毎日であり、レイと出会えることが楽しくてしょうがなかった。
会話は乏しく弾んでいるとはいえないが、それこそが二人にとっていい空間。
しだいに彼女へと惹かれていくことをシンジは自覚していた。
たとえそれが人でないとしても。
一週間をすぎた頃微妙な変化をシンジは感じ取っていた。
満開と言ってもいいくらい咲き乱れていた桜が徐々にその姿を衰えさせている。
元々枯れているとはいえ、レイが姿をあらわせば桜はその時だけ咲き乱れていた。
そして、桜の変化と共に彼女も変わりつつある。
時折寂しげな表情を浮かべ、何かに怯えていた。
笑顔も減り、少ない口数がさらに減ってしまう。
不安を感じながらもシンジはそのことを口に出すことが出来ない。
言ってしまえば何かが壊れる…そんな気がしてならなかったから。
休日の今日、シンジは朝早くから公園へと行っていた。
言い知れぬ不安というか、今日行かなければレイに二度と会えないような気がしてならない。
息が切れそうになるのもかまわず、ひたすらにあの場所へと向かう。
視界にベンチが映り、シンジの目が驚愕で見開いた。
「綾波が…いる」
知らずうちに飛び出す言葉。
それも当然かもしれない。
いつもならシンジが来てからその姿をあらわすはずなのに、今日は違った。
もう一つ目を引いたのが桜。
その役目を終えようとするかのように花がほとんどなくなってきていた。
「綾波……」
レイの表情を見た瞬間胸が締め付けられたようになる。
自然と握り締めていた拳に力が入ってしまう。
思い足取りながらシンジは彼女のもとへと近づいていった。
「どうしてそんな顔をしているの?」
「綾波が悲しそうな表情をしているからだよ…」
桜を見たままの顔を向けようともせず話し掛けてくるレイにいつもと違う感じを受ける。
よく分からない不安と焦りだけがどこまでも残っていた。
「今日の綾波、変だよ?」
「変? ……そうかもしれない」
「どうしたのさ」
「…………」
何も応えず話そうとしない。
いつもなら許せるはずのその行動もひどく気まずい。
「分かんないよ…綾波が何考えているか…」
「…っ! ……ごめんなさい…
シンジの一言は予想以上に反応をもたらせた。
決して責めているわけではないのに、レイは怯えるかのように謝りだす。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「な、泣かないでよ。僕も悪かったから…」
頬を滑り落ちる雫を見た瞬間、罪悪感に埋め尽くされる。
初めて見る彼女の表情に再び心が締め付けられていた。
必死で泣き止まそうとするがレイの涙は止まらない。
うわ言のように謝り続ける状況だけが空しく続いていた。
「碇君は悪くないの。私が悪いから……」
「えっ?」
「…今日で最後なの。もう…碇君に会えないの…!」
突然もたらされる事実にただ呆然とするしか出来ない。
涙に暮れるレイをじっと見続ける。
「どう…して」
「私は人じゃないから…今日までしかいれないの」
ぽつりぽつりともたらされる事実。
レイはもうこの世にいない存在。
人に在らざるもの。
消え行く存在だったが桜によって少しの間だけこの現世にいられるようになった。
桜にまつわりし不思議な力がそれを叶えたらしい。
そして桜の終わりと共にその身は朽ち果てる。
悲しすぎる少女にもたらされた最後の奇跡。
あまりにもそれは儚すぎた。
「そんなのって…!」
「だから今日で終わりなの」
いつもなら心地よかったはずの空気が寂しく肌に触れる。
なぜといった納得できない気持ちばかりが募っていた。
「お願いがあるの…」
「…………」
「今日は…ずっと…傍にいてください」
「…うん」
シンジの手に重ねられる手。
縋りつくような態度に強く出ることは出来なかった。
寄り添ったまま一言も口をきかない二人。
ただその存在を感じ取るかのようにしていた。
時間だけは刻々とすぎていき目の前の桜は枯れた姿をさらしていく。
終わり…そして別れ…目の前の桜を見るたびに脳裏によぎる言葉。
つないだ手に知らずうちに力がこもっていた。
「あ…」
ついに全ての花びらが舞い落ちる。
いつもと変わらない枯れた木の姿。
それは…終わり。
しだいに消えゆくレイの体。
諦めにも似た感じが彼女の心を支配し尽くしていた。
「願わくば…」
消え行く自分にとって最後の願いを彼女は祈った。
小さな小さな願い。
「願わくば…私がいたことをあなたの心の中に…留めておいてください。
僅かでも…ほんの少しでもいいから忘れえぬ思いとして…それだけが私の…」
『願い』
その言葉を言い終える前に消えてしまったレイ。
シンジはそれを聞き取り、最後まで見届けることしか出来なかった。
涙は出ない。
しかし、悲しみはある。
だがそれ以上に喪失感だけが残っていた。
何も考えられずにシンジはその場所から逃げ出してしまう。
居続ければ悲しみと喪失に囚われてしまうそうだったから……
どれくらいの時間が経過したかわからない。
窓から差し込む朝日が次の日を知らせてはいたが。
欠けた心を埋めるかのようにシーツを抱きしめ、眠りにつこうとした。
だが、締め付けられたままの心では眠りへは程遠い。
僅かな期待を込めてシンジはあの場所へと向かうことにした。
早朝だけに静けさだけが染み渡る。
全力で走ってきた体を休めるためにあのベンチへと腰掛けた。
(綾波…)
目の前でいなくなった少女に思いを寄せる。
もしかしたら…と淡い期待を寄せながら。
日が高く登りきるまで待ち続けた。
5時に来てから2時間は経っただろうか。
結局、彼女は現れることはなかった。
思い足取りのまま帰路へと向かう。
「さよなら…」
言えなかった決別を最後に少年の不思議な体験は終わりを告げた。
『願わくば…私がいたことをあなたの心の中に…留めておいてください。
僅かでも…ほんの少しでもいいから忘れえぬ思いとして…それだけが私の…』
忘れることなんて出来ない。
なくすことなんて出来ない。
短かったけれどキミとの出会いは忘れえぬ思いとなるはずだから。
この思いは、永遠となって僕の中に留まり続ける。
そしてこの季節が来るたびに思い出すだろう。
この季節、この時に不思議な……
桜が舞うその時に。
あとがきというなの戯言
O:リクエストの中にあった不思議な話をってやつをやらせてもらいました。
R:会話が少ないの…
O:う〜ん…そうだねぇ。
これはもともと数年前に出した同人誌の話だから。
R:そうなの?
O:マンガだったのを小説としてリメイク。
つもり元を知っている人はあることに期待を寄せるのだよ。
R:???
O:レイちゃん視点が実はある! ドカーン(効果音)
本編では分からなかったレイの思いや桜のことが書かれている。
R:卑怯なやり方なの…
O:ぐはっ…でも今回はただだから…
R:特別に許すの。
そのレイちゃんVerは小説化予定は?
O:反響…しだいかな。
おもしろくないものの続き書いたってしょうがないから。
R:またもや卑怯なの…
O:ま、こなくてもそのうち暇が出来たら書きますよ。
R:期待してるの…
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