今という壁を越えることができるなら
 私は幸せになれるでしょうか?
 この気持ちが貴方と同じものなら
 私は幸せになれます





思い伝わるとき






 幼馴染であり遠い親戚。
 そして家族。
 それが今の私の立場。
 このままでいい、かわらなくていい。壊したくないから。
 ……今を。






 私は4歳のときに事故にあってしまう。
 その時に両親を亡くした。
 親戚がいなため、私は施設に預けられる…はずだった。
 そんな私を引き取ってくれたのが遠い親戚だという碇夫妻。
 悲しみにくれている私を支えてくれた。
 家族として迎えてくれた。
 その優しさが嬉しかった。
 けど、名字は綾波のままにした。
 両親のことを忘れないために。
 そして―――碇君。
 碇夫婦の子供で兄ように慕う人。
 私を守ってくれる人。
 世間の子供は私に冷たかった。
 青い髪、赤い瞳、色素の薄い肌。
 アルビノと呼ばれる先天性のもの。
「や〜い、ばけもの〜」
 少女に向かって子供が石を投げつける。
 罪悪感のかけらもなくそれを繰り返す子供達。
「え〜ん」
 どんなに泣いてもやめようとしない。
 少女にできることは身を屈めて我慢することだけだった。
 いつかはやめてくれることを期待しながら。
「こら〜レイちゃんを虐めるな〜」
 少女――レイに駆け寄る少年が子供達を追い返す。
「シンジが来たぞ、逃げろ〜」
 クモの子を散らすかのように去る少年達。
 周りには誰もいなくなる。
「大丈夫レイちゃん?」
「ふぇ〜ん」
「泣かないで、ね?」
 頭を優しく撫でてあげる。
 母親が子供を撫でるように。
 何回も何回も泣き止むまで。
 ぐすっとしゃくりあげながらもなんとか泣き止み始める。
 泣き顔を見ながらシンジは一つの決心をする
「レイちゃんは僕が守ってあげるから。レイちゃんを泣かせないから」
「…ホント?」
「うん」

 幼い頃の約束。
 今をもってなお破られていない約束。
 ただ、シンジには悪いと思っている。
 そのせいで他の子供達と友達になれなかったから。
 聞いてみたことがある。
「ごめんなさい、私のせいでいつも……」
「気にしなくていいよ、それにレイちゃんを虐める奴らなんか友達じゃないよ」
 嬉しくもあり、悲しくもある。
 自分が重荷のような気がするから。






 そんな毎日を送りながらも、また不幸はやってきた。
 13歳のときの碇君の両親の死。
 研究所の突然の爆発による事故死。
 関連会社は原因の追求に必死になっていた。
 けれど、私達には関係のないこと。
 いなくなってしまった事実のほうがショックだったから。
 2度にわたる家族の消失。
 私はまた悲しみにくれた。
 そんな私を慰めてくれたのは碇君だった。
 本当に辛いのは碇君のほうなのに。
「うっ…ぐすっ…」
 私が見ていないところで静かに泣いている碇君。
 自分がいかに甘えていたのか、碇君のことを考えていないのかを思い知らされた気がした。
 守られるばかりではなく守りたい――初めてそう思った。






 16歳。
 中学を卒業し、高校に入学して2年目。
 碇君の両親が残した遺産で、生活には困ることがなかった。
 だからといって、それにたよったばかりでもない。
 アルバイトをして、生活のための収入を得る。
 自ら進んで何かをしたかった。
 守られてばかりではダメだから。
 年が経つにつれてシンジは逞しくなった。
 母親譲りの綺麗な顔と自らの努力による運動成績と頭脳。
 おまけに優しい性格。
 知らずに人を惹きつけるだけの魅力を持っていた。
 これは一重にレイを守れるようにと努力した結果の賜物だ。
 レイのほうも昔は好奇にさらされた容姿が年齢のために神秘的となり、不思議な魅力をだしていた。
 ただ、彼女にとって唯一の不満は変わらないシンジとの関係。
 ――――家族
 心地よくもあるがそれ以上を望みたかった。
 幼馴染でも、兄でもなく、一人の男性として好きだったから。
 けれど、もしそれを望んで断られたら……今までの関係でいられるだろうか。
 そのことが今ひとつ踏み込めない原因となっている。
 きっと、だめだから。
 他に行く場所がないレイにとってシンジのいる家がつらくなってしまう。
 ――避けたかった。



 だからといって、押さえ切れるものではない。
 シンジがほかの女性と話していると嫉妬してしまう。
 自分以外の女性が傍にいることに耐えられない。
 バレンタインデーでチョコを貰ってくることに怒りもした。
 結局わがままなのだ。
 好き。
 その一言が言いたいのに、言えない。
 二律背反、アンチノミーだ。



 学校が終わり放課後。
 いつものようにシンジとレイは帰っていた。
 特に決めたわけではないが、いつも二人で帰るようになっていた。
「ん〜平和だなぁ」
 ぐっと両手を上で組み背伸びする。
「…どうしたの? 急に」
「なんとなくね、いつまでも綾波とこのままでいれたらいいなって」
 このまま。
 家族のままでいる。
 レイはそれ以上を望みながらも、このままでいることを受け入れてしまう。
「そう…ね。私も……このままでいい」
 寂しそうに。
 だが、シンジは顔を曇らす。
 歩みを刻んでいた足を止め、レイのほうへと振り向く。
「……?」
「綾波、聞いて欲しいことがあるんだ」
 いつになく真剣なその顔に見入ってしまう。
「僕は…僕は綾波のことが好きだよ」
「い、碇君!?」
 心臓の鼓動が高鳴る。
 顔を直視できない。
「今までのような家族の形じゃなくて、一人の女性として傍にいて欲しい。僕はこのままじゃ終わらせたくないんだ」
 その顔に偽りはなく、レイの顔を見続ける。
 それがうれしくて…
「う…ぐすっ……」
「あ、綾波?」
 ―――泣いてしまう。
 涙が止まらない、嬉しいはずなのに。
 ちゃんと言わないと、自分の気持ちを…彼に。
「私も…碇君のことが好き…ずっと、ずっと、初めて会った時から。今のままなんて、私も嫌だった…だけど、嫌われたくなかったから言い出せなくて……」
 臆病だった。
 なくしてしまうことに、失ってしまうことに。
 彼は違った。
 たとえ、それでも私に言ってくれた。
 勇気がなかったのだ、私は。
「だめだなぁ、僕は。泣かせる奴から守るって言ったのに僕が泣かせちゃったよ」
 苦笑する。
「いいの、碇君だから。でも、これからも私を守ってください」
「うん」
 約束が無効になる日は来ない。
 二人がいなくなるまで。
 この時から二人の関係が変わる。
 今というなの壁を壊し、その先へと。
 恋人というなの先へと。






「うふふ…」
 笑みが止まらない。好きと言われたあの瞬間を思い出すだけで、飛び回りたくなる。
「にはは…」
 胸元にクッションを抱えながら左右へとゴロゴロと転げ回る。
 嬉しさのあまり、眠気が全く来ない。
 たとえ、眠気が来たとしても思い出すだけで吹き飛ぶだろう。
「碇君……♪」
 今夜は眠れそうにない。



「おはよう、レイ」
「お、おはよう、シンジ君
 恥ずかしさで声が小さくなってしまう。
 あの後に、二人はもう一つの約束をした。
 お互いを名前で呼ぶということを。
 大人になるにつれてレイのことを綾波と呼ぶようになったシンジ、昔から碇君としか言わなかったレイ。
 シンジは昔のように、レイは先へ進むための言葉の約束。
 昔からレイちゃんと呼んでいたシンジは大丈夫だが、レイにとっては勇気が必要だ。
 16年間で初めて呼ぶのだから。
「だめだよ、レイ。はっきり言ってくれないと」
「…だって、恥ずかしいんだもん」
 顔を伏せながら、目だけを見上げるようにする。
 その仕草がまたかわいい。
「ほんと、かわいいね」
 レイに顔を近づけると、唇を重ねる。
 ただ、触れ合うだけのキス。
「ふぇ?」
 思考が停止する。
 何が起こったのかさっぱり理解できない。
 指だけは今の名残をなぞるかのように唇に触れる。
「…………」
 長い時間をかけてようやく理解する。
 自分がされたことを。

 ボンッ

 一気に顔が赤くなる。
「あははは、本当にかわいいなぁ、レイは」
 そう思いながらちょっと心配になる。
 家でこれじゃ学校で名前なんか呼び合えるのか?、と。
 けど、それでもいい。
 まだまだ時間はあるから。
「レイ、学校行くよ」
「…………」
 真っ赤になったままのレイに呼びかける。
 返事がないことにため息をつくと、手を引いて玄関へと向かう。
 なんとか靴を履かせて、玄関を出る。
 レイは未だにあっちの世界から帰ってこない。
 仕方なくシンジは手を引きながら学校へ向かう。
「…あ、い、碇君…手…」
 ようやく覚醒したレイがまた今の現状に顔を赤らめる。
「久しぶりだよね、手をつなぐなんて何年ぶりかな」
「……うん」
 答えるかわりにちょっとだけ力を込めて手を握り返す。
「私、頑張るから…」
「ん?」
「名前呼べるように…それにずっといれられように…」
「そうだね」



 長い間閉じ込めていた思いを開放した少女は飛び立つ決心をする。
 彼の隣を歩くために。
 伝わった思いは互いの間を駆け抜け、本当の心を知る。
 いつまでも傍に。
 その思いを、心を。








あとがきというなの戯言

O:初ラブラブものですよ〜
  バンバン パフパフ〜 おめでとう〜
R:ラブラブなの。初めて…
O:うむ、なかなかのできだ。2時間で書いたとは思えないな。
R:碇君とキス…ぽぽっ
O:いや〜おいしい役だね。他のキャラいっさい出なかったし。
R:私と碇君以外はいらないの…
O:それはそれで書きにくいものがあるが…なんかこれはいかにも続きそうだな。
R:続かないの?
O:分からない。今は未定だ。
R:そう…
O:「また逢う日まで」のほうはリクエストにより続きを書くことが決定。
R:それはいいことなの。
O:にやっ レイちゃんの恋は実らないかもしれないよ?
R:そ、それはだめなの。
O:omiの気分しだいだからどうなるかは今は分からないよ。
  でも、ハッピーエンドにはするつもりだから。
R:頑張って。
O:頑張りますよ。今回のリクはこれでいいかな?RYOさん。
R:不満があったらどんどん言っていいの。
  「続きをかけ〜」とか。
O:最後のは余計な気がするが…まぁ、いいか。



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