「……そりゃ成功なのか?」 バーテンダーが苦笑しつつ言葉を飛ばす 「モノをどうにかすると言う意味では成功だ、それに……ああまで流血を避けるように仕向けられるとな」 焔の手の中で小さなグラスが音を立てる、グラスの中身はスクリュードライバー……一般的な高校生としてはやや酒には弱いようだ。  ニーベルングと神聖統一協会エクソシスト機関による覇権争い……「剣」の奪取は双方から「魔女」と呼ばれるウィッチ達のコミュニティの一人勝ちという形で幕を閉じた。 「剣」……妖精達の間で宝剣とされているそれが何故日本に来る事になったのか、それは焔の知る所でなければ知りたいと思う所でもない。 夜、焔は自宅の扉を開け、部屋の中に入り込む。 夜遅くまで外に出ている事を叱責する家族は、焔には無い。 血の繋がった家族は産まれたその年に亡くし、育ての家族は焔から両親の遺産を奪った所で、彼を施設へと押しつけた。 その施設からは既に逃げ、彼は今、ニーベルングの狩人として生きていた。 流れ落ちる血の中で、己が身を打ち砕き、それを対価に敵を切り裂いてきた。 彼にとってはそれが当然であり、他に道はなかった。 「血を見たくない、争いは避けたい」というのは彼にとって現実的な言葉とは思えない。 なぜなら、それは彼にとって「生きたくない」と言っているに等しい事だから……。 「………」 脳裏に浮かぶのは小ぶりのナイフと、クラスメイトと戦いたくないという必死の願いの言葉。 「それはどうも。そもそもわたしたちはクラスメートですから、刃を向け合う事態は避けたいですけどね」 そしてそれに重なるように脳裏に響くのは…… 『焔……なんで……?私……焔……いや……見捨てないで……行かないで……焔!!』 絶望的な悲鳴、終わらない悪夢、身体を半分鮮血に染め……助けを求める彼女を…………見捨てた。 その後の事は、焔には殆ど覚えがない……。 目の前に現れた天使……それに向けて刃を振り下ろしたのは現実だったのか、幻だったのか…… それから護るように現れた手と優しい言葉は……幻覚だったのか、現実だったのか…… 『許されても良いんだよ……』 その声はただの幻聴なのかも知れない、自分の罪に背を向けさせるために自分の作り出した言葉なのかも知れない。 それはまだ判らない……ただ、彼はまた殺し続けるだろう。 それこそが………今はまだ、彼自身の往けるただ1つの道なのだから 「それでだ……焔、次の依頼なんだが……」 そして今夜も……狩人は闇に跳ぶ