幸せな未来

「ガトーショコラが届きました」
「……要らない」
 は口元に手を添え、別の部屋へ走り去った。

「アップルパイでも頼みませんか?」
「……考えただけで胸焼けがする」
 Lはルームサービスのメニューから顔を上げ、不思議そうに首を傾いだ。

 最近、の様子がどうもおかしい。
 次の瞬間、彼の聡明な頭脳はひとつの可能性に思い至る。
 そしてそれが自分の中で確信に変わっていくのを感じながら、神妙に口を切った。
 もっともらしく部屋を見まわしてみせる。
「ホテルでベビーベッドって貸し出してくれるんですかね?」
 はびくりと震えたあと、おそるおそる視線を上げた。
 不安に揺れるまなざしで、懸命にLをとらえようとする。
「……迷惑じゃない?」
「バカなことを聞かないで下さい」
 厳しい声で一蹴される。
「うん」
 そうつぶやくの声は、涙で湿っていた。
 ふたりだけの時間はじきに終わるが、それは終焉ではなく、幸せな未来のはじまりだった。

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