電話

 もうずいぶん会っていない。
 は悩んだ末、せめて声だけでもと思い、電話に手を伸ばした。緊張で震える指を動かし、Lのスマートフォンへ発信する。自分の唾を呑み込む音が、やけに大きく響いた。
 しかし、耳に入ってくるのは不通を示す電子音だ。どうやら話し中らしい。
 仕方なく、あとでかけ直すことにする。数分後、スマートフォンから着信音が聞こえてきた。メッセージが届いている。Lからだ。
「久しぶりに電話したのに、話し中でした。……ほかの男と話してたりしてませんよね?」
 はこらえきれず苦笑いをこぼした。ふたりとも同時に互いのスマートフォンへ発信していたのだ。
 こんな偶然もあるんだなと思いつつ、は受け取ったメッセージにどう返信しようかと考えはじめた。

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