よこしまなL

「きゃっ!」
「どうしました?」
「蛾! 蛾!」
 が指差すほうに視線をやれば、確かに窓辺に蛾が一匹はりついていた。おそらくホテルに紛れ込んだのが、うろつきまわるうちにこの部屋までたどりついたのだろう。
 Lは親指を唇に添えながら、淡々と聞き返す。
「蛾、嫌いですか?」
「嫌い、大嫌い! お願い、退治するか外へ追い出して」
 Lはちょっと考えたあとで、ティッシュを一枚摘み取った。
 ふだんのけだるそうな様子からはうかがえない、見事な俊敏さで蛾を捕獲する。
「やった! すごい、L!」
 ティッシュの中で蛾がもがくのを感じながら、Lは得意げに微笑んでみせる。の前に立ち、ふだんよりいっそう背をかがめて、蛾を捕らえた両手を差し出す。
「や、やだちょっと!」
「取引しましょう。このまま逃がすので、今日は二回してください」
「やることがせこいよ! 世紀の名探偵なんでしょ!?」
「あなたの前では単なる男です」
 彼女は「あー、もー」と疎ましげにうなったあとで、自棄を起こして叫んだ。
「わかった! 二回してあげるから!」
「交渉成立、ですね」
 Lはそう言って深くうなずくと、手の中の蛾を放すべく、窓を開いた。
 もちろん約束は守られなかった。

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