オークション

 司会者の声は、いやみなほどよく通った。広い会場の隅々まで響き渡る。
「五万が出ました! 五万です! ほかにいませんか! 五万が出ました!」
 メロはステージの上から、軽蔑のまなざしで、喧騒を吐き出す人々をながめていた。猿ぐつわを噛まされているので、何も言うことはできない。呪いの言葉を吐き出せないのを残念に思いながら、事態の行く末を見守った。
 結局、五万より上の値を挙げるものがおらず、ニアはステージを降り、買われていった。
 司会者は続いてメロを紹介する。
「ではこちらの少年は……そうですね、五千から!」
 会場は静寂に包まれた。
 メロはやがて辛抱しきれなくなり、脚をばたつかせ、物を言えないのを承知で、それでもくちびるを動かした。
 司会者が駆け寄り、腹に蹴りを突きいれてくる。
 途端、呼吸が難しくなった。口端からあふれ、あごを伝うのが、血なのか、唾液なのか、彼にはわからなかった。

「……どうしたの」
 目覚めたとき、ひとりの女が前にたたずんでいた。彼女がであることを確認して、メロはようやく安堵する。
「嫌な夢を見たんだ」
 そう言って、ひとつひとつの場面を詳細に説明しだす。
「ふうん」とつまらなさそうな返事が聞こえた。
 それには構わず、メロは額の脂汗を拭った。
「怖かった。僕がニアよりいかに劣っているか、会場の奴らが揃って知らしめようとしてるみたいで」
「普通、競売にかけられたことのほうを怖がらない?」
「そうかもしれない。でも、本当に怖かったんだ」
「……私なら、五万ドル出しても、あなたを買うと思う」
 メロは驚いた様子で目を見開いたが、すぐに微笑んだ。けれどまたすぐに表情を変え、今度は真顔になる。
「どうせなら六万にしてくれ」
「どうして?」
「ニアが五万だったんだ」
 一拍置いて「そんなのどうでもいいじゃない」と、本当にどうでもよさそうな答えが返った。

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