旅人のうた

 次に沈黙を作れば、そういう話につながることは、メロも予想していた。にもかかわらず空白を生み出してしまったのは、彼自身どこかで、結末を望んでいるのかもしれなかった。
「お別れしましょう」
「……ああ。そうだな」
「あなたはあなたのしたいことをして。私は私のしたいことをするから」
「それじゃあ」
 メロは別れの瞬間の重圧感に耐え兼ね、話を強引に切り上げた。きびすを返し、出口へ向かう。外へ出る間際、あと一歩で屋外に出られるというところで呼び止められる。無視して歩き去ろうとするが、その意に反して、足はかたくなにとどまり続けた。
「メロ」
「なんだよ」
 つい乱暴な口調になってしまったのを、内心反省しながらも、口に出して謝ることはできない。
「勘違いしないで。私は私のしたいことをする。メロはメロのしたいことをする。ただそれだけよ」
「……さっきは別れるって言ったじゃないか」
「当然。だって別れないとお互い何もできないし」
 意味がわからない。メロは捨て鉢になり、その場をあとにした。ドアの閉まる音が、部屋一杯に反響する。
 取り残された女は、退屈そうに、それでいてどこか楽しそうにつぶやいた。
「せっかちだなあ。……別れたらまた出会い直せばいいだけじゃない。私たちが運命で結ばれてるなら、また、きっと」
 短く息をつくと、早速荷造りをはじめた。
 ここにこうしていたところではじまらない。メロはすでに歩き始めた。
 窓から差し込む夕焼けの色が、目の前を横切り、つかのまの幻想を演出した。

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