断罪の楽園

「後悔してない?」
 キスの余韻の香るくちびるで、きみはささやくようにたずねた。
 僕がうなずいてみせると、心底嬉しそうに微笑む。
「僕は同じことをきみにたずねてみたいな。……後悔してない?」
 問い返すと、きみは一瞬眉間にシワを寄せ、つらそうな顔をした。
 切り捨てたもの、失ったもの、背を向けたものの大きさをこらえる表情だった。
「してない。他の全部と引き換えにしたって惜しくないほど、愛しい人に出会えたから」
 その言葉を、僕を見つめながら、僕以外のだれのためでもない、ただひたすら、僕のためだけに告げてくれる。
 全身全霊をこめて、身命を賭して愛に打ち込むきみの姿がきれいで、僕は衝動のおもむくままに抱きしめた。
 瑞々しい薔薇のつぼみが開き、可憐な吐息を吐き出す。
「いつまでも嫌いにならないで。要らないなんて思わないで」
「ああ」
 僕が力強く約束しているにもかかわらず、それでもまだきみは不安げに瞳を曇らせる。
――僕だって、明日にもが離れていきやしないか怯えるあまり、気が触れそうだ。
 この約束には未来も、希望も、おそらくは幸せもない。刹那的で享楽的な愛。
 でも、僕らは誓ったんだ。互いを愛しぬくと。
 だから僕はきみを守る。
 たとえ心がどす黒く変色し、腐敗しきっても、この指の一本一本が血でふやけても、きみとの愛を守る。
 きみという命を授かりながら、虐げる以外の何物をも与えなかった、きみの両親。
 彼らを殺したのが僕だと告げても、きみは笑顔を崩さなかった。
 ただまつげが、いまにも泣き出しそうに震えていたのを、鮮明に覚えている。
 だから僕は常識も、倫理も、何もかもを振り捨てて、きみを選んだ。
 すべては今腕に抱くきみのために。
 

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