きみを食べたい

「人っておいしいのかな?」
「……なんだよ、急に」
 ずいぶん悪趣味な話だ。
 せっかくふたりきりだというのに、色気の欠片もない話題に、月はいささかうんざりして、眉をひそめた。
「映画で、雪山に遭難した人たちが、餓死を回避する為にやむなく仲間の死体を食べるシーンがあってね」
「ああ、なるほど」
「それで聞いたの。でも私、人は食べたくないな。それくらいなら死にたい。人として死にたい」
「……僕は、きみなら食べてもいいし、食べられてもいいよ」
 一瞬、沈黙がよぎる。
「食べる、の意味がちがうでしょ」
 すでに着衣の前を開きはじめている月を見て、は少しだけ呆れた様子でつぶやいた。

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