A列車で行こう

「……ねえ、月くん。この電車は、いったいどこに行き着くのかな」
「さあ。僕にもわからないな」
 僕がそう返すと、きみは不安を押し隠そうとして、無理に笑みをつくった。
 震える睫毛が痛々しくて、けれどそれすらいとおしい。
 きみのすべてを、僕に与えてくれ。
「でも、終電に着いたら、電車、止まっちゃうね」
「そうだな」
 すでに車窓の風景は、見覚えのないものに移り変わっている。
 ここがどこなのか、どこへ進んでいるのか。
 きみは知りたそうに、窓に張りついているけど、そんなの、どうだっていいじゃないか。
 僕がいまここにいる。それだけじゃ不満なのか?
 僕は、僕を取り巻く世界に、きみ以外のすべてがあったとしても、到底受け入れられない。
 きみがいい。きみだけでいいんだ。
「このままずっと、月くんと電車に乗ってるのも、いいかもしれない」
 きみの漏らしたつぶやきに、僕はひどく満足してうなずきかえした。
 満点の回答だ。文句のつけようもないよ。
 どこへ行くかなんて関係ない。
 きみが隣りに座っていれば、それだけで十分さ。
 電車の揺れる音がゴトゴト響いている。

※このSSは故・寺山修司さんの同名の詩からインスピレーションを得ました

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