南山城、佐保・佐紀路の見ブツ記(2007.3.21 快晴)

00 : 序

祝日とゆみこの休みが重なったので、即座に見仏の旅を決断。 せっかくなのでマニアックなところを、ということで、午前中は南山城(京田辺市)の観音寺大御堂と寿宝寺、 午後からは奈良に出て佐保路を目指そう、ということになりました。観音寺大御堂と寿宝寺の最寄り駅は三山木。 そこからバスが出ているのですが、これがまた1日に数本しかない。そこで事細かに乗り合わせ計画を立てたのに、 ゆみこが乗るべき電車を逃してしまって水の泡(笑)。結局、乗り合わせる予定だた駅から西大寺行き普通に揺られ、 予定より15分ほど遅れて三山木に降り立ちました。

駅から観音寺まで2キロ強、歩けない距離ではないんですが、後のことを考えてタクシーで行くことに。 しかしあっという間でした(笑)。近距離でごめんね、おっちゃん。

01 : 大御堂観音寺 〜侮りがたし、京田辺

タクシーから降りると、まだつぼみの桜並木の参道の向こうに、お堂がひとつ。それが大御堂観音寺です。 寺務所のインターホンを押すと、中から「どうぞ〜」とおばあちゃんの声。 引き戸を開けて、拝観したい旨を告げると、お堂で待っていて下さいとのこと。 そこでお堂の方へ行き、横にあった鬼瓦を眺めていたら、(思ったより若い)ご住職も到着。 お堂へと誘って下さいました。 用意されていたスリッパを履いてたんですが、そのままお堂に上がるのは気が引けたので脱いで入りました。 ご住職は「寒いから履いたままで結構ですよ」とおっしゃって下さったんですが、これも仏像を見るための試練です(笑)。

お堂に入ると、ご住職が御厨子を開くことの挨拶と拝観する私たちの健康やら諸願成就祈願の混じった短いお経を唱えられた後、 御厨子を開いて下さいます。 そして現れるのです、天平の十一面観音(国宝)が…! 聖林寺の十一面によく似た十一面さま。ビューティフル。少し反った手の指先なんかは、今にも動き出しそう。 細部にまでわたるこの繊細な表現。ああステキ天平仏! あぁ、よもやこんな所(失礼)で、このようなビューティフルブツに出会えるとは!! ご住職の説明をBGMに至近距離から食い入るように見つめていました。 さすがに近すぎるので、少々首が痛くなったところで、もう少し後ろから見ることに。 聖林寺十一面に比べると、観音寺十一面の方が女性的だと感じる方が多いのもうなずけました。 表情も柔和で、全体的にふっくらしている感じでした。 「等身大」の仏像なので、きっと並んだらいい感じに違いない。並びたい。いや、むしろ抱きつきたい…! 煩悩むき出しの目で見ている私達を、十一面さまは一体どう感じられたことやら。 多分ちょっと(いやかなり)引いてらっしゃったに違いない。 でもこれも悟りを得るための修行だと思って、懸命に我々を受け入れようと…そういうことにしておこう。

十一面さまの他にも、不動やら十二神将やらいましたが、 どれも廃仏毀釈の時に、周囲にあったお堂から持ち込まれたものじゃないか、ということでした。 この観音寺大御堂は正式名称を普賢教法寺と言い、筒城の大寺と呼ばれていたほど、D大学もびっくりの 巨大な敷地面積を誇るお寺だったんだそうです。が、火災やらなにやらで、今じゃこのお堂1つになってしまったらしいのですが、 それでもこの素晴らしき十一面さまは、無事災禍を逃れていらっしゃるワケですよ!! 徳の高さがうかがい知れますよね!!

さて、このお堂には私の心を惹くステキなものがありましてね。「絵心経」というものです。 読み書きの出来ない農民に、絵で般若心経を読めるようにした、というものでして、 さかさまの釜の絵は「まか」、お腹が「はら」、鬼の顔で「はんにゃ」…等々、なんともユーモラスでして。 しかも、それをプリントした手ぬぐいを販売されているのですよ。もちろん即買いです。当然です。ちなみに500円です。
最後にもう一度十一面さまのお顔を拝し、ご住職にお礼を言ってお寺を後にしました。いやはや、これは隠れた名所です。

02 : 寿宝寺 〜これからは隠れ寺で「開けていただく」見仏だ!

帰りは歩いてもいいかな、と思ってたんですが、ごく近所で休日を楽しんでらしたお父上が迎えに来て、 駅まで送ってくださいました。
続いて寿宝寺を目指しました。大きな道から少し入ったところにある、 ということは把握してたんですが、地図を持ってない上に看板も出てないので、一体どこの道で曲がればいいのやらわからない(笑)。 しかも田舎だからか、やたらと車のスピードが速いし怖い。 曲がり角のたびに車に注意しながら道の先をのぞきこんでたら、お寺の屋根らしきものを発見。行ってみたらやっぱりそこでした。

最近立て直されたお寺なので、こざっぱりとしていてキレイです。 寺務所のインターホンを押すと、しばらくしてお寺の方が出てこられました。 電話で拝観予約をした旨を伝え、収蔵庫を開けていただきました。 5人も人間が入ればぎゅうぎゅうになりそうな小さな収蔵庫には、 唇の朱が印象的な千手観音(藤原時代)と、五大明王のうち2体が納められていました。 ここでも、お寺の方の説明が付きます。 お香が漂う中たたずんでおられる千手観音は、元は無垢(無彩色)だったそうですが、 護摩焚きやらなんやらでこげ茶色に染まっていらっしゃいます。 手は実際千本あるらしく、その手一本一本に、目が1つずつ描かれていたそうで、 お寺の方が懐中電灯で現在も残っている部分を照らしてくださいます。 (ちなみに、実際に千本の手を備えている千手は、ここと、唐招提寺と葛井寺の三体だけなんだとか)

ところでここだけの話なんですが、こちらの千手、実はあんまり好みじゃないな〜と思ったのです(爆)。 目は少し吊り上がってるし、なんだか唇の朱だけが妙に目立って、実に妖しい感じがしたんです。 異形というか、怖いというか。
そんなことを思ってたら来ました。
「この仏像、変身するんです。みなさんがあっと驚かれます」。
もちろんガイドブックに載ってたから知ってるよ〜、でも所詮陰影の違いだけだし、 変身っつってもそんな大したもんじゃないでしょー。私はそう思ってました。 そして、収蔵庫の扉が閉められ、中は一瞬闇に。そして千手の頭上の蛍光灯がともった途端。
「うわっ、全然違う!!」
私もゆみこも思わず声をあげてました。さっきまでとは全然違う、すごく美しい仏像が目の前に立ってたんです! 瞼と唇に影が落ち、あの朱は全く見えません。目を伏せ、かすかに微笑んだ優美な千手。
「つまりこれは、月の光で見たほとけさまです。」
おおお、ビバシャドウマジック!!ビバ月の光!一瞬で虜になりました!!

その後、両脇の仏像の説明を受け、拝観料をお支払い。パンフレット100円とあったのですが、「記念にあげます」と 気前よく下さいました。収蔵庫を出てご朱印をいただき、荷物をしまっていると、 「学生さんですか?」と聞かれました・・・!(実は観音寺でも聞かれた。) そこで「いやいや、主婦ですよ!子供もいます〜」って言ったら、 めちゃくちゃ驚かれました。おお、我ら二人、まだまだ捨てたもんじゃないぞー!!

驚くべき美仏に出会い、笑顔でお寺を後にしました。また来て下さいというお寺の方の言葉も嬉しかったです。 ホント、駅に着くまでの間、 ずっと「すごい、すごかった」ばっかり言い合ってました。一見の価値ありまくり。 ていうか見ろ!仏像ファンなら見やがれってんだチクショー!
常に見られる仏像もいいけど、これからは「拝観予約して厨子を開けて見せていただく」見ブツの時代だ! そして、メジャーな寺より隠れ寺の時代だ・・・!! そう確信して、我々は奈良行きの電車に乗ったのでした。恐るべし、南山城。

03 : もちいどの商店街で運命の出会い

三十路を迎えたら、湖北で「開けていただく」見仏をしようと語り合いながら、三山木駅から奈良へ向かいました。 奈良に到着し、ひがしむき商店街へ。新しい店も増えているので、どこにしようかと物色していたのですが、 どことも決めかねたままあっという間に三条通り。この先のもちいどの商店街は、ひがしむきに比べたら妙に寂れていて、 通るのはならまちに行く時だけ。
しかし。
「・・・行ってみる?何か新しいお店があるかも」というゆみこの言葉に、「お昼時でどこも混んでるし、ヒマつぶしに行こうか」と答え、 我々はもちいどの商店街へ足を踏み入れたのです。
いつもながらどこか寂れてる雰囲気に「やっぱりなぁ」と思っていたのですが、頭上に「夢キューブ」と書かれた旗がいくつも並んでいました。 新感覚のモールというようなことを謳っていたので、何かできるんだね〜と言いつつ、ぶらぶら歩いていたのです。 すると、しばらく行ったところに、およそもちいどのには似つかわしくない、ガラス張りのハコ型の店が、 いくつも並んでいる明るい場所を発見。そう、それがプレオープン中の「夢キューブ」だったのです。
京都と沖縄の雑貨を扱ってる店や墨絵作家の方のお店、台湾茶のお店にアクセサリー店・・・面白い試みだと思いながら眺めていた我々は、 ふと、奥まったところにあるお店の前で足を止めました。
「Be-Buddha 怪しいお店ではありません」
貼られていた手書きの看板(ブツの絵入り、しかも画用紙)に、我々の目は釘付けに。ビーブッダ…怪しくない…十分怪しいよ。 だけどお店にいるのは、若くて小柄なお嬢さん。入るでしょ、絶対入るでしょこれは。 というわけで入ってみたところ、そこには、理想の商品がずらりと並べられていたのです。 ブツやら邪鬼やらシカやら何やらが彫られている真鍮のコースターやら小物入れやらクリップに、 後光やら勾玉やら孔雀の羽デザインのネックレス…!! まさしくブツグッズの店ではありませぬかー!!
これだ、私が求めていたものはこれだ。これこそが本当のブツグッズ、そして奈良土産…!! 二人とも必死で抑えてはいたものの、内心はものすごいハイテンションで大フィーバー!
・・・の割に何も買わずに出てしまいましたが。 それなりに長い時間冷やかしてしまいました…。帰り際に、店主さんが手書きの名刺を下さいました。URLが記載されてました。 帰ったら絶対アクセスする…!!燃え立つ心を抱えながら、我々はにこやかに挨拶し、お店を後にしました。
(我慢できないアナタは早速アクセス!!⇒be-buddha
いつも行かないもちいどの商店街で、運命の出会い。これはもうホトケのお導きに間違いない。縁て素晴らしい、出会いってステキ。 口々にそう言いながら、我々はごはん屋探しを続行。結局ひがしむきのお店に入ったのでした。

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