あんなこといわれたら傷つくに決まってんじゃない。
ほんと、鈍いやつよね。
だけど、気になるんだよ。
ここで諦める私だと思わないでよ。
まってなさいよ、シンジ!
かけがえのないあなたへ
第拾話 偽らぬ心をあなたに
ユミが本当のシンジを知り、喜びに満たされる一方で苦しみに囚われている少女たちもまたいた。
拒絶され、嫌悪されたたことは予想以上に深刻な事態をもたらす。
なかでもレイのほうは重症といえる。
純粋すぎるがゆえに事実を受け止めたくなく、『今』から逃げ出した。
その日ユイの瞳に映ったレイの姿はあまりにも痛々しい。
顔色は蒼白でアスカに支えてもらっていなければ今にも倒れそうだった。
隣で支えているアスカでさえ顔色は負けず劣らず悪い。
「どうしたの、レイちゃん!?」
慌てて近寄るも反応はない。
いや、反応ができないといったほうがこの場合はあっている。
一向に事情が分からないため、アスカへと視線を向けた。
その視線に促されてか彼女はポツリポツリと話し出す。
シンジに会ったこと…そして拒絶されたこと…
そこまで話した時、再びレイはその場に崩れ落ちた。
悲しみに暮れ、ただ泣くことしかできない。
そしてユイもまた抱きしめることしかできなかった。
ユイの悩みは深かった。
シンジがらみだということがそれに輪をかけている。
それゆえ自分がしっかりしていればという後悔の念に悩む。
「あなた…私たちはどうすればいいんでしょうか」
寡黙に新聞を読んでいるゲンドウへと声をかけ、助けを求める。
新聞をとじぬまま彼は視線だけを動かした。
「俺たちにはどうすることもできん」
「そんな……」
「これはレイたちの問題だ。自分たちで解決するしかないだろう」
再び視線を戻すと次の言葉はなかった。
確かにゲンドウの言うことは尤もだが、助けることを放棄しているようにも思える。
考えても答えの出ない迷宮にさ迷い、ユイはまた罪悪感に囚われてしまう。
だが、彼女は自分の間違いに気づいていない。
しっかりしていればと言うが、ユイがしっかりとしたところで本当に解決できるものか。
シンジに未来を残す、という長すぎる未来のためにその時のシンジを育てることを放棄した者に何ができる?
レイの気持ちさえも把握できていない状況で何ができるというのだろう?
自分の夫であるゲンドウの本質さえも分からない彼女に何ができる。
自分に会うがためにシンジさえも道具としたことをユイは知らない。
知らないことは悪いことではない。
だが、知ることができるのに知ろうとしないことは間違いだ。
そのことに気づいていない時点でユイは高慢だともいえる。
どんなに素晴らしい知識をもっていたとして、人としてそれが素晴らしいとはいえないのだから。
その点ゲンドウはすでに過去は過去として割り切っている。
シンジのことに対してもだ。
なにをやったところで今更だし、戻ってこられたとしてもいい関係を築けるとは思えない。
たとえシンジが戻ってきたところで、偽りの家族ごっこだ。
本当の家族なのに家族ごっこでははなしにならない。
彼にとってユイが中心であり、他は関係ないのだろう。
(無駄なんだよ…ユイ)
大切なのは今の生活。
そこに変革を求める気は欠片もなかった。
最近のネルフは非常にあわただしい。
ゼーレの残党と呼ばれる存在がちらほらと影を見せ始めているからだ。
組織自体はトップがいなくなったことにより壊滅かとも思われた。
が、その程度でなくなるくらいなら世界を牛耳ることなどできないだろう。
トップがいなくなったことをいい機会だとばかりに利用し、私利私欲に走る者たちが集まりだした。
落ちたとはいえ、まだまだ優秀な人材がそろっている。
こと戦闘面においてはネルフの職員など話にならない。
本気で来られたら諜報部、保安部共に時間稼ぎ程度にしかならないはず。
アスカやレイのガードとしては物足りなかった。
そんな状況でチルドレン両名の拉致が計画されているという情報が舞い込んできたのだ。
ため息もつきたくなる。
戦力を増強させる術もあるが市民に与える影響を考えれば大きくはできない。
尤も、英雄たるチルドレンを守るということなら、いくらでも志願するもの譜が出てくるだろう。
だが、ミサトたちが悩んでいるのはシンジのことだ。
彼が来たという報告はすぐに彼女たちのもとへと伝わった。
もちろんレイやアスカの状態も。
しかし、だからといってどうすることもできないのが現状である。
自分たちはシンジに悪意を向けられ、いつまでも罪悪感を拭いきれない。
自らが招いたこととはいえ、それが悔やんでならない。
あの時は仕方なかったといい都合が良くなれば悪かったと言う。
自分勝手この上ない。
「本当に…ダメね私たちは」
休憩所の一室で机に突っ伏して自虐の笑みを浮かべる。
買っておいたコーヒーはすでに冷え切っていた。
目の前いる加持はシガレットケースを出すと煙草を抜き、火を付ける。
吐き出す煙はあっという間に空気に溶け込み消えていく。
「愚痴るくらいなら考えたほうが賢明だぞ、ミサト」
「…分かっているわよ」
冷めたコーヒーへと手を伸ばし一気にあおる。
苦さのためか味はお世辞にもいいとは言えず、顔をしかめた。
自分で買ったものに文句を言う様に苦笑しながら、加持は灰皿へとタバコを押し付ける。
「アスカたちのことは俺たちが口を出すことじゃないだろ?」
「でもあんまりじゃないの」
「シンジ君を責めるのかい? それは彼だっていい迷惑だろ。彼は自分の気持ちを言い、結果それがアスカたちの思惑とは違っただけだ」
むぅ〜とむくれるミサト。
とても三十過ぎたとは思えない幼いしぐさだ。
「ほんとあんたは冷静よね〜もう少し親身になったら?」
「冷静にならなきゃ見えないこともあるのさ」
再びタバコを取り出し、火を付ける。
結婚したとはいえ、お互いにスタンスは相変わらず変わらない。
「だいたいシンジ君とアスカ、もしくはレイちゃんとが恋人になる必要性がどこにあるんだ」
「だって、アスカもレイもそれを望んでいるのよ?」
「二人は、だろ? シンジ君はそれを望まなかった。尤も俺はその現場を見たわけじゃないから詳しいことは知らないけどな。おまえは自分の思い通りにならないからってまたシンジ君のことを責めるのか?」
その答えにミサトはぐっとつまる。
頭の中で自分のやっていることは正しい、と思う部分があったからだ。
結局は前において家族といいながら大した事もせず、余裕ができたからこそ何かしてやる。
二人の幸せのためにはシンジが不可欠だと思っていた。
そこには苦労した分幸せになって欲しいという思いもあるが、何も身近なものでそれを行う必要はない。
実際、シンジはネルフから離れ新しい人生を歩みだしている。
拘っているのはネルフであり、自分であり、またアスカやレイなのだ。
「今の俺たちにできることは外敵から守り、余計なことに気を使わせないことだ」
「……そうね」
それは考えることの放棄なのだろうか。
理由をつければ納得することができるから。
考えなければ悩む必要もない。
(結局、俺たちのやっていることは自己満足で余計なお世話なんだよ)
タバコを灰皿に置き、コーヒーへと手を伸ばす。
(苦い、な)
舌にタバコの味が残ったままでは美味くも何ともない。
自分の心を表しているかのように味気なかった。
翌日になり、アスカは洗面所の冷たい水で顔を洗っていた。
眠気が飛び、引き締まる感じがする。
タオルに手を伸ばすと水滴を拭い取り鏡で表情を確認した。
(…よし!)
パンと軽く頬を叩き気合を入れる。
いつまでも悩んでいるのは自分には会わない。
気持ちをすっきりさせると鞄を片手に玄関へと向かう。
「いってきま〜す」
「いってらっしゃい、アスカちゃん」
柔らかな笑顔を浮かべるキョウコに見送られて彼女はレイのもとへと向かった。
チャイムを鳴らしてユイが出てくるのを待つ。
いつもなら合わせるかのようにレイが出てくるところだが、昨日の状態からいってそれはないだろう。
ドアを開けて出てきたのは予想通りユイだった。
「おはようございます、おばさま」
「おはよう、アスカちゃん」
母親と同じ様に笑顔で出迎えてくれるが、いつもの元気さに陰りが見える。
理由は手にとるように分かるが。
「レイは起きてます?」
「たぶん、起きているでしょうけど…呼んでも出てこないの」
「じゃあ、私が行きます」
まるで自分の家のように上がりこみ、慣れた様子でレイの部屋へ向かう。
親しき仲にも礼儀ありと、コンコンとドアをノックすることは忘れない。
「レイ、入るわよ」
返事がないことはまったく気にせず、ドアを開けて強引に入る。
部屋の中は相変わらず簡素だが、昔を知るものから見ればずいぶんまともになったといえるだろう。
代えたばかりであろうシーツが敷かれているベットの上に、レイは膝を抱えてふさぎこんでいた。
「なにやってんのよ、学校に行くわよ」
「……いや、行きたくない」
ぎゅっと膝を抱える手に力をこめる。
視線はまったく合わせず俯いたままだ。
「登校拒否の子供みたいなこと言ってんじゃないわよ」
強引に腕を掴み引っ張ろうとするが、弱弱しい状態とは裏腹に強い力で腕を払われた。
「……いや」
「いや…ってあんたそんなことしていたって何にもならないじゃないの」
「…………」
まったく取り付く島もない状態にため息が漏れてしまう。
このままでは説得しようにもできないままだ。
仕方ないとばかりにレイが必ず反応するであろう話題を取り出す。
「分かったわ、今日は休んでいなさいよ。私はこれからシンジのところに行って来るから」
ぴくっと僅かに体が揺れる。
アスカは相変わらずレイから視線を外さない。
「あんたがここで泣いている間に私は絶対に仲直りしてみせる。私だけが仲良くなっても僻んだりしないでよね」
落としていた視線を上げ、キッと睨んでくるレイ。
泣いて目元が晴れているのが痛々しい。
こんな顔もできるのね、とアスカは軽い驚きを覚えた。
「どうしてそう言うこと言うの……?」
「あんたがいつまでも泣いて、悲劇のヒロインぶっているからよ」
「そんなことない…」
「そうじゃないの。泣いてばかりいても何の解決にもならないわ。そんなことしているくらいなら私はもう一度シンジに会って話をしてくる」
こんな時のアスカの行動力をレイは憧れる。
心に思っていてもいざとなると自分は何もできなかった。
シンジが来た時も結局何もいえないまま。
ここで立ち止まればきっと後悔するだろう。
アスカの言うとおりこのままでは何も解決しない。
心なしか思い体を起こし、ベットから降り立つ。
「私も…行く」
先ほどまでとはうって変わった強い眼差し。
それはこのまま終わらせたくない心情か、それともアスカに負けたくない思いか。
ようやく立ち直ったわね、とばかりにアスカは笑みを浮かべた。
「だったらその腫れた目を何とかしなさいよ。そんな顔でシンジに会う気なの?」
「…いじわる」
「ほら、濡らしたタオルとかで冷やしてきなさいよ」
ドンと軽く背を押して部屋から追いやる。
本当に手間がかかるわね〜と思いながらも制服を取り出して用意をしていく。
(ライバルなら張り合いがないと面白くないわ!)
シンジをめぐる一番の強敵を復活させておきながら、ここまで言える彼女はなんと素晴らしいことだろう。
そこが彼女が彼女たる由縁なのかもしれない。
新たなる思いを胸に、少女たちはもう一度大切な思いへと向かいだした。
学校へつくなり、二人はユミの登場を待った。
シンジの場所を知るだけならネルフに聞けばいいだろう。
だが、今はユミに直接聞いておきたかった。
自分たちの知らない今のシンジに一番近いのは彼女だし、シンジとの関係も気になる。
ネルフで調べられた事実ではなく、傍にいる人からの確かな話が欲しかった。
「大切な話があるから、昼休みに屋上にきてくれる?」
ユミを見かけるなり声をかけるアスカ。
突然の呼び出しに彼女は驚いたが、力強く頷くとその要求にこたえるのだった。
あとがきというなの戯言
O:100000だよ、早かったね〜
S:本当に…
O:っていうかこんなに早くていいものなのだろうか?
分かりやすい評価でいいけど。
S:回転が速いとそれだけ記念も早く来るけどね。
O:ぐ…痛いところを
S:また、滞るんじゃないの?
O:かもね…ふふふ…(遠い目)
それはともかくとして、次はいよいよ最終回。
S:あっという間だったね。
O:いったいシンジは誰を選ぶのか?
どんな結末なのだろうか〜〜
S:血を見るような展開はやめてよ〜
O:さぁね…ふふふ……
S:気になることいわないでよ〜
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