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 ヴァイオレット奇譚「Chapter20・"嵐の夜に[3]"」



 ときどき、祖母が亡くなってしまったらと考える。

 それだけは考えちゃダメだと強く思えば思うほど、はっきりとした形でもって 万莉亜の脳裏にちらつきはじめる。
 自分が、孤独と隣り合わせなんだと思い知らされてしまう。それがおそろしくて、何よりもおそろしくて、 いつの頃からか、未来に目を向けることを止めてしまった。
 突然の悲劇も、必然の悲しみも、訪れるときはきっと容赦なく訪れる。自分だけは、なんて盲信は根拠のない 希望に過ぎない。
 愛した人には死なないで欲しい。
 自分を残して、いかないで欲しい。
 たったそれだけの願いなのに、たったそれだけがいつも叶わない。
 それが悲しくて、何よりも悲しくて、未来に目を背けてから、もう何年経ったのだろうか。
――このまま……
 永遠に目が覚めなかったらいいのに。
 そうすればもう、辛い事に向き合わないですむ。未来に怯える事もない。歯を食いしばって一日を乗り越える事もない。きっと、 孤独を恐れる事もない。
 このまま永遠に眠ってしまえば、もう誰も、自分を孤独には出来ない。
「……亜、万莉亜」
 お願い。起こさないで。
「万莉亜」
「……ッ……」
「大丈夫、そんなに深くないよ」
「……い、あつ、いっ……」
 腹部に強烈な熱を感じて、刺すような痛みに全身がこわばる。熱くて熱くて、焦げ付いてしまいそうな激しい痛み。 この痛みは、以前にも感じたことがあった。
「…………」
 ゆっくりと重たいまぶたを持ち上げれば、見慣れない天井に驚いて 上半身を一気に起こす。その瞬間、腹部を走る鈍痛とこみ上げてくる吐き気、眩暈に再び後ろへぐらりと倒れこみ、その 彼女の背中をしっかりとクレアは受け止めた。
「……クレ、ア……さん?」
 あらゆる不快感に襲われながら万莉亜は必死で目を凝らした。
 今はもう、恐怖の象徴でしかないバイオレットの瞳と視線を交わす。それでも 怯えずにすんだのは、瀕死の万莉亜に負けじと今にも死んでしまいそうなほどに弱り果てた彼の表情が見えたせいかもしれない。
「痛いところは?」
 弱々しく微笑みながら問いかけられたクレアの言葉に、万莉亜は少し考えてから「頭」と答えた。 とにかく、割れるほどに頭が痛い。それと、強い吐き気。
「麻酔で無理やり眠らせたから、しばらくは辛いだろうけど、我慢して」
「……麻酔?」
「梨佳に頼んでおいたんだ。万が一、君がヒューゴの支配下に置かれた場合を考えて」
「…………」
 彼が何を話しているのかはさっぱり掴めなかったが、「梨佳」という名前だけが思考に飛び込んできた。
――そうだ……先輩…… 
「先輩……羽沢先輩は……?」
「梨佳も無事だよ。大丈夫」
「…………」
 慈しむようにして額にキスを落とされて、万莉亜は目の前にある彼の首筋に鼻を寄せた。
 甘い香りがする。
 それは、自分が使っている菫の香水の移り香かもしれないし、梨佳の薔薇の香水かもしれない。とにかく、彼は いつも甘い香りに包まれている。
――……お砂糖の……人……
 祖母が、いつか彼をそう呼んでいた。ぴったりだと、微かに口元をほころばせる。
「……万莉亜?」
 微笑む彼女の顔をクレアが覗きこむ。
 やがて震える口元はだんだんと口角を下げて、冷え切った彼女の頬に一筋の涙が流れ落ちた。 それでも、これ以上零してしまわぬようにと、瞬きを堪えて顔をゆがめる万莉亜を見て、彼は黙ったまま流れた頬の涙を指で拭う。
「…………帰りたい」
 涙声で呟いた。
 帰りたい。一刻も早く。絶望が襲うこの夜から早く逃げ出したい。もう誰かの血を見たり、自分の血を見たりするのはうんざりだ。 そんなふうに縋るようにして彼のシャツを強く握れば、その手を自分より一回り大きな手の平で包まれて、硬直した自分の体が少しずつ 脱力し始めるのを感じた。
「約束するよ。君を絶対に連れて帰る」
「……クレア、さん」
「だからもう少し待っててね」
 そう言って、彼女の体を床に敷いた自分のコートの上にゆっくりと寝かせる。 彼にされるがままの万莉亜は、疲れ果てているのか、横にされるのと同時に再びまぶたを閉じた。
「……ごめん」
 喉の奥から零れたような彼の低い声が、目を閉じたままの万莉亜に落とされる。朦朧とした意識の中で それを聞きながら、こんなに低い声だったっけと考える。少しかすれているその忍び声は、彼女に謝罪するのと同じくらい 自分を責め苛んでいるようで、それが少し、可哀相だった。
 大丈夫ですよと教えてあげたかったけど、彼女がそれをするまえにクレアは立ち上がり、彼女を残したまま機関室を後にする。 

 甲板では相変わらずの緊迫状態が続いていた。
 海に浮かぶ船の外周をぐるりと人間が囲み、その中に泳いで合流した三人の枝も加わり、ヒューゴは彼らに 羽交い絞めにされながら機関室から戻ってきた青年を睨みつける。
 クレア・ランスキーの姿を見たのはこれが初めてだったが、彼の話なら耳が腐るほどに聞かされてきた。
 スウェーデン生まれのその男は、線が細く、目の覚めるような美形で、濁りのないブロンドを持っている。 本当はそれがすごく羨ましかったと、あの人はいつも語る。
 本当はそれがすごく、忌々しかったと。
「アレを……よこせ」
 黙ったままただ自分を見据えるクレアに、ヒューゴが口を開く。
 その言葉にクレアは一切反応を見せず、ただ一歩彼の前に踏み出すと、ヒューゴの内ポケットに手を伸ばし、 素早い仕草でそこからナイフを抜き取った。
 それには、先ほど切りつけた万莉亜の血が赤黒くこびりついていてクレアは目を細める。そしてそのまま ナイフを持ち替えると、勢いよくヒューゴの喉元に突き立てた。
「……ッ……!!」
 貫かれた瞬間から再生しようとする肉を弄ぶように、クレアはそのまま突き立てたままの刃を回転させる。 気の遠くなるような痛みに、相手は顔を引きつらせた。
「誰の肉を食べた」
 散々弄んだ後、一気にナイフを引き抜いて問いかける。 その声に怒気は含まれていなかったが、縋りつく余地など一ミリも感じさせない素っ気無さがあった。
 両手を自由に使えないヒューゴは、貫かれた喉を覆うことも出来ず、ただ必死で再生の痛みに耐えながら 荒い呼吸を繰り返す。それでも、口元には薄気味悪い笑みを浮かべている。
「……気、づいて……るんだろ……」
 ほとんど音になっていない声で、そう零す。
 それを聞いたクレアの眉がぴくりと反応を示すと、相手はますます嬉しそうに口の端を持ち上げた。
「俺と……お前は……」
「もういい。お前達、そいつをここで切り刻め」
 ヒューゴの言葉を遮ってクレアがルイスに命令すると、即座に動いたハンリエットが人間達からずいぶんと重量のある電動のチェーンソーを受け取る。
「……俺も、金庫に詰め込むつもりか?」
「僕がそんなに優しい人間に見える?」
 彼の疑問を鼻で笑いながら、クレアはまだ再生しきっていないヒューゴの喉元をぐっと掴んだ。 そのまま力を込めて指をめり込ませれば、相手の顔は再び苦痛に歪む。
「食うのは久しぶりだ」
 追い討ちをかけるようにして耳元で囁き、そのまま耳を食いちぎろうと歯を剥いた瞬間、ガタンと大きな落下音が響き、船が揺れる。 驚いて振り向けば、チェーンソーを抱えていたはずのハンリエットが、いきなり脱力して落としたそれの横にフラフラと膝をついた。
「……ハンリエット?」
 声をかけても彼女は甲板に膝をついたまま俯いてしまい反応を見せない。 そうこうしているうちに、今度はその横にいたシリルも同じようにして脱力を始めた。 そして、とうとうヒューゴを羽交い絞めにしていたルイスまでもがその場に崩れ落ちる。
 全ての枝がその機能を失うと、今度は船の外周を囲んでいた人間達が次々に海に飛び込み、 各々が泳いで岸へと向かう。
 その全てが、クレアの支配下から逃げ出すようにしてそそくさと姿を消して見せた。
 ルイスから解放されたヒューゴは、両手で喉元を覆いながら慌てて後退し、 そしてふわふわと宙から舞い降りてきた救いの女神に羨望の眼差しを向ける。
「……アンジェリア」
 そう呟いたヒューゴの言葉に耳を塞ぎ、逃げ出してしまいたい気持ちを抱えながら クレアは唇を噛んで空から船に降り立つ女を見据えた。

「クレア」

 羽根のような軽さで船に降りてきた女は、泣きたくなるほどに懐かしい声で自分の名前を呼ぶ。
 本当はストレートに憧れているのに、腰まで伸びた長い黒髪は、癖毛ですぐにウェーブしてしまうのと 嘆いていた。誰もが振り向く派手な美女になりたかったのに、この顔はあんまり冴えないわと控えめな目元 を伏せていた。血管まで透けて見えるような色白になりたいわと言いながら、男達を虜にするほどの豊満な胸があったらいいのに と言いながら。
 けれど、そんな彼女の全てを愛していた。
 この身を捧げて、一生守っていこうと誓った妻だった。
「……アンジェ……どうして」
 かつての女性の名を呼びながら、クレアは絶望していた。
 突然激増した第四世代の存在は、それを生み出している第三世代の存在を示唆していた。
 そしてヒューゴが、最早生まれるはずもない第三世代が存在していたという事は、 絶滅していたとされる第二世代の存在もまた同時に証明しかねない。
 それは分かっていたが、考えないようにしていた。考えるだけ無駄だった。 その時は、もう無条件降伏しか残されていない。
 だけどヒューゴと対面して愕然とした。
 彼の顔に、自分の顔がちらつく。
 そして気付いてしまった。
「ヒューゴを食べないで」
 涙声でアンジェリアは呟いた。
 聞きたくないと、クレアが目をつぶる。
「ヒューゴは、クレアの代わりに私の傍にいてくれたわ」
「君は……また……」
 作ってしまった。呪われた血を。寂しいからという、ただそれだけの理由で。
「だって一人は怖いもの」
 感情を殺したような声で答えると、アンジェリアはそのままクレアの傍に近づき、 その肩に腕を回して唇を重ねる。そしてそのバイオレットの瞳を真っ直ぐ彼に向ける。
 動けないのは、彼女の圧倒的な世代の力か、それとも単に臆してしまっているのか、まさか 甘んじてそれを受け入れているのか。分からないままクレアは呆然とアンジェリアを見下ろした。
「なのにクレアは裏切った」
 唇を触れさせたまま囁くと、アンジェリアはそれを離し、目配せしてヒューゴを呼ぶ。
 すっかり元通りになった首をさすりながら大股で歩いてきたヒューゴは、アンジェリアと入れ替わるようにして クレアの前に立ち、今だ動く事の出来ない相手の耳に噛み付いてそれを食いちぎる。クレアが、苦痛に顔を歪ませた。
「さよなら、クレア」
 瞳から大粒の涙を零してアンジェリアが別れの言葉を告げる。
 それを合図に、今度はその顔に食らいつこうとヒューゴが歯を剥くと、 機関室の扉から音を立てて少女が飛び出してきた。
 彼女はそのまま一目散に駆け出すと、クレアの前に立つヒューゴを両手で力いっぱい突き飛ばす。
「万莉亜……っ!」
 そう叫んだ瞬間、自力で支配下から抜け出したのか、驚いたアンジェリアが気を緩めたのか、 とにかくクレアは呪縛から逃れ、ヒューゴに立ち向かおうとする少女を慌てて自分のもとへ引き寄せる。
「何してるっ……」 
「クレアさん! 耳から血が……ッ!!」
 驚いて顔を真っ青にする万莉亜をクレアは有無を言わさず自分の背中へと押し込んだ。
 その動作に、アンジェリアが眉をひそめる。
「……クレアの……マグナ?」
 やがてかけられた探るような言葉に、クレアは即座に首を横に振る。 もっとマシな誤魔化しかたがあるだろうにと自分を叱咤しながら、それでももう、咄嗟に彼女を匿ってしまった行動は 取り返しがつかない。
「どうして、私に嘘をつくの」
「……この子は、関係ない」
 言えば言うほど泥沼だ。アンジェリアの顔つきが、見る見る厳しいものへと変わっていく。
「私のこと、愛してるって言ったわ。私だけだって誓ってくれたわ」
「…………今も、そのつもりだよ」
「どうして私に嘘をつくの……」
「…………」
 力では、どう足掻いても叶わない。第二世代から大きく劣化して生まれた第三世代では、 彼らには傷一つ付けられやしないだろう。
――だめだ……
 この場を切り抜ける策が見つからない。
 そんな風にしてただじっと窮地に堪えていると、突然心臓を握りつぶされるような痛みが走って クレアは甲板に膝をつく。
「お仕置き」
 小さく呟かれたアンジェリアの声が遠い。
 どの臓器を抉られたって死にはしない体のくせに、かつての名残なのか、 心臓を刺激されて全身に冷や汗が流れる。
「クレアさんっ!?」
 彼の後ろにいた万莉亜が、そう叫びながら蹲ってしまったクレアに手を伸ばす。
「クレアさんっ……! クレアさんどうしたんですかっ!?」
「…………ッ、逃げろ……」
 息も絶え絶えに囁かれたクレアの言葉に驚いて万莉亜が目を見開く。
「僕が、立ち上がったら、君は泳いで逃げるんだ……」
「クレアさん……っ?」
 その言葉を少女が飲み込む前に、クレアはヒューゴから取り上げたナイフを再び握り締め、 左右の肺の中間、その下にある心臓めがけて一気に突き立てる。万莉亜が真横で声にならない悲鳴を上げるのを聞きながら、 痛めつけることによって相手の支配から自分の臓器を取り戻したクレアは、フラフラと立ち上がり、彼女を守るようにして アンジェリアとヒューゴの前に立つ。
 気の遠くなるような痛みに汗が噴き出す。それから、寒気も。
 恐怖しているのだろうか。第二世代を前にして、自分がやれることは限られている。 そしてそのどれもが、大した足止めにもならないだろうと知っていた。どう足掻いても もう自分は助からない。その上、万莉亜を逃がしてやれる保証もない。その絶望的な現状に、恐怖している。
 そんなクレアの様子に、アンジェリアは微笑み、ヒューゴも意地の悪い笑みを浮かべていた。
「……やめてください」
 震える手で、自分の盾になっている背中のシャツを掴む。
「もう、みんな……やめてくださいっ」
 シャツを引っ張って、そのままクレアを下がらせ、二人の前に姿を見せた万莉亜が叫ぶ。
「帰ってくださいっ! クレアさん怪我してるんですよ? ルイスさんも、ハンリエットもシリルも倒れてるし、港では 人が死んでたんですっ、なのに、なのにどうしてあなたたち笑ってるんですか……っ!!」
 知らないうちに現れたアンジェリアが誰なのか万莉亜は知らないし、彼ら三人のやり取りを彼女は殆ど見ていない。 もちろん、どんな関係なのかは見当もつかない。それでも、万莉亜は真っ直ぐにアンジェリアと向き合った。 クレアが、彼女を恐れていると感じたからだ。
 怒りか、恐怖か、体を震わせながら怒鳴る少女をアンジェリアは黙って眺めると、一歩踏み出して 万莉亜に近寄る。けれどあと僅か数センチというところで間に割って入ってきたクレアの腕に制止され、彼女は不満そうにそれを一瞥すると 諦めてクレアの腕越しに声をかけた。
「……人が死んだの?」
「そこの……ヒューゴって人の仲間が、殺したんです。警察を……っ」
 声が震える。
 同じバイオレットの瞳をしていても、アンジェリアにはクレアやヒューゴが持つ人間味が 一切感じられなかった。まるで、妖精と対話しているような気分になる。それくらい、 彼女の持つ雰囲気は浮世離れしていて、リアリティに欠けている。風も吹いていないのに揺れる長い黒髪を 眺めながら、万莉亜はただただ目の前の異端に鳥肌を立てた。
「……知らなかったわ。ひどいことをするのね」
「え……?」
 突然目を伏せて涙を流すアンジェリアに戸惑う。
 彼女は両手で顔を覆うと、ひとしきり悲しんでから潤んだ瞳を万莉亜に向けた。
「きっと人間に報復されるわ……怖い……」
「あ、あの……」
「綺麗な髪」
 脈絡もなく伸びてきた指が万莉亜の髪をすくう。柔らかくて細い髪は、 そんな彼女の指をするするとすり抜けて落ちていった。その流れをうっとりとしたアンジェリアの視線が追う。
「私アンジェリア。あなたは?」
「……え、……」
 驚いて視線をクレアに向ける。彼はゆっくりと頷き「逆らうな」と視線で伝える。 それを汲み取った万莉亜が質問に答えた。
「……万莉亜です」
 苗字を言うのは躊躇われたので、名前だけ告げる。それでもアンジェリアは満足そうに微笑んだ。
「マリア。聖女の名前だわ。素敵」
「…………」
「逃げなくちゃ。人間が報復に来るわ」
 はっと我に返ったようにそう呟くと、彼女はその場から踵を返し、そのまま船の先まで一気に走る。 そして、海に飛び出したところで、姿は霧にように消えてしまった。
「ア、アンジェリア……!?」
 突然場から消えた彼女に驚いてヒューゴはその後を追う。
 けれども彼女のようには行かないから、彼は舌打ちをしてそのまま海に飛び込んだ。
 その衝撃で大きく船体が揺れた後、甲板には奇妙な静寂が訪れる。
「……ッ……クレア!?」
 一番初めに意識を取り戻したルイスが頭を持ち上げるのと同時に主人の名前を呼ぶ。 それから、続いて目を覚ましたハンリエットとシリルも同様にして彼に駆け寄った。
「何があったんです! ヒューゴは!?」
「ちょっとどういうことなの!?」
「クレアが怪我してる!」
 そんな風にして騒ぎ出す三人をよそに、クレアは脱力してその場に腰をおろす。
――助かった……
 とはいえ、アンジェリアの気まぐれのおかげだ。次は、こうは行かないだろう。
「……万莉亜?」
 命からがら助かり、同じようにして隣で腰を抜かしている万莉亜が、表情をなくして 床についた自分の両手を見下ろしている事に気付き、クレアは彼女の肩を抱いて顔を覗きこんだ。
「万莉亜?」
「…………」
 頭がくらくらする。
 彼女は、何と言ったのだろう。
――「マリア。淫売の名前だわ」
 彼女が言葉をつむぐその下で、確かに、あるはずのない字幕が流れていた。
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