大切?

 大切?

 本当に?

 本当にそうなの?




 ……嘘つき







かけがえのないあなたへ




第壱話 シンジ、その存在








 ダン!

「そんなことって…!」
 リツコがキーボード打っていた指を止め、拳をMAGIに叩きつけた。
 いつもの冷静な表情に動揺が広がっている。
 何事かと周囲の目が一点に向かう。
「どうしたの、リッちゃん?」
 さほど驚いた様子を見せずに、ユイが歩み寄る。
 リツコのことをリッちゃんなどと呼べるのは彼女くらいだ。
 ゲンドウの妻である彼女に以前なら殺意を覚えていただろうが、今のリツコにはもう過去のことだった。
 補完され満たされてしまった心にはもう迷いがない。
「ユイさん…驚かないで聞いてください」
 ゆっくりと呼吸を落ち着ける。
「シンジ君のデータがなくなっているんです」
「ない? 消えてしまったの? それならまた入れなおせば…」
「そういう意味ではないんです」
 視線を外してキーボードを操作する。
 画面には個人データが広がっていく。
「MAGIにはありとあらゆるデータがあります。それは個人データにおいても同じことです」
 データにはネルフのメンバーが逐一記載されていた。
 当然全員のものだ。
「それなのに、シンジ君のものだけがありません。一人だけなくなることはありえないんです」
 キーボードを滑らかに動く指が文字を入力していく。

『碇シンジ』

 ENTERボタンを押して画面の表示を待った。

『NO DATA』

 示されるものはデータがないと言う事実。
 一人だけなくなるのはありえないとリツコは言ったが、もしかしたら何かの拍子でデータが消えたのかもしれない。
 もちろんリツコもそのことは考慮に入れていた。
 そして、さらに詳しく調べた結果、さらなる事実を知ることになってしまう。
 再びキーボードを操作して過去のデータを引き出す。
 第3使徒戦における戦闘データ。
 詳細なデータが表示されていく。

 第3使徒における戦闘報告
 15年ぶりの使徒の襲来、第3新東京市を目指して侵攻。
 N2地雷によって殲滅を図るが失敗。
 重症であった綾波レイが、エヴァンゲリオン初号機に乗って殲滅を図るが敗北。
 しかし、暴走により使徒を殲滅することに成功。


 違う…これは違う。
 ユイは自分の目を疑う。
 自分が知っている情報とはまるで違った。
 だが、ユイにかまわず情報は流れ続ける。


 第4使徒における戦闘報告
 前回から3週間を経て襲来。
 光の鞭に翻弄され苦戦を強いられる。
 途中綾波レイのクラスメイトが見つかるというハプニングがあるが、エントリープラグに同乗することによって回避。
 シンクロ率を下げることになるが、綾波レイの捨て身により殲滅に成功。

 第5使徒における戦闘報告
 綾波レイが乗る初号機が出撃するが加粒子砲の直撃によって撤退を余儀なくされる。
 葛城ミサト提案によるヤシマ作戦遂行。
 動けない零号機に盾を取り付け、初号機のポジトロンライフルでの狙撃にて殲滅。
 零号機に多大な被害がでることとなった。

   第6使徒における戦闘報告
 弐号機輸送中に太平洋上に出現。
 水中戦闘となったが、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーの手によって殲滅。
 その操縦技術の高さを示す。

 第7使徒における戦闘報告
 自分の体を分離合体できるという特異な使徒に苦戦。
 N2による足止めをする。
 その期間において、ファースト及びセカンドチルドレンのユニゾンを行う。
 結果、作戦は功を奏し使徒を殲滅する。


「もう…いいわ」
 力なくユイは声を出す。
 他の者たちも同様に驚いていた。
 報告に出されているデータには少年のことはまるでない。
 同時に流れていた映像データにも少年―――シンジの姿はなかった。
 それはまるで、最初からその人物がいないことを示しているかのように取れる。
「どうして……?」
「他のデータを見てもシンジ君の痕跡は何もありません。…データが消えたのではなく、まるで最初からなかったかのように」
 ユイの体は震え続けていた。
 すべてが暗転してしまったかのように思える。
 視界がゆっくりと沈み、暗闇へと落ちていった。






 ユイが倒れたと言う報告はすぐにゲンドウに伝わった。
 同時に、ネルフの主要メンバーが集められる。
 シンジについての報告をするためだ。
「なんなのよ…これは!」
 見せられた映像にアスカは激昂する。
 たちの悪いいたずらにしか思えなかった。
 シンジがいたであろう場所にはレイの姿が映る。
 そんなものを信じる気にはなれない。
 シンジといた生活は嘘ではないのだから。
「見た通りよ…いくら探してもシンジ君のデータはないの」
「そんなわけ……!」
「現実を見なさい、それが真実なのよ」
 リツコとて好きでこんなことを言っているわけではない。
 こういった状況だからこそ冷静でいなければならないのだ。
「碇君は…」
 歩み寄ってくるレイの様子は傍目から見てもいいものではない。
 顔は青ざめて、足取りも不安定だった。
「分からない、としか言えないわ」
 ため息をつきながら視線を落とす。
 記憶には残っていても、データとしては存在していない。
 それはまるで最初からいなかったかのように。
 だが、どんな人間であろうと痕跡はあるはずなのだ。
 今回のようなことはありえるはずがない。
 いっそ夢だったらどれだけ楽だろう。
 一人ならそれで納得することができる。
 しかし、誰もが覚えているのだ、シンジのことを。
 それでは済まされない。
「ただ…」
「ただ?」
「碇司令なら知っているかもしれない」
 かすかな希望がリツコの口からこぼれる。
 回線を開き、ユイのいる病室へと映像が開く。
「碇司令、ユイさんの様態は?」
「問題ない、軽いショックを受けただけだ。それより、私に聞きたいことがあるのだろう?」
 サングラスで隠される瞳からは鈍い輝きが出ている。
 リツコはためらいもせずに用件を聞き出した。
「司令は…シンジ君の事を知っているのではないですか?」
「シンジか……」
 沈黙が支配する。
 やけに喉が渇いたように感じていた。
「この世界は、シンジが望んだものなのかもしれん」
「それはどういう意味ですか?」
「シンジがサードインパクトの依代となったことは君も知っているだろう」
「はい」
「世界はその依代となったものが創造する。シンジは誰もが満たされている世界を望んだのだろう。その証拠がユイやナオコ君やキョウコ君だ」
 視線が三人を捕らえる。
 本来もう逢えないだろう人物たち。
 それが体現していた。
「死んでしまった人物さえ生還させる力、それをもっているのはシンジだけだ。世界を構築するほどの力だからな。そして、シンジは自分という存在はその輪の中に加えなかった。ネルフは…いや、私はシンジを傷つけすぎた。もう生への執着がなくなったのかもしれないな」
 冷たい言い方だが、ゲンドウの言っていることに間違いはない。
 ゲンドウにとってもシンジは今の生活を壊す存在なのだから。
 どうでもいいのが正直な気持ちなのかもしれない。
 誰もがシンジに対して罪悪感を持っている。
 シンジが自分たちを嫌っていると思っている。
 勝手な都合で少年の人生をもてあそんでしまっていたから。
 だから、「そんなはずはない」などと軽軽しく言えはしなかった。
 シンジの真意を知っているのはシンジ自身だけなのだから。






「父さんが言ってることは当たってるね〜」
 ビルの最上階に腰掛ける少年。
 髪を揺らしている風はけっして優しいものではない。
 いつでも体をもっていくことができるくらいだ。
 それでも少年は平気な顔でいた。
「僕が戻っても喜ぶ人のほうが少ないだろうし」
 独白は続く。
「幸せな人たちの間に割り込みたくない。う〜ん…違うか、傷つくのが怖いだけだね」
 足をぷらぷらさせながらジオフロントを眺める。
 その表情はどこまでも優しい。
「そのうちみんな忘れてくれるよね」
 放り出していた足を戻して立ち上がる。
「これからどうしようかな? 行く当てもないし…世界中回ってみるのもいいかな。でも、この格好だと目立つよなぁ」
 改めて自らの姿を確認する。
 銀髪にオッドアイ。
 普通では見られない姿だ。
「やっぱり変装かな?ばれたら元も子もないからね」
 服を引っ張ってう〜んと唸る。
 大して困っているようには思えない。
「ともかくどっかに行こう」
 風に流されるようにして少年はその場から消えた。






 そして、2017年を迎える。








あとがきというなの戯言

O:8000HITおめでとう〜
S:……
O:何だね、反応薄いよ。
S:いまさらですよね…
O:アスカちゃんとレイちゃんと同じこと言うんだね。
  別にいいじゃ〜ん。
S:そうですけど…僕はどうなるんですか?
O:いろいろしてもらう。
S:いろいろ?
O:……女装とか(ニヤッ)
S:いやだぁ〜〜僕はまともだ〜〜〜
O:カヲル君相手に顔を赤らめていたくせに。
  それに、何人かの感想でやおいが見たいとか言うのもあったからなぁ。
S:やですよぉ…
O:それはomiしだいさ。
S:そんなぁ〜〜〜
O:どうなることやら。ふふふ・……(フェードインしながら去っていく)
S:待ってよお。






K:やおいはいいねぇ…期待しているよ。



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