僕って何?


 エヴァのパイロット?


 大人たちの罪の象徴?


 祭り上げる英雄?




 あなたたちが必要としているのはあなたたちにとって都合のいい僕でしょ?




かけがえのないあなたへ





第参話 罪と少年―前編―








 懐かしく流れる景色に感慨も見せず、少年はただリニアに乗っていた。
 これから連れて行かれる場所は思い出深い。
 決して望んで行きたいとは思ってもいない。
 近くに座っている黒服を見ながらシンジはため息をついた。
 僅かに揺れた体に黒服たちはピクリと反応を見せる。
 何かしら行動をとられるとでも思ったのだろう。
 例えば逃げ出すとか。
 そういった素振りを見せたのなら間違いなく妨害の行動を起こさなくてはならない。
 司令じきじきの命令を受けているのだから。
 そんな黒服たちとの思いとは別に、シンジにその気はなかった。
 逃げ出したところでまた来るのは目に見えている。
 いっそのこと全員殺してやろうか?などと危険な考えも浮かんだが、余計に面倒が増えるだけなので即座に打ち消す。
 再びため息をつきながら、早く帰りたいと内心で一人愚痴ることにした。






 発令所ではシンジの帰りを待ち続けた人物がそろっていた。
 中でも一番落ち着きがないのはユイ。
 いまかいまかと部屋の中をうろついている。
 10年ぶりの親子の再会なのだから仕方ないと、誰もがそれを止めようとしない。
 内心はいつもとのギャップに驚かされているが。
 焦る心を落ち着け、ユイは扉を見続ける。

 シュ

 思いが通じたのか扉が左右に開き、黒服に連れ添われた人物が姿をあらわす。
 銀髪にオッドアイ。
 一瞬別人かと思われたがそれは間違いなくシンジだった。
 だが、表情は不機嫌極まりないといった感じだ。
「シンジ!」
 喜びのあまりユイはシンジに駆け寄る。
 瞳からは涙がこぼれ駆け寄る姿に、皆が感動の再会を想像した。
 が、シンジの第一声はそれを裏切る結果となる。
「父さん、用事があるなら早くしてくれない?」
 近寄って来る母親を一瞥すると、さもめんどくさそうに言い捨てる。
 ユイは足その場で固まり呆然と立ちすくんでしまう。
「何言ってのよあんたは!」
 いち早く返答をしたのはアスカ。
 彼女にはシンジやることが理解できなかった。
 自分と同じ様に再会を喜ぶのではなく、ただ無視しただけ。
 肉親に対するあまりの態度に怒りさえ覚えていた。
 だが、当のシンジはアスカさえも無視する。
「もう一度言うよ、何か用事があるの?」
「…ユイや他のものたちがお前に会いたがっていた」
 いつものように上から見下ろさず、同じ目線でゲンドウは答えた。
 サングラスのせいでその真意は悟れない。
 シンジの身長はいつのまにかゲンドウと並ぶほどになっている。
 自然と目線の位置も同じになっていた。
「会いたがっていた…ねぇ、それじゃもう会ったことだし帰っていいよね?」
 それだけ言うと踵を返し、扉へと向かう。
 冗談かと思われたが止まる様子はなく、慌てて止めに入る。
「待て、シンジ」
「いいかげんにしてよ…これからアルバイトに行かなくちゃいけないんだから」
 引き止める手を振り払い睨みをきかす。
 あまりのシンジの変貌に戸惑い、ゲンドウは自然と後ずさった。
 だがここで引き下がるわけには行かない。
 これまでの2年間の捜索の結果をアルバイトの一言で終わらされてしまうのだ。
 納得できる理由ではない。
 何より再会はユイが望んでいるのだから。
 しかしシンジには関係のないことだった。
「アルバイトに行こうと思ったら無理やり黒服の人たちに連れてこられたんだよね」
 ちらっと視線を向ける。
 つられるようにしてゲンドウも視線をかえ、いつもの重圧のあるものへとした。
 たちまち黒服の顔に戸惑いが走る。
 傍らでシンジはけらけらと笑いながらそれを見ていた。
 あまりにも予想通りに物事が進みすぎているからだ。
 さすがに可哀想になり、助けの手を差し伸べることにした。
「そんなに睨んだら可哀想じゃないか。父さんが命令したことを忠実に実行したんだよ?」
「私は無理やり連れて来いとは言っていない」
 シンジはため息をつき、やれやれと小さく呟く。
「父さん自分の立場分かってるの? ネルフの総司令が連れて来いって言ったらそれは絶対ってことだよ。だめでしたなんて言ったらたちまち首にされるのは目に見えてる。ゼーレを倒した天下のネルフなんだし」
 ねぇと黒服の保安部に相槌を打つ。
 困惑の表情を浮かべただけで答えはなかった。
 肯定ともとれる意思表示に見える。
 それがまたシンジの笑いを誘った。
「まぁ、それはそれとして…会ったからってその後どうするの? まさか戻ってきてほしいなんて言わないよね?」
 体勢をユイに向け覗き込むようにして表情を伺う。
 今までのやり取りに多少怯んでいたが、ようやくシンジが会話を向けてきたことにユイは安堵の表情を見せて答えた。
「私はシンジと一緒に家族として過ごしたい…だから戻ってきてほしい」
 懇願ともいえる思い。
 今の唯一の願いともいえる。
「僕はやだなぁ…父さんに殺されたくないし」
 あっさりと拒否した上にとんでもない発言をする。
 ゲンドウの瞳はサングラスで遮られ、様子は伺えない。
「…何を言っているの?」
「母さんも分からない人だなぁ。父さんは母さんのためにサードインパクトを起こすような人物なんだよ。そんな人物が他の人物を望むわけないだろ」
「そんな…」
「事実、僕のことは母さんを取り戻すための駒としてしか見られなかった。今更戻ってこられても迷惑なだけ」
 ゲンドウは答えない。
 答えられないといったほうが正しかった。
 シンジの言ったことは今の自分が思っている感情なのだから。
 呆然としている母親を目にして満足しながら、彼は話を続ける。
「この際だから言いたいこと言わせてもらうよ」
 誰にしようかな〜と思いながら人物を選ぶ。
(父さんと母さんに対しては言ったばかりだし…副司令も父さんと同じ理由だからなぁ。めんどくさいから全員に言うか。まずは大人たちだね)
「日向さん、青葉さん、マヤさん」
「えっ」
 突然の指名に戸惑う。
 しかしシンジはまったく気にしないで続けた。
「僕に戻ってきてほしかった?」
「もちろんだよ」
「当たり前じゃないか」
「そうよ、シンジ君」
 三人とも頷き、当然のように答える。
 予想通りすぎる返答にシンジは笑顔を浮かべてまた返す。
「別に嘘を言わなくてもいいですよ」
「嘘!?」
「本当にそう思うような優しさがあるなら、僕をエヴァに乗せたりはしないですよ。大切なのは僕がエヴァに乗っていた時だけでしょう」
「ち……」
「次はミサトさんとリツコさん…と」
 否定しようとする三人を無視してミサトに向き直る。
 それでも続けようとするがシンジから明確な拒絶が伝わってきた。
 言葉ではなく、目に見えない何かで。
「ミサトさんもリツコさんも僕に戻ってきてほしかった?」
「それは…」
「ああ、答えなくてもいいですよ。どうせ同じ様に言いそうだし」
 自分から答えを求めておいて、それを拒否する態度に僅かに怒りが込み上げる。
 だがそれよりも見透かされたような感じが気になった。
「二人にとっても僕は駒にしかすぎませんからね。ミサトさんは僕のことを家族といいながら、肝心な時には助けてくれないし。あ、アスカのときもだけど。所詮僕はあなたの使徒への復讐のための道具ですから。リツコさんにとってもただのエヴァのパイロットにすぎませんよね」
 責めているとしか思えないシンジの言葉は二人に突き刺さる。
 笑顔ではいるが視線はどこまでも冷たい。
 反論しようにも正論ゆえに否定することはできなかった。
 その通りと自分の心の中で相槌をうつほどに。
「加持さんは…特に言うことないや。加持さんにとって僕はエヴァのパイロット以外の何者でもないし。特に利用しようだとかそういう考えはなかったですよね」
「確かにそうかな」
 苦笑しながらばつが悪そうな態度を浮かべる。
 昔からは想像できない鋭さに驚きもしていたが。
 一通り聞き終えると満足げに納得し、突然腕を広げはじめた。
「つまりみんなが思っているのはこういうことですよね。」
 腕を天に向かって広げ、急に芝居がかった口調で語りだす。
「突然無理やりエヴァンゲリオン初号機に乗せられたシンジ君は嫌がりました。それでも彼はエヴァンゲリオンに乗り続けたのです。なぜか? それはみんなに、父親に褒められるから…そして自分にはそれしかなかったから」
 一人動き回り、独白を続ける。
「仲間と助け合い、シンジ君は使徒を次々と倒していきます。それはもうゼーレと碇ゲンドウの予想通りに。さまざまな出来事に傷つきながら、それでも彼は頑張ります。だけど辛い時もあるのです。しかし、大人たちは誰も助けてはくれませんでした」
 顔を伺うように動き、けらけらと笑う。
 大人たちを笑っているのか…自分のことを笑っているのか、それはわからない。
 大人たちは苦渋を浮かべるばかりだ。
「そしてシンジ君の心は限界を迎え、壊れてしまいます。結果、サードインパクトを起こして全ては一つになりました。それは一瞬。その間に全ての人々は補完され、満たされて戻ってきたとさ。めでたしめでたし」
 なにやら楽しげにしている。
 これで終わりか? と思われたが一呼吸つくと、それは続けられた。
「ここまででお話は終わり。だけど、まだ続きがあるのです。幸せになって戻ってきたネルフの人々に一つの疑問が残りました。シンジ君はどこだろう、と。だからみんなで探してあげることにします。どうしてか? それは…」
 柔らかな空気にゆっくりと圧迫感が加わる。
 はっきりとではないが漠然とした形で。
 ゆっくりと…そして確かに。
「それは…不幸な彼を助けてあげたいから。幸せに満たされて私たちには、シンジ君を助けてあげられる余裕があります。だから可哀想な彼に幸せを恵んで上げましょう。ああ、可哀想なシンジ君。今までごめんなさい」
 ふっと動きが止まり、強烈な圧迫感が体を包む。
 そして感じる彼の心。
 どこまでも冷たく…固い拒絶。
 このときようやく大人たちは彼の心を知った。








あとがきというなの戯言

O:30000HITだよ〜。
S:…………
O:どうしたんだい?
S:こ、これはあまりにも…
O:言いたいことは言うって前回のあとがきで言っただろ?
S:ほんとに書くとは思わなかった。
R:碇君はこんなひとじゃないわ(怒)
A:シンジにこんな度胸があるわけないじゃない(怒)
O:み、みんなして…ふ…ふふ……
A:な、何よあんた…
R:ついに壊れたのよ。
S:このパターンだと…きっと何か良からぬことを考えているんじゃ。
O:そのとお〜り。次の後編ではレイちゃんもアスカちゃんも責められるよ。
A:な…
R:……!
お:これもまた一つのEOEということで。
A:…………
R:…………
S:…………
O:反応なし…今のうちに逃げよう(シュタ!)
A:…………
R:…………
S:…………



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