終わりよければ全てよし。
確かにその意見は一理あると言えよう。
しかし、必ずしもそうだと言い切ることは出来ない。
幸せな終わり方を迎えたはずなのに、苦しむ人たちもいるのだから
かけがえのないあなたへ
第陸話 出会いは突然に
『もう二度と僕に関わらないでください』
吐き捨てるかのように放たれ、胸に突き刺さった言葉。
そしてその言葉を最後に遠ざかるシンジの姿。
(待って…行かないで…!)
引きとめようとして伸ばした手は、届くことなく虚空をさまようだけ。
「待って!」
心の中だけで呟いていた言葉を声に出す。
効果を示したのかシンジはその場で立ち止まった。
ゆっくりとこちらへと振り向く。
いつもの優しげな笑顔を向けてくれることに期待を込め、シンジを待った。
「……しつこいよ、綾波」
思いとは裏腹に浴びせられるのは冷たいものだった。
自分を見つめる眼差しはどこまでも冷たく、暗い光を放っている。
その瞳に見つめられレイはただ硬直するばかり。
「だから綾波のことが嫌いなんだよ」
とどめとなる言葉には優しさの欠片もなかった。
「はっ…!」
飛び起こすようにしておきあがった体と共に、意識が覚醒する。
パジャマに染みこんだ汗が気持ち悪い。
低血圧であるレイはいつもなら寝起きはいいと言えなかった。
ぼ〜っとすることがしばしばあるのにこの日はまったくそれがない。
代わりにあるものはひどい悲しみだった。
「あれは…夢…?」
拒絶と嫌悪を向けられた。
それは夢であり、一部は事実でもある。
夢であるということに安堵のため息を漏らすが、心のどこかで夢ではなく、本当にそう思われているのではないかと言う気持ちがあった。
拒絶の上に、嫌悪の対象とまでされている、そう思うだけで胸が締め付けられる。
「いや……」
純粋な少女はその夢を嘘として避ける術を知らなかった。
場所は変わって喫茶店『アメシスト』
ユミを学校へと送り出しシンジは仕事に精を出していた。
だが、そうは言っても死ぬほど忙しいわけでもなく、食器の整理を黙々とするばかり。
朝から満席になることは珍しいのでこれが当たり前だろうが。
ノブタカはノブタカで新聞を読みふけり手伝う気はまったくないらしい。
決してサボっているのではなく、まだ手伝う必要がないと判断してのことだ。
シンジはそう思っている。
……というかそう思いたい。
もうすぐ昼時となり、店内が賑わうようになれば否が応でも手伝うはず。
喫茶店とは言っても簡単な食事も作るので、一人でやるのは少々難がある。
拭いていた食器を手早く棚に戻すと店の奥へと向かう。
必要な材料は確認済みなので後は用意するだけ…のはずだった。
シンジの視界の片隅に映る一つの包み。
長方形の形をしている物体を薄い桃色の布が包み込んでいた。
(あれってユミちゃんのお弁当…)
忘れていったのかと心の中で呟く。
寝坊していたのでそこまで気が回らなかったのだろう。
シンジの頭の中でお弁当忘れた〜と学校で騒ぐユミが容易に想像できた。
となればこのあとすることは、
1.弁当を届けに行く
2.自業自得と見捨てる
この二つとなるのだが、後者を選べば間違いなく文句を言われるだろう。
自業自得とはいえ、届けに来てほしいのが心情である。
後々面倒なのでこれは却下。
前者は前者でまた面倒なこともあった。
届けに行くことが面倒なのではなく届けに行く場所が問題なのだ。
第三新東京市立第壱高等学校。
ここはレイやアスカをはじめとする昔の知り合いがいる場所。
第二新東京市にいるならわざわざ第三新東京市の学校に行く必要はないとは思うが、近年の交通整理によって第二〜第三をつなぐ交通機関も発達した。
お互いを行き来する時間は30分とかからない。
そうなると選択の幅も自然と広がる。
学校のレベルの高さというのもあるが、なによりあそこにはレイとアスカという人類にとって英雄がいる場所だ。
憧れや野次馬的感情で生徒が集まる。
ユミは倍率の高くなったそこをクリアした優秀な生徒だ。
ここまでの事情ならシンジは行くのをためらわない。
もう一つの理由はネルフの職員の数名が学校の教師として仕事をしているところにある。
平和となった今の世界にとってネルフはそれほど人材を必要とする機関ではない。
必然と減少されたがその中にはミサトも入っていた。
彼女が必要ないということではなく、チルドレンの護衛という形でミサトは教師として学校にいる。
実戦経験に富んでいる者は大半が第三新東京市立第壱高等学校へと勤務していた。
ネルフの仕事も兼用ではあったが。
ここで気になるのはなぜ護衛が必要になるかということだろう。
平和になり、満たされたといってもそれは一時的なこと。
人は欲と言うものを常に持ち続ける。
日本にあり続けるエヴァについては未だに手に入れようとする国が多々あった。
当然それを動かすチルドレンも。
したがって学校へ行けばネルフの面々と顔をあわせることとなってしまう。
『もう二度と僕に関わらないでください。』
と面を向かって言った以上自分から行くことには抵抗がある。
む〜っとしばし考え込んだ結果、
「無視すればいいかぁ」
といったなんとも簡単なところで自分を納得させる。
指針が決まったなら早速とばかりに行動を開始した。
弁当を片手で掴むとカウンターの後ろに座っているノブタカへと声をかける。
「ノブタカさん、これからユミちゃんにお弁当を届けに行ってきますね」
「おお、行ってこい行ってこい」
手をひらひらさせ、早く行けといった表示を見せる。
(ん…届けに行く?)
冷静に考えたらそれはまずいということに気づく。
慌てて新聞を閉じると急いでシンジに呼びかける。
「ちょっと待てぃ、シンジ!」
「なんですか?」
「これから行く気なのか?」
「ええ、そうですよ」
のほほんと応えるシンジにノブタカは頭を抱えるばかりだ。
ここで行かれては困る、非常に困るのだ。
「もうすぐ昼時だろうが〜、そのこと分かってるんだろうな」
「それはもう嫌ってほど分かりますよ」
思い出すは初日の出来事。
料理をすることには慣れていたが、それに早さが加わると話は別。
途切れなく来る注文を覚え、短時間で調理をはじめる。
まさに猫の手も借りたいという状況だった。
「それを分かっていながらお前は行く気なのか〜」
「男には行かねばならぬ時があるんです!」
まったく答えになってないことを言うシンジにノブタカはうなだれるしかなかった。
混雑時の店内は一人でやるには厳しすぎる。
それにシンジの料理目当てで来る客も多いのだ。
ノブタカの料理は決してレベルが低いわけではない。
家庭料理より抜き出て、お金を取るに足るものだ。
シンジの料理もまた同じだが、少々味付けが変わる。
人の好みはそれぞれでシンジの味を好むのもまたいた。
ちょっと憂いのある少年が作るということで来る客もいるのだが。
ともかく、この時間帯にシンジに抜けられることは痛いということでしかない。
ここで引き下がっては自分への負担が大きくなるだけだった。
「雇い主を見捨てる気なんだな…」
どこか悲しみを込めた表情で俯く。
初対面なら騙されるところだが、伊達に毎日顔を会わせている訳ではない。
(見え見えですよ…ノブタカさん)
内心ほくそえんでいることが手にとるように分かる。
狙ってやっている分性質が悪い。
だからシンジは見捨てることにした。
「僕は…僕は…」
「ん……?」
「ノブタカさんのようなおじさんよりユミちゃんのような女性をとります!」
「なにぃ!」
「おじさんより可愛い娘をとる思春期の男の気持ちを分かってください!」
納得できるような納得できないような答えを放つ。
返答を聞くまでもなく、ドアを開けて外へと向かう。
普段からは考えられないようなスピードでシンジはドアを抜けていった。
「この裏切りものぉ〜〜〜」
ドアが閉まる直前、そんなノブタカの絶叫が聞こえたような気がした。
たとえ聞こえたとしても、今の状態ならあえて聞かなかったことにしていただろうが。
引き止めるノブタカを振り切り(?)、リニアを経由してシンジは第三新東京市へとついていた。
数日前に拉致同然に連れてこられた場所。
懐かしさこそ覚えるが特に気持ちは揺るがない。
そう割り切ったことなのだから。
「ノブタカさんのためにも早く帰らないとね」
本気で言っているのか分からないが、方向を間違えることなくシンジは学校へと向かった。
そこで危惧したとおりの出来事が起こるとは知らずに。
あとがきというなの戯言
O:60000HITだっけ?(爆)
R:あなた何してるの(怒)
O:おお、いきなりの登場。
R:さぼっていたのね…
O:うぐぅ
R:ごまかしてもダメ
O:だって今月は他のコンテンツ強化月間だし…
R:やるべきことをやらない人はダメなの。
O:ごめんなさい。
かわりに次の話はレイちゃんがいっぱい出ますので。
R:本当?
O:本当です。だから僕を許してよ〜ダダダ!(ダッシュで逃げる)
R:…(怒)
S:出番ない…
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