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 ヴァイオレット奇譚「Chapter40・"終わりのカーニバル"」



 始まりは、ある村に生れ落ちた一人の赤ん坊だった。

 そこから全てが始まり、時は流れ、末裔どもが涙を流す。
 それを黙って眺め、いつまで続くのだろうと始まりの赤ん坊は考える。
 遠い昔、同胞の若い青年に出会った。彼は死を求めていた。 そこで、なぜ死なないのかと訊ねてみた。
 彼は少し考えた後、こう答えた。
――「愛した人を恨んだまま死ぬのは悔しい。この恨みが、晴れるときを待っている」
 そう聞かされたとき、真っ当にしか生きられないやつの愚かさを知った。

 彼は人である自分を取り戻そうとしていた。
 そうすることで、根深い恨みが晴れると思っていたのかもしれない。 随分な見当違いだと馬鹿にしていた。
 けれどある日気付いた。
 彼はきっと、ずっと許したかったのではないかと。
 恨みを晴らしたいと涙を流す青年は、妻を愛したいんだと泣いていたに違いない。
 どこまでも、彼女の罪をかばい続けているに違いない。

 それを知ったとき、真っ当にしか生きられないやつの悲しみに気付いた。
 人間とは、かくも悲しい生き物なのだと思い知った。
 だから教えてやった。
 その狂信的な愛を抱いている限り、お前の苦悩は続くぞと。
 必要なのは、断罪する強さではないと。
 青年が、随分と悲しそうに微笑んだのを覚えている。

 しかし、今また同じ言葉を投げかけたとして、果たして彼は微笑むだろうか。
 あの時と同じようにして、微笑むのだろうか。
 時は不変を許さないけれど、彼は、果たしてその事に気がついただろうか。



******



 マンションでのクリスマス・パーティーは深夜になっても延々続いていた。
 というよりは、ハンリエットと瑛士のデスマッチと言った方が正しいかもしれない。
 酔っ払ったハンリエットはとにかく性質が悪く、瑛士に絡みに絡み、やがてぷっつんして しまった少年が彼女に牙を向き、待ってましたとばかりにマシンガンを取り出したハンリエットに 意味もなくシリルが加勢し、万莉亜が「武器をしまいなさい」と壊れた人形のように叫び続ける。 その横で我関せずのクレアとルイスは「結構いけますね」とケーキをパクつく。
 騒がしいだけで円満とは程遠く、一人で事態を収拾させようと奮闘するのも 馬鹿らしくなった万莉亜がプンプン怒ってベランダに行ってしまっても、両者は気付きもしないで 殺し合いを続けるものだから、がっかりと肩を落としてその様子をベランダから眺めた。
 死なないという前提を持った体同士のデスマッチは、生ぬるさが一切なく、見ているだけで食欲が失せる光景だった。
――まったく……
 飾り立てたツリーが引っくり返ろうが、チキンに血が飛び散ろうが誰も知ったこっちゃないといった様子だ。
 しかし一番悲しいのは、それに慣れ始めている自分かもしれない。 好きなだけやれば、と開き直ってしまうくらいの余裕がある。もちろん、 そうしないでくれるのが一番好ましいのだけど。
――来年は私が仕切ろう。絶対そうしよう……
 今回は言いだしっぺの瑛士が仕切ったことにより、「新参のくせに生意気だ」と ハンリエットがいちゃもんをつけたのがきっかけだった。 来年は、同じ過ちを繰り返さないようにしなければ。
 そこまで考えて、ふと気がついた。
 あんなに忌み嫌っていたこの日の、来年のプランまで考えているその不思議に、そしてその気楽さに 驚いた。
「…………」
 何とも言いがたい胸の締め付けを感じて、室内に背中を向け、夜空を見上げる。
 さらに驚くべきことは、この日に胸を痛めない自分に、僅かな切なさを感じていることだ。 傷みよ去れと願い続けていたのに、いざとなると寂しいだなんて、心は、どこまで複雑なのだろう。
「万莉亜」
 振り返るとクレアが立っていて、言いようのない焦燥感に駆られていた心が静まる。 これでいいのだと、そう感じることが出来る。
「こんなところで何やってるの?」
「……避難してるんです。クレアさんが、あの二人を止めてくれないから」
「あれはもう手がつけられないよ。そんなことより、僕は約束があるから今からちょっと出かけなきゃならないんだけど」
「えっ……」
 よく見れば、彼は小脇にコートを持っている。 こんな夜中にどこへ、と訊ねる前に彼がそのコートを万莉亜に手渡した。首をかしげながら受け取り、よくよく 確認してみると、それは万莉亜の白いコートで、ますます混乱が深まる。
「君も連れてくるように言われてるんだ」
「…………」
「今日を、一緒に過ごさなきゃいけない人がいるだろ?」
「……あ」
「約束したんだ。万莉亜を連れて行くって」
「クレアさん……」
 泣きそうな声で呟く万莉亜の手をとってクレアが歩き出す。
「……本当に、おばあちゃんと仲が良いんですね」
「まあね」
 背中に投げられた言葉に誇らしげに返事をすると、彼は腕時計に目を落とした。 時刻は十一時二分。ゆっくりしすぎたなと思いながら、「出かけてくる」とルイスにだけ告げてそのまま 部屋を後にした。
 それから万莉亜を車に詰め込み、青は進め、黄色は進め、赤は気をつけて進めの好き勝手な交通ルールを遵守しながら、 一時間四十二分の奇跡的なタイムで病院前駐車場へと到着する。
「……ダメだったかぁ」
 ちらりと腕時計に目を落としそう呟いた後、助手席でいまだにぎゃあぎゃあと彼の運転に文句をつけている 万莉亜の腕を引っ張って院内へと向かう。 とっくに閉まっているはずの入り口には、昼間しっかりと命令しておいた夜勤の看護婦が 待ち構えていて、二人の姿を見るや否やそこを開け放った。
「ク、クレアさん! 今の看護婦さんに変なことしましたねっ?」
「ちょっと協力して貰っただけだよ」
「そういうの、むやみやたらにするの良くないですよ!」
「以後気をつけるよ」
「それとさっきの運転ですけどね……!」
「以後気をつけるよ」
 そんなやり取りを続けながら目当ての病室前に辿り着く。
 さすがの万莉亜も、他の患者さんを起こしてはいけないと口をつぐみ、ゆっくりと息を吐いて気持ちを 落ち着かせた。
「……おばあちゃん、もうとっくに寝てるかも」
「どうだろう。一応待ち合わせはしてるから、起きてるんじゃない? たっぷり遅刻したけど」
「…………」
 ためらっていると、クレアが繋いでいた手を放し、万莉亜の背中を押す。
「え……ク、クレアさんは?」
「僕はここで待ってるから」
「……でも、せっかく来たのに」
「水入らずで、ゆっくりしておいで」
 そう告げて静かに戸を引き、まだ戸惑っている万莉亜を微笑みで促す。
「待ってるから」
「……ありがとう、クレアさん」
 泣きそうな顔で微笑んで、万莉亜が病室の中へ消えていくと、彼はそっとドアを閉めた。

 当たり前だが、病室の中の患者さんは全員すでに就寝していて、けれど カーテンを引かれた窓際の祖母のベッドだけが、淡い光に包まれていた。音を立てないように すり足で近寄って、カーテンをそっと引いてみる。
「万莉亜」
 ベッドに横たわっていた祖母が、穏やかに微笑んで彼女を手招きしていた。
「おばあちゃん……」
 ベッド脇にあるランプのオレンジ色をした光が、淡く祖母の輪郭を照らす。 それは穏やかで温かみのある表情を、より優しいものに演出していて、 万莉亜はどうしようもなく甘えたくなる心をぐっと堪えてベッドの横に座り、祖母の手を握った。
「……待っててくれたの?」
 そう訊ねても、祖母は微笑むだけだったけれど、多分、ずっと待っていてくれていたのだろう。
「冷蔵庫に、ケーキがあるから」
 ふいに祖母が脇にある小さな冷蔵庫を指して万莉亜に開けるよう促した。
「クレアさんが、昼間くださったのよ。万莉亜と一緒にどうぞって」
「……そうなんだ」
 開けてみれば、そこには大きなケーキの箱が狭そうにぎちぎちと納まっていて、 苦労しながら取り出して蓋を開けてみる。
 するとケーキ職人の意地を感じるほどに 細かくデコレーションされた見た目の華やかなホールケーキが現れて、万莉亜は思わず感嘆のため息を零した。
「……うわ。細かいお花が……これすごい」
 視力の衰えた祖母に万莉亜が興奮気味にディティールを伝えると、祖母は驚いて目をパチクリさせ「まぁ、すごい」と繰り返す。
「食べるのがもったいないわねぇ」
「……た、高そう……」
 万莉亜の本音に祖母がクスクス笑い、それから冷蔵庫に用意されていたナイフで小さく二つ切り分けると、 二人は黙って黙々とケーキを口に運ぶ。何か話さなければとは思わなかった。
 二人にとってのクリスマスとは、ただただケーキを黙々と食べる日なのだ。無理に明るく振舞う必要はない。 だけど悲しみに打ちひしがれる必要もない。
 だから今夜も、通例どおりケーキを黙々と食べて、「美味しかったね」と笑い合えればそれで上出来。 祖母は、フォークに残った生クリームを舐める孫娘を幸せそうに眺めていた。
「……今日ね」
 フォークを口に咥えたまま、万莉亜がぽつりと切り出す。
「今日、お墓参りに行ってきたの」
 そう口にした瞬間、祖母が少しだけ目を見開いた。 けれどそれも一瞬のこと、すぐにいつもの穏やかな表情に戻り、「そうなの」と言葉を返す。
「私……お線香を忘れちゃって、そしたらクレアさんが来てね、お線香貰った」
 言い終えると、祖母はケラケラと笑う。
「何にも言わないで分けてくれたけど、あの時、すごく呆れてたと思う」
 言いながら万莉亜も笑う。あの時の彼の苦笑いを思い出して、可笑しくなってしまった。
「よく場所を覚えてたね」
「……うん」
「随分と汚れてたでしょう」
「うん。ぴっかぴかにしてきたよ」
「そうなの。おばあちゃんもそればっかりが気になってね。でも 万莉亜が綺麗にしてくれたのなら良かった。お父さんもお母さんも、喜んでるね」
「…………そうかな」
「そうだよ。当たり前だよ」
「……死んだ人は、もう居ないんだもん。お墓が綺麗だって汚くたって……変わらないよ」
「万莉亜……」
 ぎゅっとフォークの先を噛み締めて、先に逝ってしまった両親に怒りをぶつける少女を 祖母は見つめた。当然のことだ。彼女には怒る権利がある。望まぬ死だったとしても、 避けようのない悲劇だったとしても、彼らが幼い我が子を残して逝ってしまった事実は変わらない。
 けれど、彼女がこんな風に感情を吐露したのは、一体いつぶりだろうか。
 祖母は躍り出す心を抑えた。
 何かが、変わり始めている。
「万莉亜が今日、お墓参りに行こうって決めただけでも、お父さんとお母さんは嬉しかったに決まってるよ」
「……」
「涙を流して喜んだはずだよ」
 言いながら祖母の瞳から涙が一筋零れるから、万莉亜もつられて込み上げてくるものがある。 けれど、どうにかしてそれを飲み込み、まだたっぷり残っているケーキをもう一切れ切って食べ始める。
 今日はこうしてケーキを食べる日なのだ。いつも通り「おいしいね」と言って食べる。泣く必要なんて、 どこにもない。それなのに、最後のひとかけらが喉を通り過ぎる頃にはもうボロボロと涙が零れていて、 万莉亜は嗚咽しながらそれを飲み込んだ。
 今日は、誰も浮かれる幸せな日。けれど万莉亜にとっては、突然両親を失った何よりも悲しい日。
 ずっと気付かぬ振りをしていたけど、祖母が泣いてしまったから、堪えることが出来なかった。
「……また行ってあげてね。きっと、喜ぶから」
 優しい声色で言われ、口を固く結んだままコクリと頷く。
「……来年は、一緒にパーティーしようね。おばあちゃん」
 涙を拭いた万莉亜が、フォークをかじりながらもじもじと言えば、 祖母は視線を窓の外に投げ、「そうね」と呟いた。
 来年。来年のクリスマスは、心躍らせながら迎えることが出来る。 こんなに満たされた人生が、他にあるだろうか。再び込み上げてくる涙を 堪えて、じっと窓の外の暗い景色を見つめる。
 しんと張り詰めた空気の中の、グレーの夜。
 そのなだらかな光景を、祖母はもうほとんど見えてはいない目でただ見つめていた。

 たくさんの四季を生きてきたから、見えなくとも知っている。窓の外の景色がとても美しく、 それは日々姿を変えて彼女の前を通過していくこと。
 目を過信してはいけないと、愛しい孫娘に伝えきたつもりだ。 見えているものが全てではないのだと、繰り返してきた。
 知らないことがたくさんあるのだ。絶望を決め付けるには、お前はあまりにも無知なのだと、繰り返し、繰り返し。 それが届かない日もあれば、届く日もあった。
 やがてこの世の全ての変化が、この子にもしっかりともたらされた。
 その恩恵を、やがて万莉亜が忘れてしまっても、自分が覚えていようと誓った。 怒った神様が、もう二度と彼女に意地悪をしないように、自分が覚えていようと誓った。
 もうすぐあの夜から、六年が経つ。
――良かったね……本当に良かったね
 雲の上で微笑む我が子らに、そう心で語りかけて微笑む。
 涙を流して喜んでいるに違いない。



******



 目元を真っ赤にして病室から帰ってきた万莉亜を、クレアは微笑んで迎えた。
 それから驚くことに優に一時間は助手席で泣き続ける彼女に、どうしたものか 上手い言葉も見つけられず、黙ったまま運転席から空を見上げていた。
 彼女にとっては、色々と物憂げになってしまう日なのだろう。
 知ったのはごく最近、万莉亜の祖母がぽつりぽつりと語りだした過去の事件を聞いて、 何となく、初めて出会ったあの日、理事長室のクローゼットから真っ青な顔をして出てきた 万莉亜の表情がよぎった。
 あの時、人工のロボットのようにして表情を切り替える彼女のその不自然さに、 人間らしくないと不思議に思ったことを覚えている。
 けれどあれは、彼女の意志の強さだ。
 こうあるべきと決めた自分を貫き通す強さ。 本当の自分がどんなものでも、強く、いつでもニコニコと笑っている自分が自分であると決めた彼女は、 痛みなどおくびにも見せずにそれを演じきっている。
 そんな強い生き方は、真似できないと思った。

 けれど今日は、今夜だけは違うのかもしれない。
 だから瑛士がパーティをするべきと騒ぎ出しても、ハンリエットが暴れだしても、 止めることはしなかった。騒がしいほうがいいと思ったからだ。 多少やりすぎた感は否めないが、これで正解だったのだろうか。 痛みは、最小限にとどめられたのだろうか。
 分からない。
 こんな風に、誰かの感情や心に深く探りを入れることなど、その上手い方法など、もう忘れかけている。

「……クレアさん」
 やっとのことで万莉亜が声を発する。疲れ果てているのか、声が掠れていた。
「あの……ティ、ティッシュ……ありますか」
「どうぞ」
 今か今かと待機していたティッシュケースを彼女に手渡す。 万莉亜はそこから数枚引き抜いて、豪快に鼻をかむと、泣きつかれてしわくちゃになった顔を 持ち上げた。
「こんなこと、前にもあったよね」
 クレアがぽつりと零した言葉に、ティッシュケースを抱えたままぼんやりとした表情の相手が首をかしげる。
「君と初めてあった日」
「……あ」
 ようやく思い当たったのか、万莉亜は情けないといった表情で力なく微笑んだ。
「何だか、かっこ悪いところばっかり見せてますね……」
 へへ、と笑う彼女にクレアがゆっくりと首を振る。
「君はかっこいいよ」
「……またそんなことを」
「そんな所に、憧れてるんだ」
「…………」
 ティッシュケースを抱えた万莉亜の手元に視線をやりながら少し難しそうな顔をしている クレアに、万莉亜もかける言葉を見失う。 今彼の目の前に、二つの選択肢が浮かぶ。それが、万莉亜にも見える。
 誰だって、人間だって、そうではないものだって、こうやって迷いながら生きているのだろうか。
「……もう聞き飽きただろうけど、僕と一緒にいることは、あんまり幸せなことではないからね」
「…………」
「結婚だって出来ないし、子供も作れない」
「はい」
「本当に分かってる? 君は勢いで物事を判断するから……」
 即答する万莉亜に少し呆れたように視線を上げる。表情はとても 疲れていたけれど、万莉亜の瞳に迷いは見当たらなかった。
「いつかするかもしれない後悔を、今から心配するなんて、馬鹿げてます」
「…………」
「だいたい、人間の一生は短いって言ったじゃないですか」
「言ったけど……」
「一緒にいましょうよ。きっと楽しいと思いますよ」
 そう言って、目を離せばすぐに逃げ腰になる彼の手を握る。
 分かっている。
 こうやって何度も確かめるのは、万莉亜に逃げ道を用意してやりたい彼の優しさだということ。 だけど、そんなものは必要ないのだと、あと何回繰り返せば、彼は気付いてくれるだろうか。
 そう思って目を閉じれば、少しだけ慣れ親しんだクレアの冷えた唇に触れて、心に 暖かい灯がともる。
 何万回と繰り返したっていい。
 今の彼には見えていないものがあるはずだから、しつこい愛が、いずれは 彼の視界を開く。祖母が自分にしてくれたように、教えてくれたように。誰だって絶対に、 同じ景色には留まれないことを、いずれ知ってくれたらそれでいい。
「…………」
 長いキスの後、そっと目を開ける。
 薄暗い車内の中、ルームランプの白い光の下に見える 彼の頬は、気のせいか僅かに赤く染まっている気がして、至近距離での照れも忘れ思わず万莉亜が目を凝らす。
「クレアさん、何か顔が赤……」
「さぁ帰ろうか」
 びしっと遮り、まだ疑うように横から覗き見る万莉亜の視線を無視してクレアがキーを回す。 やがて隣からクスクスと零れ始めた笑いに文句をつけようかとも思ったが、墓穴になりそうなのでやめておいた。
「みんなまだ騒いでますかね」
 涙も枯れてすっかり上機嫌の万莉亜が流れる窓の外の景色に目をやりながら訊ねる。
「どうだろう。さすがにもう終わってるんじゃないかな」
「そうですね……うわ、三時過ぎてる」
 車内にある時計を見て万莉亜が仰天する中、行きよりは幾分 速度を緩めて車は帰路を辿る。
 明日に怯えるなと主張しながら気楽に微笑む少女と、それにつられてしまった 異端の若い青年とが、一つの夜を終える。
 幸せな結末を望むでもなく、やがて来る絶望に怯えるでもなく、ただ何となく、今を一緒に生きようと約束をした二人が、 終わらなかったはずの苦悩に、知らず知らずと終止符を打つ。
 過去が変わらなくても、恨みが消えなくとも、痛みが悲しくとも、それら全てが心を蝕んでいても、 やがて訪れる新しい何かが、いつかはその視界を開くぞと時が告げて、パーティーが終わる。
 永い夜の果てにまた新たな幕が開いても、そんなことは知らぬそぶりで、しっかりと二人、手を繋ぐ。



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